第十話 ギリギリの戦い

「一体当たりは雑魚でも、この量が押し寄せてくるとなると、たしかにひとたまりも無いわな」




 俺は、冷や汗を流しながら呟いた。




 これが、冒険者達が多く滞在しているような大きな街や、警備が在中している王都であれば、話は違っただろう。




 けれど、襲われたのは人口100人にも満たない小さな村だ。


 防衛力を持たない、平和で小さな村なのだ。




 為す術無く蹂躙されたのも、納得と言える。


 とはいえ、明らかに違和感を覚えることが一つあるのだが――それを考えるのは後だ。




 今は、目の前の奴等に集中しなければ。




「やってやるさ。カエルの100匹や200匹……! どっからでもかかってこい!」




 俺は不敵に笑い、手招きをする。


 すると、挑発の意図を察したのか、ニゴリガエル達は一斉に大声で鳴いて、飛びかかってきた。




「うっわ! 見た目キモ!?」




 宙を舞い、突進してくる大量のデカいカエルの図。


 俺はそこまでカエルは嫌いじゃないが、相手は見た目がとにかく醜いモンスターだ。


 それが、津波のように押し寄せてくるとなると――うん。




 怖いよりキモいが勝る。




「エアカッターッ!」




 相手は複数。


 出し惜しみはしていられない。




 魔力が常人より多いという、一般人モブAとして唯一無二のアドバンテージを活かし、高威力の風の刃を解き放つ。




 余波で木々を揺らしながら、収束させた風の斬撃は突っ込んでくるニゴリガエルの群れを片っ端から斬り飛ばす。




 肉塊と化した敵達は、鮮血を撒き散らしながら宙を舞い、真っ逆さまに沼へ落ちていく。




「エアカッターッ! エアカッターッ!」




 仲間がやられても尚、まるで何かに取り憑かれたように突進をやめないニゴリガエルめがけ、二発目、三発目の斬撃を飛ばす。




 空中でバラバラになり、どんどんと数が減っていくニゴリガエル達。


 それでも尚、足を止めない。




「こいつら……ッ!」




 俺は思わず歯噛みする。


 これでは、こちらが全滅させる前に勢いに飲み込まれてしまう。




 広範囲殲滅用の魔法を作るくらいしか、打開策がない!


 だが――




「間に合うか?」




 魔法の創造には時間を要する。


 その間に接近され、蹂躙されてしまえば命はない。




「――いや、迷うな! 迷ってる時間は無い!」




 即座にリスクを飲み込み、俺は魔法の創造に取りかかった」




「属性は火。広範囲殲滅魔法の創造開始!」


『火属性殲滅魔法の必要材料を提示』




 火属性広範囲殲滅魔法(魔力注入、任意起動式)


 材料:魔力、術者の血液




 瞬間、魔法陣の形が脳裏に浮かぶ。


 ここまではいつも通り――なのだが。




「なっ!」




 驚愕に目を剥いた。


 魔法陣の構造が、いつもの数倍複雑だった。


 けれど、狼狽えたのは一瞬。




 指先を噛みちぎり、滴る血に魔力を混ぜて指を滑らせる。


 


 魔法陣の生成に集中する向こう側で、ニゴリガエルが肉薄するのがわかる。


 彼我の距離は瞬く間に迫り、戦慄と焦燥が心臓を締め上げる。




 はやく、はやく――ッ!


 心臓の鼓動が跳ね上がるのに合わせ、指がつりそうになるほど速く動かす。




 敵はもう目と鼻の先。


 瞬き一つで懐に飛び込まれる、そんなギリギリのタイミングで。


 遂に、魔法が完成する。




 それと同時に左手を突き出し、身につけていた金属製のブレスレットに魔法陣をエンチャント。


 全力全開で魔力を流し込み、広範囲殲滅魔法を起動した。

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