08話 エルフェンリル家の指輪
「ラウディオ、私は自分の話をしました。記憶を取り戻す協力してくれるのか、答えをください」
そうだな、元々はその決断をするためだ。
リヴィアが勇者になった経緯と、リマリア王国を頼れない理由、そして俺を頼る理由を聞いた。
次は俺が答える番だ。
俺が答えようとすると――だが、リヴィアがその前に口を開いた。
「探し物をします、その間に考えてください」
「探し物?」
「はい、この部屋に指輪があるはずなのです」
「指輪、か」
「……実は、レガリアに来た理由の半分は、その指輪を探すためです」
そう言い、リヴィアは椅子から離れ、部屋の棚を漁り始めた。
引き出しを開け、奥まで覗き込み、そして次。
中に入っていた物は捨てるように放り、開けた引き出しはそのままだ。
まるで盗賊だな。
リヴィアの家だから何も言う気は無いけど……。
「ええ……っと、お父様はどこに……」
そして、指輪を探すリヴィアを見ながら、俺は自分の選択ついて考えていた。
リヴィアがリマリア王国を頼れない理由はわかった。
家族が生きていくため、リマリア王国にリヴィアが勇者ではないと知られないためだと。
じゃあ、リヴィアが魔族の俺を頼る理由はなんだ。
そもそもの話、勇者の記憶を取り戻すのに、魔族が協力するなんてありえない、普通は絶対協力しない。
俺がたまたま魔族と離れて生きているからそうはならなかったが、俺が魔族の誰かにこの事を伝える可能性は高かった。
それでもリヴィアが頼ってきた理由は?
友達だから? 信用しているから?
それもあるかもしれないが、1番の理由は別にあるはずだ。
多分、リヴィアにはその今のリヴィアの事情を隠し、協力してくれる人がいないのだ。
エルフェンリル戦争でそれも失ったのかもしれない。
だから、友人であり、あの森でバーレア達魔族と上手くいっていないような態度を見せた俺を頼った。
頼れる人が俺しかいなかった。
そして、そうなった原因は?
あのエルフェンリル戦争で頼れる家族を失い、勇者となり、家族のために生きる事になり、その勇者という立場を守るために俺を頼るしか無くなった原因は?
思考が繋がり、決意が固まる。
穴の空いた天井を見上げ、空の星を見た。
「……ミルゲット、ビリア、エド、ボーク、リリドディ、アントラ、お前達に繋いでもらった命……使い方を決めたぞ」
お前だけは生きてほしい。
皆にそう願われ、あの戦争から今日まで生きてきた。
生きるために、生きてきた。
だが、今日、俺はその生き方を変える。
この世界で、今はもう1人しかいない気を許せる人。
そのリヴィアの人生が俺のせいで変わってしまったのなら、俺はそのリヴィアの人生を少しでもいい方向に戻すための事をするべきだ。
他の見知らぬ誰かなら、生き方を変える事はしない。
だが、リヴィアのためならそれができる。
「たとえ、それで殺されることになっても……」
決意を固め、俺はリヴィアに近づいた。
「見つかりそうか?」
後ろから声をかけると、リヴィアは首を横に振った。
「どこかに保管されていると思うのですが……」
「エルフェンリル戦争の時、かなり攻め込んでいたからな。もしかしたら盗まれているかも……」
「そ、そうなんですね……」
落ち込むリヴィアに対し、俺は肩を叩く。
「だから、それでも残っているなら普通じゃ見つからないような場所に隠してあるのかもしれない」
「そう……でしょうか」
「大事なものならどこかに隠すだろ? 多分部屋のどこかにあるはずだ」
「そうですね、お父様ならそうするはずです! よし……棚をひっくり返してでも探しましょう!」
俺も協力し、部屋の端から探し始めた。
一応、まずは普通に棚や机の引き出しの中を探す。
そこを見落として実はありました、なんて嫌だからな。
「ちなみに、指輪ってどんなやつだ? 指輪だけどこかに……ってわけじゃないよな?」
「はい、小さな箱に指輪を入れているのを見た事があります。手のひらサイズの……青い箱でした!」
地球の物と似たような感じか。
まあ、それなら俺もイメージがつきやすい。
そうして、俺達は部屋の端から棚の引き出しを開けていき、指輪がありそうな場所を隅々から探した。
棚から執務机、それでも見つからず、棚の奥まで。
リヴィアなんて本当に棚をひっくり返してまで探していた。
だが、どこを探しても指輪の入った箱は無い。
「あとは、そうだな……」
俺は既に調べた執務机の引き出しに手を突っこんだ。
リヴィアの父親の机だ。
ここが1番可能性が高い。
引き出しに突っ込んだ手を動かしていると、奥の方で指が窪みに引っかかったのがわかった。
「当たりか……!?」
指を引くと、引き出しの中にもう1つ引出しがあった。
二重の引き出しになっていたのか。
スペースは小さい。
だが、その隠されていた引き出しには手のひらサイズの小箱が入っていた。
「お、おお……」
こ、これでいいのか?
いや待て、大事なのは箱よりも中身だ。
指輪だけが抜き取られている可能性だってある。
箱をゆっくりと開くと、そこにはたしかな輝きを放つシルバーの指輪があった。
「リヴィア、これだ! あったぞ!」
箱を掲げるように見せながら、俺は叫んだ。
すると、リヴィアがバッと振り返り、俺の手にある箱とその中の指輪を見る。
「そ、それ、それです!」
リヴィアは勢い余って転びかけながらも、部屋の中を走って俺の目の前まで来た。
「引き出しに隠されていたんだ、見つかってよかったな」
リヴィアに指輪が見えるように箱を渡そうとすると、リヴィアは俺の手を握ってきた。
そして、満面の笑みを浮かべながら俺を見上げた。
「ありがとうございます、ラウディオ」
手を握られるほど近づかれたせいで顔が近い。
こうして改めて見ると、やっぱりすごい綺麗だ。
ついリヴィアに見蕩れていると、目が合っていたリヴィアが首を傾げた。
「ラウディオ?」
「あ、ああ、……って、なんか俺がプロポーズしているみたいな格好だな、これ」
そう言うと、リヴィアは瞬きを繰り返した。
口をゆっくりと開くと共に顔が赤くなっていき――、
「っえ!? なっ、あっ……! たしかに、そうですね!?」
真っ赤に染まった顔で俺の手を握る手と、顔を何度も行き来しながらも、リヴィアの手はそのままだ。
その動揺っぷりに思わず笑いながらも、俺はリヴィアの手に指輪の入った箱を渡し、手を握り返した。
すると、リヴィアはさらに顔を赤くしながら口をパクパクとさせた。
「あ、あの、その……」
「リヴィア、絶対に記憶を取り戻そう」
「……! つまり……」
「ああ、協力する」
俺の言葉に、リヴィアはポカンと口を開けた。
しかし、すぐに笑みを浮かべると、赤い顔のまま頷いた。
「はい! これからお願いします、ラウディオ」
こうして、俺の先の道は決まった。
自分の命をかけ、敵であるはずのリマリア王国の勇者の記憶を取り戻す事が。
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