第10話 獣人だらけという、意味②

「は、発情期があるんですね、へぇ……」


 発情期ってあれだよな? エッチな気分になる……みたいな?


 発情期なんて創作物の世界だと思っていたけど、本当にあるんだなぁ……。


「その反応……。知らなかったのか」

「ええ、まあ……言われなかったので」

「言わなかったというより、言えないんだろうな。そんなこと言えば、それ目当ての男がわんさか集まるだろうし……。何より、打ち明けにくい体質だろう。特に人間の男には」

「そうですよね。……逆にオウガさんはなんで知ってるんですか?」


 ユナさんたちのパーティーの状況もだし、獣人族のこともやけに詳しいようなぁ……。


「あー……俺の妻は、獣人だからな」

「へぇ……。ええっ! そうなんですか!?」


 さっき娘さんの話が出て結婚しているんだなと思ったけど。

 ユナさんたちが美女だし、オウガさんの奥さんもきっと綺麗な方で……。


「……妻はやらんぞ」

「だから寝取りませんよ!?」


 オウガさんって、強面な見た目の割に意外と心配性だな。奥さんと娘さんのこと、相当好きなんだろうな。


「こほんっ。話を戻すが……お前が入っている【獅子の舞ビースト・ハード】は獣人だらけだが……今の発情期という話を聞いてその意味、どう捉える」

「意味?」


 【獅子の舞ビーストハード】は、ユナさん、アーシアさん、グレアさん、シャロちゃん……4人とも獣人族で……。


「お前、さっき言ったよな? 獣人族は人間よりも身体能力が高い。だったら、力だって人間よりもはるかに強い。……もし、メンバー全員が発情期になればお前———

「っ」

 

 オウガさんの発言に、言葉が詰まる。


 メンバー全員が獣人であり、しかもS級の実力を持つ。

 そんな彼女たちが発情期になって襲ってきたら……チート能力で強化された身体とはいえ………。


「どうだ。怖いか?」

「……」


 発言を踏まえて、想像してみたが……正直ちょっとゾッとした。


 でも……。


「でも、どこか安心しましたよ」

「ほう?」


 俺は続ける。


「ユナさんたちを見てると、どうしても悪いようには見えなかったので……。何故か男が抜けるっていう噂も、ユナさんたちを見ていると、やっぱり彼女たちが何かしたわけじゃないと思っていたので……。だからオウガさんから内情を聞けて良かったです」

「アラタ……お前……」

 

『S級パーティー【獅子の舞ビースト・ハード】は……何故か、男だけが抜けるんだ』


『へぇ……大切な。メンバー候補……。クックック……ハッハッハッ!! なーにが大切なだ! どーせ今回も、男は何故かパーティーから抜けるだろうがぁ!』


 あの発言は、パーティーを抜けた男たちの見栄っ張りと、周りの獣人への偏見というもので、ユナさんたちは別に悪くないことが知れて良かった。


「これから【獅子の舞ビーストハード】の正式なメンバーに俺がなる可能性だってありますからね。発情期のことはしっかり頭に入れて……。その、もしメンバーの誰かが発情期がきたらその時は……なんとか力になりたいと思います! でもまずは正式なメンバーに選ばれないとですけど」


 今はトライアル期間だし、俺がするべきことは、ちゃんと正式なパーティーメンバーに認められること。

 それからメンバーの一員ととして、発情期や諸々のことは一緒に考えればいいいと思う。


 第一、ユナさんたちから発情期のことを打ち明けられてない時点で、俺はまだ彼女たちから信用されてないということだ。


 これからが……本当に大事だと思う。


「なるほどな。お前がどういう奴が分かった。が……」


 オウガさんは何やら小さく頷いたと思えば、俺のことを真っ直ぐ見てきて、


「アラタ。お前は冒険者として、【獅子の舞ビーストハード】についていけるだろう。そのくらいの実力があると、長年S級にいた俺なら見ただけで分かる。だが、発情期がきて肉食化して何をするかわからないアイツらのことが嫌になって、パーティーを自ら抜けて……他の男たちのように、悪評を流すということを事前に避けるためにも、先に発情期のことを伝えた。そして今の状況も」


 オウガさんは一拍開け、


「だからもう一度聞く。……発情した獣人は、一体どうなるのか分からない。それでもお前は、【獅子の舞ビーストハード】を抜けたいと思わないのか?」

「俺は、【獅子の舞ビーストハード】を抜けるつもりはないですよ。まだ皆さんのこと、全然知れてませんし……。悩んでいることに力になれてない。何より俺は、このパーティーの一員で活躍したいと思ってますから」

「そうかぁ。……ふっ」


 先ほどから気難しい顔をオウガさんが、少し笑った。


「そこまで言って……。まあ男に二言はないよなぁ? お前のその言葉、信じよう。アイツらのこと、頼んだぞ。何かあれば、俺のところに来い。話くらいは聞いてやることができるだろう」

「ありがとうございます! オウガさんって優しいんですね」

「ふんっ。俺は別に優しくなどない。ただ、アイツらに何かあると、同じ獣人として気にかけている妻が悲しむからな」

「奥さんのためとか、ますます優しいじゃないですか!」

「……ふんっ」

  

 オウガさんがそっぽを向いた。

 多分、照れているな。


「話を聞けて良かったです。まずは……ユナさんのことをちゃんと知りたいなぁ」


 ユナさんは接しやすくて、優しいんだけど……。


『それでその……。アラタさん。私たち【獅子の舞ビースト・ハード】のことをご存知ですか?』 


『私は……。兎族は、獣人の中で最弱と言われていますから』


 何か悩んでいるんだよなぁ。

 そんなユナさんを放ってはおけない。


「何か力になれることがあるといいんだけど……」




◆◆


「アラタさん……アラタさんアラタさん……♡」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る