第17話 封印されし扉とママの悲鳴

 さてさて、あの小さいおじさんがパパってことはさ。

 どうして小さくなったかより、どうやったらもとの人間に戻せるかだ、とハスミちゃん。


「ついに、あの封印されし扉を解放する時がきたようだね」

 右目に手をやり、くくく、と笑う。

「うちにそんな扉があるの?」

「あるよ。二階にね」


 っていうから、リリちゃんといっしょに、ドキドキしながらついていったら、そこはただの物置だった。


「ココが封印されし扉? わたし、来てすぐ、ここ開けたよ? ガラクタがいっぱいだった」

「えーっ、ママが片付けるまで開けるなっていわなかった? わたしが開けた時は、物が雪崩れてきて大惨事になるところだったから、封印してたんだよ」


「封印してるなら板をうちつけといてよ」

「バッテンしたガムテくらい貼っとくべきだったか」

「で、ここに何があるの?」


 くくく、とまたハスミちゃん。ねえ、それ面白くないよ?


「このうちに小さいおじさんが存在したのなら、なぜそうなったか解くカギも、この家にあるはず、でしょ?」


 ぴん、と指を立てる。でも、わたしとリリちゃんはちらっと目を合わせてしまう。どっちも「?」って気分だ。でもハスミちゃんは得意げにつづけた。


「だーかーらー。この物置に小さいおじさん発生の秘密があるってことなの。なぜなら、このうちに捨て置かれてたガラクタは全部ここに突っ込んであるから。探せ、謎を解くカギを!」


 それゆけっ、とハスミちゃんは勢いよくドアを開けると、ばっと後ろに下がった。たぶん雪崩を心配したんだろう。でも。


「あっれー? 平気だね」

「だからぁ、わたしのときも何もくずれてこなかったもん」

「ねえちゃん、ひそかに片付けたのかなあ」


 ママが? どうだろ。たしかにハスミちゃんよりキレイ好きだもんね。


 といっても、なだれてこないだけで、ガラクタばかりなのは本当だ。戸口から中に一歩も入れないくらい物がつまっている。そばに見えるだけでも、ミカンやペットボトルのダンボール箱が天井まであるし、ホコリくさいにおいがプンプンただよってきていた。


「さあ、探すぞ。この箱の中身は何かな?」


 ハスミちゃんは肩を回すと、すぐ目の前のダンボールを引き抜こうとした。上のダンボールがくずれそうになる。


「ねえ、一番上から取ったら?」

「いやいや。一番上は天井まであるでしょ、手が届かないって」


 ハスミちゃんは下段のダンボールに足をかけて、思いっきり引き抜く。で、やっぱり上にあったやつもくずれてきて、ドサドサ……、廊下にダンボールが落ちてくる。


「あーあ」とわたし。でもハスミちゃんはぜんぜん気にしてない。

「見やすくなったじゃん」とさっそく手近にあるダンボールを開けている。


 ダンボールにガムテープはなくて、カザグルマみたいにして上を閉じてあった。あのパタパタ折り込んでやるやつ。で、第一のダンボール箱の中にあったのは、家電の取扱説明書だった。それが何枚もごっそり。


「げげっ、昭和家電かよ。あーあ、これはちがうね」とハスミちゃん。

「ヒミツの文書かもよ」


 わたしはいってみたけど、「トリセツだよ、トリセツ」とハスミちゃんは、次のダンボールを引きよせている。


「おぉ、これは重いぞ!」


 ワクワクしてる。わたしも中身が気になってきた。でも開けてみたら、入ってたのは石ころだった。


「え、どゆこと、どんな趣味? どこで拾ってきたわけ、なんでティッシュで包んであんの」

「高いやつかも」

「なるほど、鉱物か」


 でも小さいおじさんの謎は解けないよね。というか、よく考えたら、アレは小さいけど、まちがいなく、わたしのパパなんだよね。


 そう気づいたら、さっき叫んでいた小さいパパのことが気になってきた。次の箱に取りかかっているハスミちゃんをおいて、わたしとリリちゃんは一階のリビングに戻ることにした。だいたい、あの物置の中に、パパを人間に戻すカギがあるとは思えないしね。


「カイザー、ねえ、カイザーはなんていってんの?」

「しっ、今解読中!」


 リビングでは、ヨウがテーブルに手をついてとびはねしているのを、おねえちゃんがしかっていた。虫かごの中にいる小さいおじさんパパは、おねえちゃんに期待しているのか、立ちあがり、とうめいなケースのカベに手をついて見上げていた。


「ねえ、何やってるの?」


 おねえちゃんはカスミちゃんのスマホに耳をぴたりとつけて、ムズカシイ顔をしている。


「だから解読中だって」といったん顔をはなしてタップ。また耳をつけている。


「録音したのかも」とリリちゃんが小声で教えてくれた。わたしはすぐにはわからなくて、首をかしげちゃったけど、おねえちゃんのうしろに回って画面を見てなっとくした。小さいおじさんパパの姿がうつっている。口を大きくあげて、わーわーわー。


「ダメだ」とおねえちゃんはスマホをテーブルにおいた。

「音量マックスにして聞いてみたけど、何いってるかわかんない」


 がく、となったのはヨウ。それから虫かごにいるパパも。

 わたしはおねえちゃんに耳打ちした。


「ヨウにはアレがパパだって教えた?」


 おねえちゃんにフルフルっと小さく首をふる。ヨウは身を乗り出して「カイザー、なにがいいたいの、テレパシーして」と虫かごのパパに話しかけている。


「あんたもいわないでね。まずママにいわないとさ」

「そっか」


 と、ちょうど玄関の開く音がして、ママが帰ってきた。


「ただいまー」

「ママー!」


 おおよろこびのヨウがかけ出す。しかも小さいおじさん入りの虫かごを持って。

「あっ」とわたしとおねえちゃんは、びっくりした分だけ、おくれをとった。


 だから、かけつける前に、「ぎゃああああああああ!!」とママの悲鳴。

 それからヨウの元気な声。


「あのね、カイザーっていうの。コイツ、かってもいいよね。ちゃんとぼく、せわするからさあ」

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