そこからタツキとなにをしたかと言えば、まあセックスに決まっている。あいつはセックス依存症だ。自覚はないんだろうし、教えてやる気もないけど、確実にそう。それ以外に自分の価値はないと心の底から思っているし、それ以外で他人とコミュニケーションをとることが出来ないと思い込んでもいる。多分、あいつからセックスをとりあげたら3日か4日で発狂するだろう。どうしようもないくらい、そういう男。

 私がタツキにその病理を教えてやらない理由は、もう自分でも嫌になるけれど、確実に独占欲だ。セックス依存症がいつまでも治らなければ、タツキがセックス以外の方法で関係を維持している人間は、この世に私一人しかいないままだから。

 醜いな、と思う。芯から自分が嫌いになる。それでも私はタツキをメンタルクリニックに連れて行こうとは思わない。どうしても、タツキの性交渉以外でつながっている唯一の他人のポジションを失いたくないのだ。

 「美晴。」

 私の部屋で私のクッションを枕に私のカーペットに寝そべったきれいな男が、私の顔を下から窺うように見つめてくる。嫌になるほどきれいな黒い瞳。

 「清水さん、見てみてくれない?」

 「は?」

 「俺、よく分かんないんだよな。」

 「なにが?」

 「清水さんのこと。……っていうか、見る目無いっていうか、よく分かんないっていうか。」

 「……バカ。」

 「知ってるよ。俺、セフレ以外みんなちょっと怖い。」

 私も? とは訊けなかった。そうだよ、と言われたら落ち込むし、そうじゃないよ、と言われたらもっと落ち込む。そうじゃない理由を、私がもともとタツキのセフレだったから以外どうしても思いつけない。

 知り合ってからの半年くらい、馬鹿みたいにタツキと寝た。

 怖かった。ずぶずぶ嵌っていく肉体も、肉体以外でどうやってタツキとつながれるのか全然分からないことも。

 それでもどうにかこうにかセックスの頻度を減らして、合間合間に綱渡りみたいに会話を重ねて、四苦八苦しながらここまで来た。馬鹿な女と言われたっていい。タツキが誰と寝ていたって平気だ。でも、タツキが私以外に誰か、セックス抜きにそばにいられる人を手に入れたとしたら、私はその誰かを殺すかもしれない。

 「……見てみるって、ほんとに見るだけしかしないよ。」

 「いいよ。美晴は見る目ある。」

 「ないよ。」

 だって、あんたが好きなんだから。

 タツキは無防備に寝返りを打って私の膝先までやってきて、にこりと笑みを浮かべて見せる。

 「美晴の彼氏、ほんとにいい人だし。」

 そうだね、と私は答えた。そうだね、高宏はほんとにいい人だね。

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