第三話 創作! 新たな魔法

「一先ず作戦通り!」




 俺は、硝煙しょうえんの上がる拳銃を片手に、肉薄する相手を見すえた。


 ゴブリン・キングに殴られるまでに、魔法を完成させなければならない。


 接敵までの時間を考えても、チャンスは一度きり。


 


 俺のスローライフは、始まった瞬間からハードモードだ。




「難儀上等!!」




 俺は、手早く魔法のイメージを構築した。


 魔法自体は、勇者パーティの魔法使いが使っているのを嫌と言うほど見てきた。


 なんとなくイメージは掴める。




「制作する魔法は、付与エンチャント式。魔力を注ぎ込んだあと、任意で起動できる火属性爆裂魔法!」




 人は魔法の才の有無に関わらず、大なり小なり魔力を有している。


 魔法が使えないというのは、魔力を、火や水などの物理現象に変換する能力がないことなのである。




 しかし、魔力を注ぎ込むだけで自動的に物理現象を引き起こせる魔法式を作ることができれば、話は別だ。


 魔法が使えない俺も、魔法が使えるようになる。




 問題は……魔力を注ぎ込むだけでよく、好きな時に起動できる付与エンチャント式魔法なんて、優秀な魔法使いが何人も研究しているにも関わらず、未だに実現していないものだという点だが。




「アイデア次第で何でも作れるっていうのなら、不可能を可能にして見せろ!」


『対象魔法の連想を確認。材料を提示します』




 火属性爆裂魔法(魔力注入、任意起動式)


 材料:魔力・術者の血液




 てっきり魔力が必要なだけかと思っていたが、血液も触媒として必要らしい。


 


「何にせよ、作成できるのなら好都合だ! 作成開始!」


『魔法の作成を開始します。提示されたガイドラインに沿って、魔力と血液を注いでください』




 音声と同時に、頭の上に六芒星の魔法陣が浮かぶ。


 今まで見たことのないルーンが刻まれた、複雑なものだが――




「これをなぞれば、目的の魔法が完成する!!」




 俺は、短剣で指に傷を付け、滴る血液と魔力を混ぜて、頭に浮かんだ魔法陣の形をなぞるように、空中で指を滑らせてゆく。


 やがて六芒星の魔法陣が完成すると、火打石式拳銃フリントロック・ピストルのグリップに、魔法陣を付与エンチャントした。




「完成! これを使って、ゴブリン・キングを……!」




 拳銃を握りしめ、俺はゴブリン・キングの方を見て――




『グォオオオオオ!!』


「って近ぁあああ!?」




 すぐ目の前に、豪腕を振り上げるゴブリン・キングがいて、俺はそう叫んだ。


 魔法の作成は失敗できないから、集中していたせいだろう。


 すぐ目の前まで迫ってきているのに、気付かなかった。




 ゴブリン・キングの太い腕が、無慈悲にも振り下ろされる。


 


「っとぉ! あぶな!」




 間一髪、その場から逃げ出して難を逃れる。


 体制を立て直し、土埃を払いのけ、俺は銃口に鉛玉を突っ込んだ。


 


 魔力注入で起動するタイプの爆裂魔法を付与エンチャントした以上、推薬は必要としない。


 推力は、俺の魔力で爆裂する魔法だ。


そして、その威力は――注ぎ込んだ魔力量に比例する。だから。




「ありったけの魔力を、魔法陣に込めて……ぶっ放す!!」


 


 体内に流れる魔力を作りたての魔法陣に注入すると、魔法陣が七色に輝いた。




「喰らえ!」




 再び襲いかかってくるゴブリン・キングの胸部に照準を合わせ、俺は引き金を引いた。

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