第十二話 魔王、リリスベルグ

《魔王――リリスベルグ視点》


 魔王。


 それは、この世界を裏から支配しようと企む者。




 そう、この俺リリスベルグは、圧倒的な魔力と指揮力を武器に、地道に勢力を広げていた。




「報告いたします、魔王リリスベルグ様」




 人の寄りつかない、山奥の某所。


 岩山を改造して作った城の、玉座の間にて。




 金と紺の装飾で彩られた玉座に座る俺の足下に、一人の配下が跪いた。


 伝令役の幹部――アフィスだ。




『守備はどうだ? クソッ垂れた勇者どもの足止めは上手くいっているのか』


「は。それにつきましては順調であります。最近、何かよからぬことがあったのか侵攻速度が低下している模様です」


『そうか』




 勇者パーティに何があったのか知らないが、これは僥倖ぎょうこうというものだ。


 何せ、魔王を倒すことを名目としている勇者と、真正面からことを構えようと思うほどこちらもバカではない。




 勇者どもはテキトーにあしらっておき、その内に奴等の目が届かない小国や村を攻め落とす。


 そうして外堀を埋めてから勇者を袋だたきにして、全世界を手中に収める。




 そう、名付けるならこれは――




『勇者もビックリ裏をかこう計画は、順調なようだな』


「そのバカみたいなネーミングやめませんか? せめて「YBU(勇者も・ビックリ・裏をかこう)作戦にしてくださらないと、こちらの士気が……」


『やかましい! カッコいいだろうが! 貴様ごときが魔王に指図するな!』


「カッコいいかはさておき……この作戦、守備が順調とは言いがたいです」


『む? なぜだ。勇者は足止めできているのだろう?』


「はい。勇者は――」


『では、誰が俺達の邪魔をしているのだ』




 俺は眉根をよせて、アフィスの言葉が紡がれるのを待った。




「――それは、申し訳ないのですが、判明しておりません」


『判明していないだと?』


「はい。ただ《集団使役》のスキルでニゴリガエルをF地点の小村に攻め込ませたあと、ニゴリガエルからの通信が全て途絶えました。その直前に、ニゴリガエルの群れは何者かと戦闘を行った模様。状況から察して、おそらくその何者かに全滅させられたのかと――」


『ばかな。全滅だと?』




 俺は、一瞬アフィスの言っていることが信じられなかった。


 ニゴリガエルは、これと言って強いモンスターではない。だが、とにかく動きが俊敏で数も多い。




 一つの群れは、少なくとも100体を越える。


 勇者パーティならともかく、並みの冒険者パーティが退けることは不可能だ。




『複数のパーティが協力して戦ったのか? いやしかし、F地点の小村に冒険者は一人も滞在していなかったはず……一体、どこにそれほどの戦力が』


「それについてなのですが……」




 アフィスは、苦虫を噛み潰したような顔をして、言葉を続けた。




「送られてきた情報から推測するに、ニゴリガエルの群れはたった一人の人間に殲滅させられたようです」


『ひ、一人だと!?』




 驚いて立ち上がった拍子に、玉座がガタンと音を立てる。




『……マジか』


「マジです」


『それは……激ヤバだな』


「ヤバみが激しいです」




 しばらく、二人の間を沈黙の時間が流れたあと、俺は玉座に座り直した。




『ごほん。とにかく、その件については理解した。もし、その相手が俺達の計画を妨げるようなら……容赦はするな』




 俺は、声のトーンを下げる。


 だだっ広い玉座の間が、濃密な闇で満たされた。




「御意のままに」




 アフィスは慇懃にそう答えると、闇の奥へ静かに消えていく。


 


『さて……これからどう動こうか』




 俺は、静かになった玉座の間で不敵に笑みを浮かべた。

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