フタバの家はおばけハウス!?

竹神チエ

第1話 引っこしはダンボール三箱分

 引っこすなんてイヤだった。

 だって転校したくないもん。リリちゃんと遊べなくなるなんて、ぜったいイヤ!


 でもママが「学校は転校しなくていいの、同じ町の中で引っこすだけだから」っていうから、それならいいよ、ってオッケーしちゃった。


 だって、新しい家は、二階があるいっけんやで、庭付き。今のアパートとは大ちがいで、「隣のおじいさんが見てるテレビの音だって聞こえないよ」とママ。


 それに、わたし専用の部屋もくれるっていうし、歩いてすぐの場所にリリちゃんが住んでるっていうんだもん。最高じゃん。


 最初は、わたしと同じで引っこしをイヤがってたおねえちゃんも、これにはさんせい。中学生になっても妹といっしょの部屋なんてありえない、ってブーブーうるさかったから、今すぐ行きたいって、はしゃいでる。


 でも弟のヨウはイヤがってママをこまらせた。七才のヨウは「ぼくのへやなんて、いらないよ。ママといっしょでがまんできるから」と鼻をスンスンならす。


 ママが「わたしは自分だけの部屋がほしいのよ」っていったら、「ぼくはママといっしょがいい!!」って泣き出したんだ。うるさいったらない。アレはウソ泣きだって、みんなわかってるのにさ。


 おねえちゃんが、どうして引っこすのがイヤなのかって聞いたけど、ヨウは「イヤなものはイヤなんだ」って、そればっか。


 わたしは「ヨウはただこまらせたいだけだよ」っていってやった。そうしたら「フタバのバカ、イジワル」って、ヨウはますますウソ泣きがはげしくなって、わたしがママに「フタバはだまってて!」っておこられたんだ。


 けっきょく、いつまでもウソ泣き作戦でジャマするヨウに、「じゃあヨウくんはひとりでこのアパートに残りなさいね!」ってママ。ヨウを無視してダンボール箱にどんどん荷物をつめていった。


 わたしとおねえちゃんも、ヨウの相手はやめて、ダンボール箱や旅行かばんに持って行くものを入れていった。


 新しい家では、自分の部屋がもらえるし、今より広い家だから、今持ってるものは全部持って行くもりだったけど、ママは「ひとりダンボール三箱まで。あとは処分!」というから、えりすぐらなくちゃいけなくなった。


 だからお気に入りだったけど小さくなったワンピースはスッパリあきらめることにした。むねのところにカレーを落としてできた黄色いシミあったから、そんなに、なごりおしくなかったけど、最後にもう一度だけ着ると、おねえちゃんにママのスマホで写真をとってもらった。


「似合ってないよ。ボタンも、ちゃんととまってないじゃん」とおねえちゃん。ちぇっ。


 だから捨てるんだもんね。わたしは、他の服や本も、ぐずぐずしてるおねえちゃんよりうんと早く選んでいけた。わたしって、いさぎよい女なの。でも、ぬいぐるみたちは全員持っていくことにしたけどね。誰も捨てられなかったんだもん。


 ママが決めたルールで、ダンボールは三箱までだったけど、自分で持って行くカバンの中身はふくまれないってルールでもあるから、(おねえちゃんと作った。ママは、ぐっとあごがこわばったけどおこらなかった)わたしは、ナップサックにギュウギュウにいろんなものを押しこんだ。ぬい目が破けそうなくらいパンパンになったけど中身はほとんどぬいぐるいだから軽い。


 でも、おねえちゃんはリュックにマンガを入れたから、「運んでる途中にやぶけるかも」と心配していた。わたしは「持ってあげるよ」って二冊だけもらうと、ぬいぐるみのあいだに押しこんであげた。そのマンガ、わたしも好きなやつだったから。


 そうして三十分後くらいかな。


 おねえちゃんとカーテンはどうするんだ、って話してたら、ヨウがわたしたちの部屋にやって来た。「ぼくもいくよ」って。


 ヨウは赤ちゃんの時からお気に入りの、ヨレヨレした茶色のタオルケットを持っていた。それだけ新しい家に持って行けたらまんぞくらしい。でも、ぜったいウソだと思うから、ヨウもダンボール箱三箱分に服やおもちゃを入れてあげた。


 こっそりわたしたちの捨てられない物を(わたしはもう三年くらい遊んでない着せかえ人形、おねえちゃんは月間のマンガ雑誌を五冊も!)混ぜたけど、ヨウは「これだけあればいいよ」と茶色のタオルケットしか持って行こうとしないし、おかあさんも、どの食器を持って行くかで悩んでたから、何を入れてるかなんて気づかなかった。

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