第3話 卒業
「私たち三十人は」
「桜ヶ丘小学校を」
「卒業します!」
初めての子どもの卒業式だった。
子どもの名前は圭司。本当は兄に圭一がいた。幼い頃から病院暮らしで、憧れのブランコに乗れないまま逝ってしまった。
ブランコくらい乗せてやれば良かったのに、
好きなのは機関車トーマス、好きな車はシエンタ。車の名前を聞いた時は驚いたが、病院の看護師さんが乗っていて、それを聞いてシエンタと言っていたのだ。
この子はシエンタに乗る未来があるだろうか。
少し放置していたのか。次男の圭司は少しひねくれて育った。主に母が見てくれたが、圭司は事あるごとに「何でお兄ちゃんばかりなの?」と、母を困らせたという。
学校でも問題行動を起こした。
その度に母が学校に行き、私たち夫婦に「子どもは圭一だけではない」と、告げた。
だって圭司は元気じゃないか。圭一はすぐに死んでしまうのに。
一度、圭司に圭一がどんな様子か見せた。見せる事で、圭司にいかにお兄ちゃんが大切か知って欲しかった。なのに、圭司は圭一の管を思い切って引っ張り取った。
「何をするんだ!」
夫は圭司を張り倒した。圭司は体を丸めて泣き続けた。
「私には分かるわ。アンタたち最低よ。いつか思い知るわ。自分たちが
母は信じられないことに私たちを怒った。
私たちはますます粗末にしないように圭一を見守った。交代で家に帰り、食事を取って眠った。夫は仕事を辞めて看病をしてくれた。
「けいじは?」
薄く目を開けた圭一は小さくつぶやいた。
「僕のせいで圭司を一人にしないで」
そう言って圭一は目を閉じて、命を終えた。
信じられないことに圭司は泣かなかった。最後の言葉を伝えてもお兄ちゃんがどれほど愛していたかを伝えても、圭司は薄く笑った。
この子の問題行動も、喜怒哀楽の下手さも、きっと精神的におかしいに違いない。
ニヤニヤ笑い続ける圭司を夫のツテでカウンセリングに連れて行った。
カウンセラーは私の話を聞き、私から離して圭司の話を聞いた。私はどれほど圭一と圭司を大切にしていたかを述べた。
私は圭一のお陰で圭司の母親になれると思っていたのに、圭司は児童相談所に行くことになった。なぜか分からなかった。
夫と真剣に考えた。圭一を亡くした喪失感でいっぱいだったが、自分の息子は圭一だけではないと、圭一は命をかけて伝えてくれた。
兄の葬儀で泣かずに、にやにやしていた圭司はやはり精神的におかしい、そういう結論に至った。圭司は行政に任せて私たちは傷をいやし、全てが終わったら圭司を迎えにいこう。
母はずいぶん
やがて、母もベッドから動けなくなった。毎月手紙を書いて圭司のいる施設に送ることは止めなかった。そして弁護士に遺産は全て圭司へと言い残し旅立った。
圭司は小学校六年生になり、私たちの元へ返された。一時帰宅だそうだ。
この四年と少しで私たちが圭司をないがしろにしていたか思い知った。
通知表も見たことが無かった。児童相談所帰りということで悪い先輩から目をかけられていた。何度もそういう交際は止めるように怒ったが止めることは無かった。
ご飯はこれまでと同じく、一緒に食べることは無く、頭は金色になった圭司にますます怒って愛情をそそいだ。遺産も外で使っているようだった。
それをまた怒った。ネットで問題行動は
授業参観や給食会、運動会に行くようになったが、そのどれもを途中で抜け出して圭司は仲間を遊んでいた。
担任の先生の働きかけもあって、卒業式だけは出ることにした。
「もっとちゃんと見ていたら、こんなことにはならなかったはずです」
校長に一度お話ししませんかと呼ばれてこれだ。
「私たちはちゃんと見ていました」
女性の担任の
「誕生日を祝ったことはありましたか?」
「ありますよ。病院で祈ってました」
「家族で旅行に行きましたか?」
「母と行ったと思います」
「ほめてあげましたか?」
「ほめるところが無いのにどうすれば」
「せめて卒業式は見てあげてください。彼がきっと一番、
「もちろんです。圭一を連れて行きます」
「
圭一、ご覧。弟の卒業式よ。可愛がっていたもんね。
仰げば
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