白い夕月 紫苑
ずいぶん久しぶりにタツキに会った。ホテルのあたりをうろついてるのを見かけることは時々あったけど、こうやってきちんと向き合って顔を合わせるのは半年ぶりくらいだろうか。
この男とのセックスの記憶がじわりと身体の中を横切る。上手い下手と言うより、切実なセックスをする男だった。足の先から頭の先まで、身も世もないほど触れて舐めて噛んで確かめるような。
あれでは女も男も誤解する。愛されているような気がしてしまう。あの男が抱いているのは特定の誰かではなくて、男でも女でもそれ以外でも、一晩身体を貸してくれる相手なら誰でもいいのに。それは私も同じで、別にタツキじゃなくてもよかった。だからなんだかんだで三年以上セックスフレンドみたいな真似をしていた。まぁ、フレンド部分はあってないようなものだったけれど。
「一人なの? 珍しいわね。」
「最近性欲減退してるんですよね。」
「死ぬんじゃない?」
「紫苑さんもそう思います?」
「まあねぇ。」
たまたま通りかかった駅前広場。噴水の周りに設置された木製のベンチの一つにタツキが座っていた。非常に目立つ男なので、昼下がりの駅前を行きかう主婦らしき女たちが示し合わせたように振り返っては視線を投げて行く。
今更昔のセフレの隣に座るのもなんだかな、という気がして、私はベンチから一歩離れて立ったままだ。タツキも座れとは言わない。
相変わらずきれいな面をしている、と素直に思う。10代の頃から15年近く水商売をやっているので顔だちのきれいな男も女も腐るほど見てきたけれど、タツキはその中でも群を抜いて造型が整っている。
「あんたに本命ができたって話、聞いたわよ。」
「誰からですか?」
「あんたのセフレ。態度が明らかに変わったって。」
「慧眼だなぁ。」
「あら、正解なの?」
「相手にされてないんですけどね。」
「あんたが?」
「既婚者なんです。」
「そんなの気にするたちじゃないでしょ。」
「気になりますよ。本命だから。」
そんなことをらしくもなく崩れた口調で言って、タツキは自嘲気味に笑った。
似合わない顔をしている、と思う。ゴミみたいなヤリチンでも、タツキはだらしがなかったり崩れた匂いがしたことはなかったから。
そんなに面倒な相手につかまったのか、といささかの興味がわいて、私はタツキの隣に腰を下ろした。
「見てみたいんだけど。」
タツキは私の方にちらりと視線を投げ、迷っているような素振りを見せた。それも彼にしては珍しいことだった。以前は何度か、セフレの中で気に入っている子がいると言って、私にその子を見てくれと頼んできたこともあったのだ。自分は見る目がないから、と不安そうに。その度に私はその申し出を拒んできた。タツキとセックス以外の何かをする気にはなれなかったからだ。うつくしい男で、性格だって頭だって悪くはない、それでも、いや、だからか、私はタツキとベッド以外の場所を共にしないように気を付けていた。
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