第9話 獣人だらけという、意味①
ギルド長室にて。
テーブルの上に並べられているS級専用の依頼書。10枚くらいある。
ユナさんがギルド長と話し合っているのを、俺は隣で大人しく見ていた。
ユナさんがもう一度、依頼書に目を通す。
そして……。
「ではこの、オークオーガの討伐と新たに発見されたというダンジョン攻略にします」
「頼んだぞ。お前らなら今回も難なくこなす思うが……。被害を最小に抑えるよう……努力はしろ」
「はい……」
ユナさんがちょっと苦笑気味になる。
やり過ぎちゃったことが頻繁にあるのかなぁ。
ともかく、今日やる依頼は決まったようだ。
個人的には、サキュバス国への行方不明の捜査っていうのにめちゃくちゃ行きたかったけど。
そんなことを思っていると、ユナさんが俺の方を向いた。
「アラタさん。今日は私とオークオーガの討伐に行きましょう。ダンジョン攻略の方は、アーシアさんたち3人に任せますので」
「了解です。アーシアさんたちと別行動ってことは……ついに俺の実力を試すみたいな感じですか?」
『一週間のトライアル期間を得て、パーティーに加入するかどうか、お互いに判断するのはどうでしょうか?』
パーティーに入るのを判断するのは俺だけではない。
ユナさんたちだって俺を見極めなければならない。
「そうですね。そろそろアラタさんの実力も見せてもらわないといけないので。でも……そんなに身構えなくても大丈夫ですよ。自信は……ありますよね?」
トントン、とユナさんが指先で俺の肩を軽く叩く。
それが何を意味しているかは、すぐにわかった。
「もちろん!」
俺は【エクスカリバー】のことを思い浮かべる。
S級の実力者ということもあり、ユナさんは見抜いていたのだろう。
【エクスカリバー】というチート武器とそれによる身体能力の大幅な強化。
オークオーガというのはどういう魔物でどれくらいの強さか分からないが……今の俺が倒せない相手ではないだろう。
「期待していますね」
「任せてください!」
いい感じに話も纏まり、そろそろギルド長室を出るのかなと思った時だった。
コンコンとノックがしたと思えば、受付嬢らしき女性が入って……。
「ユナさん。少しよろしいでしょうか? ご相談が……」
「分かりました。ではアラタさん。少し席を外しますね」
「は、はい」
ユナさんが出ていく。
俺は部屋に……ギルド長と2人っきりになった。
「……」
ギルド長の方を見れば、太い腕を組みながら無言で俺を見ていた。
それだけで、ちょっと怖い。
ギルド長の話はユナさんから聞いている。
ギルド長のオウガ・グレフト。
白髪のオールバッグに顔には無数の傷が目立つ。
体つきは俺の3倍ぐらいでかい。
元S級冒険者らしい。
見た目から強者オーラがすごいのよ……。
俺はギルド長室にきてから、オウガさんとは言葉を交わしていない。
「……」
「……」
しかし、このまま無言というのも気まずいけどなぁ。
かといって、雰囲気が怖くて話を振っていたのかすらも分からない。
ユナさんが早く帰ってくるのを待つしか……。
「……おい」
「は、はい!」
まさかのあっちから話しかけてきた。
思わず、背筋をが伸びる。
「さっきの……受付嬢。可愛かっただろ?」
「さっき……? ああ、あのツインテールの女性ですかね?」
ユナさんを呼びにきた受付嬢。
思い返せば……確かに可愛い顔立ちをしていたけど。
「あれは、俺の娘だ」
「そ、そうなんですね」
「そうだ。だから……間違っても手を出すなよ? ……寝取るなよ?」
「娘さん、婚約者がいるんですかね。手を出しませんよ。寝取りとか大っ嫌いなんで」
創作物でも現実でも。寝取りは大っ嫌いである。
「お前……いい男だな」
「ありがとうございます?」
なんか、好感度が上がった?
「まあきっかけの題材は置いといて……」
オウガさんの目が少し鋭くなった。
「お前が今回……【
「は、はい。俺はアラタ・シナナイですけど……。今回というと、やっぱりあの噂は本当なんですか? 男が何故か抜けるっていう噂は……」
「……」
オウガさんは一度俺を見た後……浅くため息をつき。
「ああ、本当だ」
「っ」
ハッキリ言った。
そしてハッキリ聞いた。
「だが、何故かと曖昧ではない。ちゃんとした理由がある」
「……理由?」
「ある男は、パーティーメンバーが全員獣人と分かった瞬間、逃げた。ある男はS級パーティーの高難易度な依頼についていけずに、抜けた。全員自ら抜けたのも間違いない」
「そうなんですね。でも冒険者ギルドや酒場にいた冒険者たちはそんなこと……」
「抜けた奴らがただ単に話してないか、自分たちの不甲斐なさを誤魔化すために妙な噂を流したんだろうな。獣人はプライドが高いと言いつつ、結局人間が1番プライドが高いからな」
「なるほど……」
『S級パーティー【
『へぇ……大切な。メンバー候補……。クックック……ハッハッハッ!! なーにが大切なだ! どーせ今回も、男は何故かパーティーから抜けるだろうがぁ!』
噂は所詮、噂に過ぎないってことか。
募集して来たのだって、たまたま男だったってことだもんな。
「だがまあ……」
「どうかしましたか?」
オウガさんが苦い顔になる。
まだ何かありそうだ。
「アラタお前……獣人族のことは知っているか?」
「獣人族は……人間と比べて身体能力が高い種族じゃないんですか?」
「そうだな。それも間違っちゃいない」
オウガさんは頷き、続ける。
「それとは他に獣人族には……発情期というものがある。それは種族特有の体質だからいいとして……」
「なるほど、発情期……。えっ、発情期!?」
獣人族に理解があるのは、俺も見習っていきたいけど……。
あたかも当然のようにサラッとそんな重要なこと言わないで欲しいんですけど!?
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