第二話 初めての創作と、会敵

「これさえあれば、何でも作れるって……チートすぎだろソレ。こんなの、ホントにもらってもいいわけ? ……って、あれ?」




 気が引けて、レインボースライムに許可を取ろうとしたのだが。


 まるで最初からそこには誰もいなかったかのように、草が揺れているだけだった。


 狐につままれたような気分にさせられたが、確かにレジェンドランクのとんでもスキルを受け取った。




「……ま、いいか。せっかく貰ったんだし、早速試してみよう」




 手始めに俺は、作るのが簡単なものを連想した。


 


「俺がいつも作ってるやつ……回復薬かなぁ」




 ぼそりと呟いて、回復薬を連想する。


 すると。




『対象物の連想を確認。材料を提示します』




 そんな音声が、直接頭に流れ込んできて、同時に材料が頭の中に直接提示された。




 回復薬


 材料:薬草 ガラス瓶






「うお! なんか浮かんだ」




 俺は、頭に浮かんだ材料を集めることにした。


 幸いと言うべきか、薬草は野原にも普通に生えているものだ。


 


 すぐに薬草を見つけて引き抜き、レインボースライムが閉じ込められていたガラス瓶を拾う。


 それから目を閉じて、回復薬の姿をイメージしつつ「――作成クリエイト」と呟いた。




『調合を開始します』




 すると、ガラス瓶と薬草が輝きだし、輪郭がぼやけて光りの玉になる。


 光の玉は互いに溶け合い、雫型のシルエットを構築した。


 やがて光が収まると、瓶に入った回復薬が生成されていた。




「す、すごい! ホントにできた!」




 回復薬自体、作るのはそこまで技量の要ることじゃない。


 では何がそんなに凄いのかと言うと、一瞬でできてしまうことだ。


 本当なら、薬草を回復薬に仕立て上げるには相応の手間と時間を要する。




 薬草を干し、それをすり潰して水に溶け込ませて、じっくり成分を抽出する。


 本来そうやって作るものを、手順諸々すっ飛ばして完成してしまうとは。


 


 料理で例えるなら、調理工程全部を飛ばして作れてしまうみたいだ。


 つまり。




「このスキルがあれば、作り方を知らないものでも、材料があって完成形をイメージできれば、なんでも作れるってことなのか……」




 俺は、目を輝かせる。


 これからのスローライフに、必須のスキルを得たと言っていい。




「よっし! 張り切って誰にも文句を言われない、俺だけのセカンドライフを楽しむぞぉ!」




 腕を高く上げ、ガッツポーズをする。


 そのとき。




「きゃあああああ!」




 女の子らしき悲鳴が、遠くから聞こえてきた。




「な、なんだ!?」




 俺は、声のした方へ駆け出した。


 ほどなく、地面にへたり込んでいる女の子を見つける。




「だ、だいじょう……」




 声をかけるが、途中で喉の奥に引っ込んでしまう。


 女の子の奥に、巨大な影を見たからだ。


 その威圧感に、駆け寄る足は止まり、何の力もない足手まといのままの俺は、その場に立ち尽くしてしまう。




 影の正体は、ゴブリン・キング。


 ゴブリンが進化したモンスターで、パワーも防御力も、通常のゴブリンとは比較にすらならない。




 あのクソッタレ勇者なら一撃で倒せても、俺はただ魔力量が多いだけの一般人Aだ。


 魔法も使えない。


 剣も振るえない。


 持ってる武器も、安物の短剣と拳銃のみ。




 こんな状態で、勝てるわけがない。


 でも、ここでただ女の子が殺されるのを見過ごすのは、どう考えても違うだろう!




 俺は、仲間に見捨てられた。


 自分の弱さを知っているから、復讐しようなんて思わない。


 魔王は愚か、モンスターとの戦いも望まない。




 けれど。


 偶然にもチートスキルを手にして、嫌なことを忘れて、スタートを切った新生活。


 俺の幸せなスローライフに、後悔の二文字は必要ない。


 ゆえに。




「助けなきゃ!」




 一度怖じ気づいたが、そう判断を下す。


 だが、一体どうやって……? スキル《《創造者クリエイター》を利用して、現状を打破できないだろうか?




「何でも作れるなら……魔法の使えない俺が、魔法を使うことができるようになる魔法を作る!!」




 デタラメを言ってるわけじゃない。


 ちゃんとした理屈をもった上で、そう決めた。




「……その前に!」




 今まさに、女の子を殴り潰そうとしているゴブリン・キングの巨体へ火打石式拳銃フリントロック・ピストルの銃口を向け、引き金を引いた。




 パンッという乾いた音と共に、鉛玉がゴブリン・キングへ肉薄し――かつん。


 当然のように傷一つ付けられず、弾かれた。


 


「ですよねー!」




 だって、こんなの相手からすれば砂を掛けられたようなものだもん。


 俺は思わず、頬を引きつらせる。




 この世界において銃は弱い。


 剣よりも戦闘における柔軟性に欠け、魔法よりも威力が劣る。




 一般人が護身用として所持するだけのもの。


 ゴブリン・キングに効くはずもない。


 が、そんなことは百も承知。




 今の攻撃も、ダメージを期待して行ったものではない。


 だが、もう一度言おう。


 相手からすれば、砂をかけられたようなもの。




 モンスターに知性があるかなんて甚だ疑問だが、一つ言えるのは格下相手に鋭くもない牙で噛みつかれて、苛立ちを覚えないはずがないということだ。


 




『グアアアアアア!!』




 狙い通り、ゴブリン・キングは雄叫びを上げると、俺の方へ突進してきた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る