第8話 クロウサギは興味が出る
「ふぅ〜。今日の朝飯もうまかったぁ〜」
「毎回たくさん作ってもらってありがたいわ」
「ん、私はまだ食べても良かった」
朝から山盛りの肉や魚のガッツリ飯であったが、あっという間に綺麗になくなった。
1番美味しそうに食べていたのが、アーシアさん。
1番上品に食べていたのが、グレアさん。
1番量を食べていたのは、シャロちゃん。
そして1番料理が上手いのが、ユナさんだ。
パーティーメンバーのことをちゃんと知るためにも、小さなことから観察していかないとな。
「今回はアラタさんも手伝ってくれましたから、より美味しかったですね」
ユナさんが俺を見て、微笑んでくれる。
こうしてさりげなく俺のことを会話に入れてくれるの、ありがたい……!
「ユナさんの邪魔じゃなかったらこれからも料理を手伝わせてください。俺も色々学びたいので」
「邪魔だなんて、そんなことはないですよ。こちらこそよろしくお願いします」
『んっ……んむ……ちゅっ……』
まあ、次は指を怪我しないよう気をつけないと。
毎回、指を舐めてもらっては……うん、俺としてはいい思いができるけど、いけないことからな!
「ほーん……」
「ふーん」
「……」
「ん? 皆さん。俺の顔になんかついてますか?」
ふと、3人から見られていることに気づく。
「いいや。なんでもないぞ」
「そうね。なんでもないわ」
「……ん」
ふい、と視線を斜めに逸らされた。
「そうですか。あはは……」
この3人と仲良くなるには、まだ時間がかかりそうだな。
「さて、腹もいっぱいになったことだし……やるか」
アーシアさんが立ち上がれば、みんなも立ち上がる。
「やる? 何をですか?」
「お前もタダを食いにきてんじゃないだろ? 冒険者といえば……金稼ぎに決まってんだろうが」
「あ」
獣人だらけということに気を取られていたが……。
そうだよ。
ここは、S級パーティーでもある。
◇◇
いくらS級パーティーといえど、依頼をこなさなければ、暮らしていけない。
S級パーティーとなれば、確かに1つの依頼に対しての難易度も上がるが報酬もあがる。
しかし、いくら稼げたからと言ってその分出費も多い。
特に、【
つまりのところは、お金はいくらあっても足りない。
と、ユナさんが冒険ギルドに向かいながら教えてくれた。
それから冒険者ギルドにつき……。
「おい、あの【
「マジかよ! よほどの物好きなんだろうなぁ」
「いいや! 2日後には抜けているにエール3杯賭けるぞ〜!」
冒険ギルドに入って少し経ったら、そんな声が酒場の方から聞こえてきた。
視線をわざわざ合わせなくても分かる。
これは—————
「アラタさん。しばらくはこの視線に慣れて頂けるとありがたいです」
「了解です」
俺はユナさんの横顔を見て、頷く。
『S級パーティー【
『へぇ……大切な。メンバー候補……。クックック……ハッハッハッ!! なーにが大切なだ! どーせ今回も、男は何故かパーティーから抜けるだろうがぁ!』
男が何故か抜けるパーティーいう噂はだいぶ広まっているようだ。
そんなパーティーに、新たな男が入ったとなれば面白半分で気になるもの。
俺も最初は、どこか懐かしいパーティーメンバーの勧誘の文面を見て、面白半分だったが……。
「ユナさん」
「はい?」
「俺のことは気にしないでくださいね。俺は俺の目で見たものしか信じませんから」
「……。はい」
ユナさんは小さく頷く。
まあ当事者の俺から言えるのはこれくらいだけど、それでも言うことによって、色々と考え込んでいるユナさんが少しでも楽になればいいと思う。
「それにしても、アーシアさんたちは行かないんですね。ほら、受ける依頼とかってみんなで話し合って決めるものと思ってたので」
「皆さんで行くと、どうしても目立ってしまうので……」
「ですよねー」
獣人自体は怖くないけど、揃うと全員獣人っていうのは、結構迫力あるしな。
「それに……。噂のこともあるので全員で行動すれば、余計に絡まれますから。アーシアさんは、絡まれたらすぐ喧嘩になりますし。グレアさんは笑顔で毒舌トークになりますし。シャロさんに至っては……問答無用で殴ります」
「それは大変だ」
「獣人は血の気が多い種族ですから」
「売られた喧嘩は買う感じですか?」
「むしろ、完膚なきまでフルボッコですね」
「それは大変だ」
ユナさんだけは穏便に済ませることができるってことかな。
『!? ……チッ』
『……』
穏便……。
ひと蹴りで斧を粉砕してたのは、獣人の中では穏便ってことなのかな?
基準が分からないや。
「でも私は他人から何を言われようと、この【
「ユナさんにとって、大切な場所なんですね」
「はい」
深く頷き、ユナさんは笑みを浮かべた。
満面というわけではないが、その笑みから本当に【
アーシアさん、グレアさん、シャロちゃんが好きなんだと感じる。
「俺もユナさんに大切だと思ってもらえるよう、頑張ります!」
「アラタさんはもう……」
「?」
「なんでもありませんよ。アラタさん、こっちです」
冒険者たちが集まっている、依頼が張られている掲示板ではなく……ユナさんは受付嬢の元へ。
「今、ギルド長はいますか?」
「はい。3階の自室におりますよ」
「ありがとうございます。では、行きましょうアラタさん」
「今日は何か大事な話があるですか……?」
「いえ。S級パーティーが受けるのは通常の依頼ではなく、ギルド長からの依頼が多いので」
なるほど。S級パーティーだからかぁ。
さて、どんな依頼があるのやら。
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