第2話 新居はボロ家

 新しい家はボロかった。二階だてだとか、自分の部屋がもらえるとかいうから、すっかりノリノリだったけど、現実ってやつにガツンとなぐられた気分だ。


 もちろん、大豪邸に住めるなんて思ってなかった。でも色あせた青いやねに、きたないカベ、庭ってよんだら悪いんじゃないかって気をつかうほどせまい庭をみたらガッガリするのもしかたないと思う。


 アパートについてたベランダとイイしょうぶだ。それにベランダには生えてなかったドクダミがここにはたくさんあってママが「草むしりしなくちゃね」っていうんだから。きっと、わたしたちのだれかがやるんだよ。家に入る前からサイアクポイント一点ついかだね。


「ねえアパートにもどろうよ」


 そういいだしたのは、本当にお気に入りの茶色のタオルケットだけ持ってきたヨウだ。また鼻をスンスンならしてぐずりはじめる。おねえちゃんは、うんざりって顔をしかめるし、ママは、ここまでワゴン車に荷物をのせて運んでくれた仕ごとなかまのおじさんに、お礼いって、ヨウの言葉は聞こえないふりをした。


 だからわたしが、「中に入ったら気にいるかもよ」ってヨウをはげましたけど、「みてないのにどうしてわかるの。ぼくは気にいらないんだ」と、にらんでくる。ほんとかわいくない弟だよね。どうしてわたしが家族で一番やさしいんだって、わからないんだろう。


 わたしたちの荷物は、おじさん(村山さんだったかな?)がワゴンに入れるのも手伝ってくれたんだけど、ママは「身軽になるの、断捨離が必要よ」って何もかも捨てようとしたから、ワゴン車一台分でたりた。中は人間が入るすきまがないくらいダンボールとカバンでいっぱいだったけど、そこに無理やり人間もつめて、おじさんは新しい家まで走ってくれたんだ。


 ママはテレビと洗たく機、冷ぞう庫まで捨てちゃった。パパが大切にしていた本と、それが入っていた本だなも「だれも読まないものね」で、しょぶんした。


 山もりのダンボール箱と、カバンやリュックを前にも後ろにもせおって、カメみたいになってるわたしたちが車からおりると、ママはおじさんにお礼をいうようわたしたちにいった。それから、ワゴン車が見えなくなるまで横一列にならんで手を振るようにも。


 おじさんはちょっと太って汗くさかったけど良い人そうだった。家の中まで荷物を運びましょうか、っていってくれたけど、ママは「大丈夫よ、ありがと」といって、六つ入りの缶ビールを押しつけると、追い払うみたいにしてワゴン車に乗るようせかしていた。ボロい家を見られるのが、はずかしかったのかもしれない。


 ワゴン車が角を曲がって見えなくなると、わたしはママに聞いた。

「あの人、カレシ?」

 するとママは「フタバ!」ってすごく大きな声でおこった。おねえちゃんは、わたしを見てあきれたってかんじで、べー、ってした。

「あのおじさんは結婚してるの、フタバより大きな娘さんが二人もいるのよ」

 ママはベラベラと、愛妻家だとか奥さんも知り合いだとかいってくる。つまらないからよそ見してたら、わたしがちゃんと聞いてないって手首をつかんで引っぱってきた。


 わたしだってママをおこらせる気はなかったんだ。でもパパが出て行ってからずいぶんたつし、ママにはカレシができてもおかしくないと思う。だからママの知り合いの男の人を見えると、どうしてもはっきりさせたくなる、この人が新しいパパかなって。


 でも、いつもちがって、わたしがそう聞くたびに、ママは「いいかげんにして、フタバ」とおこるか、ため息をつく。最悪の場合は、わたしと長く話す必要があると思うらしく、手をつかまれて長々といろんな説明をうけなくちゃいけなくなる。わたしが知りたいのはカレシかどうか、いっしょに住むか住まないかってだけなのに。


「わかったよ、ママ。ねえ、早く中に入ろうよ」


 ママはまだ文句をいいたりないようだった。くちがモゴモゴ動く。でも「そうね。ぜんぶ中に入れなくちゃ」って、地面においたままになってたダンボール箱を二つ重ねて持ちあげた。


「フタバ、ドアを開けて」

「カギは?」っておねえちゃん。


 ママは「開いてるはずよ。ハスミがもう来てるから」と、二かいのほうを見る。わたしも見たけど、だれかいるようすはない。

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