第六話 あなたの秘密を知ったら 1

 結局、リゼットの推理は当たっていた。


 ソリド銀行の頭取は賭博で大負けしたせいで、客から預かっていた財産に手を出し、銀行の経営は破綻寸前だった。


 そこで彼は「首都で窃盗事件を起こし、財産をソリド銀行に預けさせるように誘導する」作戦を思いついた。


 そのために魔法使いを初めとして、かなりの数のならず者が雇われた。


 仲間を失ったため作戦を切り上げ、預けられた財産を持って外国に逃げる予定だったようだ。




 犯人を当てたお手柄ということで――リゼットは全署員の前で表彰された。


「リゼット・ルーメン。今回はよくやった。報酬として――第四課の課長に昇進させる!」


「えっ、無理です!」


 思わず断ってしまい、皆の爆笑を誘った。




 しかし、別にリゼットは笑わせたくて断ったわけではなく、本気で断ったのだ。


「なんで受けなかったのよ?」


 第四課の部屋に戻るなり、ミランダに詰め寄られる。


「無理だよ……。あたしは経験年数も少ないし。課長って柄じゃないし。大体、ヴァンデンス様がいなかったら、あの場は……危なかった」


 リゼットの推理は当たっていた。


 だが、敵の人数を見誤っていた。だから第四課と第二課の一部だけでいいと十人で踏み入ってしまった。


 自分の推理が外れていたら、と思うと怖かったのかもしれない。第二課を総動員してくれ、と言えなかった。


 でも、言うべきだった。


「えー。そんなことで? 結果がよかったから、いいんじゃないの? ヴァンデンス様の同行は決まってたんだし。大体、あんた以外に課長の適任いないわよ。あたしはともかく、エルは頼りにならないし」


「ミランダさんに言われたくない!」


「なによ」


「ケンカ売ってきたのはそっちでしょ!」


 ふたりが口論を始めたので、リゼットは「まあまあ」と手を挙げてふたりをなだめておいた。


 リゼットが受けなかったので、第四課の課長は第二課の課長が兼任することなった。


(それで、いいと思う)


 まだ自分には早いと痛感していた。


 いきなりノックの音が響いて、リゼットたちは姿勢を正した。


「――どうぞ?」


 促すと、第二課の課長である、恰幅のいい男――ゾフが入ってきた。


「失礼。署長から、君たちへの通達を預かってきた」


 そして彼の後ろから入ってきたのは、ヴァンデンスだった。


 相変わらず表情がないが、どこか和やかな空気をまとっている――と思うのは、リゼットの気のせいだろうか。


「魔法が絡んだ事件は、普通の警官だけでは解決が難しい。しかし、此度の件を受け、専門の部署を作るべきだと課長一同と署長は判断。陛下の許可も出た」


 ゾフは一呼吸置いて、大きな声で続けた。


「そこで、引き続き宮廷魔術師ヴァンデンス・ルーメン様に協力してもらい、第四課は彼と共に魔法がらみの事件に解決に当たるように!」


「了解!」


 戸惑いながらも、ゾフが伝えた指令にリゼットたちは敬礼で答えた。




 そういうわけで、第四課の担当が決まった。


 魔法がらみの事件担当――である。




 なんとなく心が軽くなって帰宅する。


 今日は珍しくヴァンデンスと一緒に夕食となった。


 相変わらず会話らしい会話がないが、空気が嫌いじゃないのは、どうしてだろう。


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