第18話 信じないママと謎を解く巻物
ママはキンキン声で「何なのコレはぁっ、ハスミ、ハースーミー!!」と叫んだ。
するとドタバタ階段をおりてくるハスミちゃん。わたしたちもおおいそぎでママのもとへ行く。リリちゃんだけは、ちょっとえんりょがちだったけど。
「ハスミっ、こ、この、この、この小さいのは何!」
「それがさあ」
「カイザーだよ」
ヨウは虫かごのフタを開けて、小さいおじさんをつかもうとする。やめなさいっ、とママ。ものすごく頭にひびく声。黒板をひっかいたみたいだった。
「だいじょうぶだよ。さいしょはかんだけど、いまはいい子なんだ」
「ヨウ、ママのいうこと聞きなさいっ、だめっ、開けないで!!」
ママのおそろしい声に、ヨウもしょぼんとしながら手を引っこめる。
「ハスミっ、何、これは!」
「あー、だからぁ……」
キーキーキーッ。
「何、生きてるの、何、えっ、何!」
小さいおじさんパパがママに訴えるみたいに声をあげるから、ママは半狂乱になってしまった。ハスミちゃんが「とりあえず中に入ってから話そっ」とママがにぎってた荷物を持つ。
「ねえちゃん、昼も買ってきてくれたんだね。よかった、またそうめんになるかと思った」
エコバッグがパンパンになってて、サンドイッチとパスタのお弁当がはいってるのが見えた。ママは買い物して帰ったらしい。
ママはまた悲鳴を上げそうになっていたけど、わたしのうしろにいるリリちゃんにやっと気づいた。めいっぱい開いていた目がパチパチっとまばたきすると、お上品な声でいった。
「リリちゃん、お昼も食べていく? ナポリタンとね、カルボナーラなら、どっちがいいかしら?」
リリちゃんがゴクと息を飲んでいた。それから、少し頭を下げていった。
「あ、わたしそろそろ帰ろうかと……」
でもリリちゃんは帰らなかったんだ。そのあともわたしたちといっしょにいた。わたしがぎゅっと手をにぎっていたから、帰るに帰れなくなったのかもしれない。
だって今いちばん頼りになるのは、ママでもハスミちゃんでもなくて、リリちゃんなんだもん。
それからハスミちゃんはまた「情報を探しに行く」と敬礼して二階に行ってしまった。ママは何事もなかったように買ってきてものを冷ぞう庫に入れたあと、グラスに入った麦茶をリビングに運んできてくれた。
みんなの分をテーブルにおくと、「スイカでも買ってきたらよかったわ」といった。するとヨウが、「カイザーもスイカ食べるかなあ」って。ママは「わたしは何も見えないっ」と大声を出すと、テーブルの真ん中にある虫かごを手ではねのけようとした。
「ママっ、それパパだよ!」
おねえちゃんがあわてて止める。わたしとリリちゃんは肩をよせあって大人しくしていた。おねえちゃんはハスミちゃんのスマホをタップすると、出た画面をママに見せている。
「ほらっ、パパでしょ、ね、この小さいおじさん、パパなの!」
必死の言葉に、ママは画面をしっかり見た。それで。
「
あ、パパってタツキって名前だったんだね。へーっ、てのんきに考える場合じゃなかった。ママは「どうしてタツキくんの写真を持ってるの」とおねえちゃんをにらみ、おねえちゃんは、「だから、このおじさんがパパなんだって!」と小さいおじさんパパをゆびさして怒鳴り返している。
「ママはこんな気持ち悪いものと結婚してませんからっ」
キィィィ……。
「カイザーぁ」
ママの気持ち悪い発言に、小さいパパはへなへなとすわってしまった。ヨウが心配して虫かごをだきよせる。
「カイザー、どうしちゃったの、げんきだして」
「ヨウ」とわたしは、おとうとの肩をたたいた。もういいかげん、教えてあげようと思う。
「それ、パパなんだよ。わたしたちのパパ」
「カイザーだよ。ぼくがかうんだ。おねえちゃんには、あそばせてあげないよ」
「だから、ソレ、わたしたちのパパなんだって。ねえ、おねえちゃん?」
とママが「ちがうわっ」と叫ぶ。耳がキーンっとなった。
「そんなのパパじゃありませんっ。早く捨てて来なさい」
「だめだよ、ぼくがかうんだ」
「ヨウ、だからそれはパパなんだって」
「捨てて来なさいっ!」
「ママ。もう一度よく見て。小さくなったけどパパなんだよ。ほら、直接、かごに顔を近づけて見てみてよ」
「あんな気色悪いもの、近づきたくないっ」
キィィィ。
「カイザー、ないちゃったよ」
「ママが悪口いうから」
「そんなのはパパでは——」
みんなで(リリちゃんはだまってたけど)大声でワアワアいってると、ハスミちゃんが「見つけたー!!」と叫んで階段を下りてきた。
「ねえ見て、見つけたよ。これでタツキさんを人間に戻せるよ、ねえちゃん」
——というわけで。
「オニのしわざ?」
わたしはハスミちゃんが広げて見せた巻物をじっとながめる。ミミズの字でよくわからにけど、ハスミちゃんは読めるらしい。意外なところで博識だね。
「いい、あのね、どうやらこの近くにある森には昔から鬼が住んでたらしくてね。たまに人里におりては、人間に混ざって生活してたそうだよ。鬼だってことは秘密にしてね。でも、もしも人間たちに鬼だとバレてしまうと」
ハスミちゃんは、虫かごをゆびさす。
「ああいうことに。つまり鬼の持つ小槌で、秘密を知った人間を小さくするんだって」
「ほーん」とわたし。
「へえ」とリリちゃん。
ちなみにママは「あれはタツキくんじゃない」と言いはり、「パパなんだよ」と説明するおねえちゃんと言い合いをしている。ヨウは、しょぼくれて体育すわりしている小さいおじさんパパを心配して、「カイザー、元気だして。ママはカイザーのよさがわからないんだよ」となぐさめていた。
「ってことはさ」とわたしは、視線をハスミちゃんに戻してたずねた。
「パパはオニを見つけちゃったの?」
「たぶん」
「それでコヅチで?」
「そういうこと」
「リリちゃん、どう思う?」
「うーん」
リリちゃんは巻物を見ながら考えてくれている。でも答えはないみたい。だよね、へー、と、ほー、しかわたしも出てこないや。
「で」とハスミちゃんは巻物をさらに広げた。
「続きには、鬼が棲む森の場所と、そこへの行き方と、人間をもとの大きさに戻す方法が書いてあるわけ」
「へー」
「だから」
ハスミちゃんは巻物をささっと巻きなおすと立ち上がった。
「あんたたちのパパを人間に戻しに行くよ。レッツゴーだ!」
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