第13話 楽しいお泊り会

 ヨウが、Tシャツに思いっきり焼き肉のタレをこぼしたくらいで、晩ごはんは美味しく食べおわることができた。こういう時はコゲた肉もおいしい。ナスやピーマンもぱくぱく食べて、わたしは大まんぞくだった。


 ごはんのあとは、リリちゃんとお風呂に入って、湯上がりにかき氷のイチゴシロップで作ったイチゴ牛乳を飲んだ。


 ハスミちゃんが「いいものあるよ」と見せてくれたのは手持ち花火で、ヨウもまぜて四人でシュウシュウ吹き出す花火にキャッキャいいながら楽しんだ。最後の線香花火まできっちやりつくした。


 とってもめちゃくちゃサイコーな夏休みの思い出ができたから、わたしは今日のことを宿題の図画にかこうと思った。焼肉してるとこにしようかな、それとも花火してるとこがいいかな。


 そうして、夜はママの部屋でリリちゃんと寝ることになった。そこだけエアコンがついてるから、どうぞってハスミちゃん。気をきかせてくれたみたい。


「ハスミちゃんはヨウとねるの?」

「まあそうだろうね。あいつ、『きょうはぼく、へやでひとりでねるから』っていってたけど、すぐわたしんとこにくんじゃないかな。そっち行くかもだけどさ」


 それはかんべんだ。夜もリリちゃんと二人でおしゃべりしたいこと、たくさんあるんだから、ヨウにジャマされちゃあイライラで噴火する。


 でもヨウはちゃんとハスミちゃんの部屋にいった。二階にパジャマをとりにいった時、ヨウは、「棺桶まで持って行く(ハスミちゃん談)」茶色のタオルケットをひきずってハスミちゃんの部屋を訪問してたから。ハスミちゃん大変だな。でも今日はがんばってもらわなくちゃ。だって、リリちゃんとのお泊り会は、まだまだこれからなんだから。


 でも今日もあつかったせいか、それとも、いろいろあって楽しすぎたせいか、エアコンのきいたすずしい部屋にふとんを敷いてねころがったら、すぐにねむたくなってきた。


 ママの部屋はフローリングだけど、ねころがったらチクチクするじゅうたんが敷いてあって、家具は見た目が高級そうなものばかりだ。テレビも大きい——でも古いのか電源を入れてもすぐつかない、ぼやあ、としてる。こわれてるのかと思ったらやっとうつったけど、なんだか横にうつってヘンだ。


 かべには柱時計があって「大きな古時計」の歌に出てきそうな振り子がついているし、天井のあかりもスズラミンみたいなかたちだ。もちろん、ぜんぶ元々あったもの。ママの趣味ではないと思うから、そのうち、ちがうものになるかも。

 

 そうして、リリちゃんちでお泊り会しようね、って話をしているうちに、わたしはウトウトしてきて、ねてしまったみたい。雲に乗ったみたいにフワフワ気持ちよかった。と思ってたら、リリちゃんの声でハッと目がさめた。


「フタバちゃん、ねえ、フタバちゃん!」

「ふわっ、え、何?」


 小さいあかりだけはつけておいたから、リリちゃんの顔はよくみえた。不安そうな顔してる。トイレかな、と思った。リリちゃんには、わたしのイジワルで、おねえちゃんがパンツだけはいてトイレからとび出してきたことは話したけど、勝手にチカチカ電気が消えたりついたりしたことはいってないんだけどな。


「トイレ行くならいっしょに」

「ううん、ちがうの。ねえ、聞こえない?」


 リリちゃんが口に指をあてて、じっとわたしを見てくる。息を止めて、耳をすましてみた。とくに変わった音は……あ!


 カリカリカリカリ


「ネズミかな?」とわたし。

「ネズミかあ!」


 リリちゃんは笑顔になった。さっきまで、こわがってるかんじだったのに、動物への愛が強いらしい。もしもわたしの部屋に出たネズミと同じなら、ネズミ捕りのホイホイにくっついたままなのだろうか。それとも無理やり逃げて毛がハゲちゃった? ううん、それか、べつのネズミってこともある。うちってネズミ屋敷かもしれない。


「電気つけようか」


 手探りでリモコンを探した。でも見つからない。


 リリちゃんも探してくれてるけどない、見つからないみたいだ。ねながらけとばしちゃったかな。と、そうこうしているうちに、カリカリって音は聞こえなくなった。フトンの下にかくれていたリモコンを見つけて、やっと明るくした時には、どこからカリカリ音がしてたのかもわからず、エアコンのタイマーがきれていたせいで、汗までかいてしまっていた。


「あーあ、逃げたちゃったね」

「また動き出すかな。わたしたちがねたと思ったら」

「かもね」


 リリちゃんはネズミが見たいらしい。まだ、なごりおしそうに耳をそばだてて、きょろきょろしてる。わたしは電気消すよー、っていってあかりを一番小さいやつにすると、フトンにねころがった。


 エアコンもまたつけた。すぐにすずしくなる。設定が強すぎかな、さむいかも。はみ出ていた足をおり曲げて、ねがえりをうつ。でもすっかり目がさめちゃったなあ。


「リリちゃん、ねた?」

「ううん」

「ねえ、起きてテレビでもみる?」

「いいのやってるなら」


 二人して起き出す。テレビをつけてみたけど、あんまりおもしろくない。すぐに消そうとして——とその時。


 ぎゃあああああああああ!!!

 すごい絶叫。誰? ヨウ??


 バタバタと階段を下りてくる音。それからバンとドアが開いた。


「フタバ、来て。リリちゃんも。ヨウがやばいもん捕まえたんだよ」


 いつもぼけっとしてるハスミちゃんがゼエゼエ息を切らしてあせっている。


「何?」

「来て、上。やばいやばい、これって世紀の大発見じゃない?」


 何のことかわからなかった。でもせかされて二階のハスミちゃんの部屋に行くと、ヨウが茶色のタオルケットの上にすわってて、何かをにぎっていた。


「これ、ぼくがみつけたんだよ。ぼくがハッケンしたの」


 ヨウはつかんでいるソレをつき出した。ヒッ、とリリちゃん。

 わたしはソレを見て、「あれ、ここって夢の中だっけ」とわけがわからなくなった。

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