第11話 獣人だらけに入りたい男の実力

「では失礼しました」

「失礼しましたっ」

「おう。依頼の方、よろしくな」


 ユナとアラタが出ていき……オウガは深くため息をついた。


「今度こそ、上手くいくといいんだが……。実力的にはついていけるだろう。だが……発情期。それも発情条件については……まあ、俺が話すことじゃねぇよな。アラタ……んだから」



◇◇


「少しの間、ギルド長と2人っきりでしたが……大丈夫でしたか?」

「最初はちょっと怖い人だなと思っていたんですけど……話してみるといい人でした! やっぱり人は見かけによりませんね」

「それは良かったです。ギルド長は、獣人やエルフ、ドワーフなど人族以外が冒険者活動をしやすいように、色々と手を回してくれている方ですから。個人としてもすごくお世話になっています」

「そうなんですね」

「はい。あと奥様が……」

「ああ、聞きましたよ。獣人族の方なんですよね」

「はい。私たち【獅子の舞ビーストハード】のことをよく気にかけてくださって……。たまにご飯をご馳走してもらうこともあるんです。ラティーさんのご飯は絶品で——」


 ユナさんがいきいきと話す姿を見ていて、ギルド長と奥さんは信頼されているんだなと思う。


 俺もユナさんに信頼してもらって……。


『言わなかったというより、言えないんだろうな。そんなこと言えば、それ目当ての男がわんさか集まるだろうし……。何より、打ち明けにくい体質だろう。特に人間の男には』


 発情期……。

 ユナさんって発情期になったら一体どんな風に———


『はぁはぁ……アラタさん♡ 私、もう……』


 俺のこと、押し倒して———


 いやいやいやいやいや! 何を想像してるんだ俺は!!


「………」


◇◇

 

 馬車で途中まで移動して、それから真っすぐ北上すると、深い森が出現した。


「ここが情報はあった、オークオーガの住処のようですね」

「ここが……」


 通ってきた平原とは少し空気が違う気がする。

 こう、なんか奥に得体の知れない物がいる……みたいな。


 中に足を踏み入れれば……やけに、静かだった。

 鳥の囀りや魔物の鳴き声さえ聞こえない。


 こういうところって、ラビットやゴブリンぐらい出てきていいと思うのに……。


 ユナさんもそれを感じ取っているのか。


「……アラタさん。オークオーガの体は非常に筋肉質で、通常の武器ではかすり傷程度しか付けられません。そこに気を取られて、オークオーガの攻撃を一度でもまともに喰らえば……瀕死状態になると言われています」

「そ、そうなんですね……」

「そんなオークオーガが1体だけなら、B級冒険者のパーティーで対処できると思います。ですが、1体だけでないとしたら……。——っ。待ってください、アラタさん」


 ユナさんがより険しい顔になった。

 黒長い耳がピクピク動いて——


「——来ますッ!」

「っ、はい!」


 ユナさんの切迫詰まった声に、咄嗟に構える。


 バキバキバキバキッ!!!!!


 木々の幹や枝をメキメキと豪快にへし折りながら、そいつは現れた。


「ブオオオオオオ!!」


 身のすくむような重低音が大地を揺るがす。


「うるっさ……っ」


 思わず、耳を塞ぐ。


「グオオオオオ!!」

「ブモオオオオオ!!」


 すると、丸太のように太く肥大化した腕をこちらに向けて振り下ろしてきた。


「っ」

「ひっ!」


 俺とユナさんは二手に分かれて、避ける。


 先ほどいた場所は……大きく凹んでいた。

 移動していなかったら、瀕死どころかぺしゃんこだったぞ……。


 見上げれば、ブタと鬼を合体したような巨大な魔物が2体いた。


 燃えるよう赤色のゴツい体に、口元にはデカい牙と……何かの肉の破片と血がこびり付いている。


「どうやら静かだったのは魔物を喰っていたわけねぇ……」

「アラタさん……いけますか?」


 ユナさんの言葉に俺は、こくりと頷く。


 オークオーガ。 

 ちょっと怖いが……ユナさんに実力を認めてもらうためにも正面からやるしかないよなぁ!


「さぁ、エクスカリバー! お前のお披露目だぞ!」


 鞘からエクスカリバーを抜いき……淡い光を纏っている剣をオークオーガに向ける。


「グオオオオオ!!」

「ブフオオオオオ!!」

 

 向こうもやる気満々って感じだ。


 先に動いたのは、オークオーガの方。


 ドスドスと重々しい足音を立ててこちらへ突進してくる。


 エクスカリバーの効果で動きは遅く見えるが……デカい魔物がこちらに突進してくるという迫力に押されて、尻込みしてしまいそうだ。


 まあ、だが……。


「まずは足を……ふんっ!!」


 俺はギリギリまで引きつけ……エクスカリバーでオークオーガたちの両足を切った。

 スパッと綺麗に切れた。


 どんなにチート能力を持っていようが、確実な方法でいく。

 これが俺の戦闘スタイルだ。


「ブフオオオオオ!!!!!」

「ブオッ、グオオオ!!?」


 足を落とされたため、立ち上がれず地面に這いつくばるオークオーガたち。


「悪いなッ!」


 続けて俺はオークオーガの両手を切り、目を潰して、最後には心臓部分を剣で貫いた。


「ふぅ……」

 

 剣についた血を払い、鞘にエクスカリバーをしまう。


 ユナさんの方を見れば……パチパチと手を叩いていた。


「自分の力に慢心せず、確実な方法での討伐……。お見事です、アラタさん」

「ありがとうございます!」

「ふふ。やはりアラタさんはS級の実力があると思います。オークオーガでは物足りませんでしたか?」

「いえいえ……! 俺も上手く倒せて内心ホッとしてますよ」


 どんなにチート武器を持っていても、ちゃんと使えないと意味がない。

 今は冷静に判断できたけど、もっと強敵になったら動けるかもわからないからな。

 でも【エクスカリバー】はやっぱり強いってことが証明できて安心はしている。


「オークオーガはまだ奥にいるようですが……この調子なら早く終わりそうですね」

「最後まで気を抜かず頑張ります!」


 ここで気を抜いて、オークオーガに捕まってくっころ展開……なんていうのは嫌だしな。

 遠慮なく狩らさせてもらおう。




———————————

次回『sideユナー2』

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