第十一話 魔力量360万の一般人。
「焼き尽くせ!」
ブレスレットに刻み込んだ魔法陣が赤く発光し、紅炎がうねりを上げて放出する。
荒ぶる炎が、瞬く間にニゴリガエルの群れを飲み込んだ。
この魔法に名を付けるなら、灼熱の業火――インフェルノといったところだろうか?
熱と光が視界全体を真っ赤に染め上げる。
ニゴリガエルの輪郭が炎の揺らめきの中に溶け、崩れて消えていく。
やがて。
視界を遮っていた炎を消す。
当然、敵の群れは消滅していて、灰の一つも残されていない。
あとに残されていたのは、プスプスと黒煙が上がる地面と、水が全て蒸発してしまった沼のなれの果てだった。
なんというか、うん。
「……やりすぎた」
静まりかえった森の中に、俺の呟きだけが響く。
焦って出力調整をせずにぶっ放したとはいえ、これは――いささかオーバーキルではなかろうか?
危うく、森の生態系をぶっ壊してしまうところだった。
俺、結構な大魔法を作ってしまったんじゃなかろうか?
「いやいや、まさかね。レーネルなら、この程度お茶の子さいさいで撃てるだろうし」
レーネルというのは、パーティにいた凄腕の魔法使いだ。
小柄だが、
魔力だって、俺より遙かに高い。
確か、一般人の10倍魔力を所持している俺の、さらに10倍くらいだった気がするけど――正確な数値は覚えていない。
「そういや、俺のレベルって今どうなってるんだろう?」
ふと気になり、俺はステータスを開いた。
◆◆◆◆◆◆
カイル=グレイス
レベル:7→99
性別:男
年齢:16
魔力:100000→3480000/3600000
攻撃力:12→320
防御力:15→355
俊敏:17→400
運:30→55
スキル:《
アイテム:《短剣(風属性魔法エアカッター付与)》 《ブレスレット(火属性魔法インフェルノ付与)》 《回復薬》×7
◆◆◆◆◆◆
「ふぁっ!?」
俺は思わず変な声を上げた。
レベル99!? なんだそれ!
しかも最大魔力量360万って何!? レベル上がったら最大魔力量も増えるの!?
驚きすぎて、開いた口が塞がらない。
たぶん、ゴブリン・キングをぶっ飛ばし、回復薬を生成しまくり、200体近いニゴリガエルを殲滅した結果、膨大な量の経験値を得たんだろう。
「ま、マジかよ……」
今なら冒険者でもやれそうなものだが、生憎となるつもりはない。
だって、俺は帰りたい場所を得たのだから。
「戻ろう。きっと、スーが心配して待ってる」
「そういえば、なんで、ニゴリがエルは村を襲ったんだろう」
ふと、戦闘中思った疑問を思い返す。
ニゴリガエルは基本群れで行動するが、ほとんどの場合水の中で大人しくしている。
移動するのは、新たな濁った水場を求めるときくらいで、人里に降りてくることはまずない。
そもそも、自らニゴリガエルのテリトリーにでも行かない限り、襲われるなんて事はないのだ。
なのに――今回に至っては、相手の方から襲ってきた。
「一体、何が起きたんだろう……?」
俺は少し首を傾げ、「ま、いっか」と、秒で考えるのを放棄した。
無い知恵絞って考えても仕方ない。
どうせ突然変異かなんかだろう、だってカエルだし。
意味のわからない理論を自分の中で決定づけ、俺は帰路についたのだった。
――もちろん、この異変にはとんでもない事件が絡んでいたことは、知るよしもなかった。
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