第七話 一難去って、また一難

 数分かけて、避難している村人全員を治療した。


 その結果――




「な ん で こ う な っ た !?」




 俺は驚愕に目を剥いていた。


 人間と獣人の老若男女が、ずらりとこうべを垂れている。


 まるで、一国をおさめる王様に忠誠を誓うがごとく。


 


 ――なんだこの光景は。


 おかしい。


 どう考えてもおかしい。




「この度は、お命を助けていただき、ありがとうございました」




 村長らしき村一番の長老が、頭を上げてそう言った。


 その目は一切の曇り無く、俺を見つめている。




 なぜだ。


 俺が向けられるのは、こんな忠義とか恩赦に満ちた視線であるはずがない。


 冷たい口調で罵られるか、唾を吐き捨てられるかの二択だ。




 俺がやったのは、回復薬で村人を治しただけ。


 むしろ、村人のために文字通り死にものぐるいで薬草をかき集め、俺という使える手札を見つけてきたスーの方に感謝すべきだ。




「いやまあ、スー……が困ってたから、ちょっと手助けしただけで。とにかく、皆さんが無事で良かった」


「おお! 絶大なる力を持ちながら謙遜をする……なんと懐の深い御方だ」


「……え。いや……え」




 ダメだ。


 どう弁明しても、崇め奉られる!




「せめて、何かお礼をさせてはくれないだろうか?」




 村長は、食い入るように俺を見つめてくる。


 俺は若干気圧されながら「では、お言葉に甘えて」とつい言ってしまった。


 ここまで感謝をされて、礼を受けないというのも失礼というものだ。




「ご所望のものがあれば、何なりと」


「とりあえず、この村に住まう許可が欲しい。あとは……そうだな。この村で商売がしたい。だからまあ、個人経営ができるくらいの家屋を一軒。別に古い建物でも、リフォームするから構わない。なにぶん、古巣を追い出されちゃってね。行く当ても帰る場所もないんだ」




 一文無しの無職ニートこと、俺である。


 この状況を打開するには、《創造者クリエイター》の成果アドバンテージを最大限活かせる職業に就くしかない。




 なんでも作れる=なんでも得ることが出来る。


 なんでも売っているお店……か。


 


 顎に手を当て、思案を続けていた俺はふと脳裏にスーとのやりとりを思い出した。




 ――「この村に雑貨屋はある? 空き瓶ありったけ欲しいんだけど」――


 ――「ご、ごめん。そういうお店はない……かも」――




「……決めた!」




 俺は、にっと不敵に笑い、拳を握りしめる。


 このチートスキルであらゆる商品を作って、雑貨屋をやろう! 今度は何者にも縛られない自由なスローライフを満喫するんだ!




「あの……カイル様」


「ん? どうした、村長」


「この村に住まう件は承知しました。ただ……何やら息巻いているところ恐縮でああるが、現状商売に関しては厳しいかと」


「それはなぜ?」




 村長は、近くの村人と顔を見合わせて言った。




「見ての通り、村は壊滅状態。しかも、いつまたモンスターに襲われるかわからない状態で……物資も人も、まるで入ってこないのが現状でして」


「……ふぇ」




 俺は改めてあたりを見まわす。


 なるほど……確かに、壊滅的被害。


 商売どころの騒ぎじゃない。




 村の復興をいち早くしなければならない上に、モンスターへの対策もしなければならない。


 俺は、今一度この村……いや、瓦礫だらけの土地を見て。




「うそだぁああああああああああ――ッ!」




 発狂した。


 


 はぁ~。


 俺はただ、静かなところで楽しく雑貨屋経営したいだけなのに、なんでこうも障害が立ちはだかるんだろうか。


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