第12話 純情クロウサギ

 休憩ということで、ユナさんに連れられたのは……。


「休憩というからには、どこかに行くかと思ってましたけど、屋敷に戻ることだったんですね」


 俺とユナさんは屋敷に戻った。

 朝と違うところといえば、俺とユナさん以外は屋敷に誰もいないってこと。


「やはり屋敷の方がいいと思いまして」

「確かに、屋敷の方がゆっくりできそうですもんね!」

「……そう、ですね」


 ユナさんがソファに座ったのを見て、俺も正面のソファに座る。


 そして、真面目な顔つきになったユナさんを背筋を伸ばして見つめ返した。


「オークオーガの討伐もとい、実力試し。改めてお疲れ様でした。正直な感想を言うと、まさかここまでの実力を持っていたとは驚きです」

「ありがとうございます!」


 ユナさんは基本優しいが、S級パーティーのリーダーである。

 だからお世辞ではなく本当に俺の実力に驚いてくれたんだろう。


 と、言っても俺の実力というより……さすがチート武器エクスカリバー!

 これからもコイツでどんどん活躍できるように頑張らないとな!


「実力的にも体力的にも問題はなし……。アラタさんなら【獅子の舞ビースト・ハード】で活躍できると思いますよ」

「じゃ、じゃあ!」

「……。ですが」


 喜びそうになったが、ユナさんの言葉は続いた。

 俺は、はやる気持ちを抑え……ユナさんの次の言葉に注目する。


「私がいいと判断しても。私1人の意見ではアラタさんをパーティーに入れることはできません。他の皆さんの同意が無ければ、正式に【獅子の舞ビースト・ハード】には迎えられません」

「……そうですよねぇ」


 【獅子の舞ビースト・ハード】はユナさんだけではなく、アーシアさんグレアさんシャロちゃんの4人でできている。

 他の3人の意見も当然、必要となる。

 他の3人……。


『ほーん……。アタシを見て怖がらないとは……お前。随分と肝が据わってるなぁ』


 大狼族のアーシアさん。


『ええ。ああいう風に書いたら逆に怪しんで来ないと思ってね』


 狐族のグレアさん。


『私は別に何もない。お腹すいた』


 大熊族のシャロちゃん。

 

 同じ獣人族であっても、それぞれ性格が違う。

 そして……。


『それとは他に獣人族には……発情期というものがある』


 発情期。


 まだまだ掴めないことばっかりだなぁ。


「それに……」

「それに?」

 

 あれ? まだ何かあるのかな?


 ユナさんは俺の方を何か考えているように見たが……。


「……いえ。なんでもありません。先程と言った通りなので……申し訳ありませんが、トライアル期間はまだまだ続きます」

「了解です! 元々一週間ありましたし、残りの6日も頑張るだけです!」

「頼もしいですね。長く話してすいません。今からは休憩ということで……とりあえず、お茶とお菓子を持ってきますね。お待ちください」

「ありがとうございます!」



◆◆


「……」


 キッチンに立つ私は……飲み物の準備もお菓子の準備もせず、ただ立ち尽くしていた。


「どうしましょうか……」


 私は、悩んでいる。

 悩んでいるのはもちろん……。


『その発情条件っていうのは……自分では分からないの。男の人に見つけてもらう他、ないらしいのよ。だからさっきアーシアが言っていたように結局、男が必要ってわけ』


 発情期。

 そして発情条件。

 

「発情条件……私の発情条件は多分……」


 自然と胸やお腹に手が伸びる。


 そう。ここも、その下も……発熱したみたいに、急に熱くなって……。


 あれが多分、発情条件が満たされそうな感覚。

 あの感じがMAXになったら、発情してるってことに……。


 しかし、いくら発情条件を満たせてとしても……いざ発情を発散してもらうとなると、どうしても男性の体力的な問題。

 性欲問題が関わってくる。


 だから……。

 アラタさんをパーティーに入れる上で最も知りたいこと。

 

 アラタさんにどれくらいの性欲と獣人の発情を解消してくれるほどの体力があるか、知らないといけない。


「アラタさん……」


 性格もいい、実力も申し分ない。

 まさしく、私が……【獅子の舞ビースト・ハード】が探し求めていた適任の男の人。


 そんな彼を———最終的には、犯す形になってしまう。


 優しいアラタさんのことだ。

 事情を話せば、協力してくれる……かもしれない。


 でも……。


 発情期の獣人に性欲でも力でも勝つことなんてできない。


 結局、アラタさんを犯す形になって。

 アラタさんの優しさに漬け込む形になって。

 アラタさんに怖い思いをさせて……。


 アラタさんまでも、このパーティーを抜けることになっ———


「ユナさーん」

「っ。ア、アラタさん!」


 声に反射的に振り返る。

 ドアの隙間から顔を覗かさせているアラタさんがいた。


 アラタさんは待っているはずじゃ——


「戻ってくるのが遅かったので、来ちゃいました」

「え……そんなに遅かったですか?」


 5分ぐらいは経ったと思っていたが、時計を見れば、20分ほど経っていた。

 

「すいませんっ。すぐにお茶とお菓子の準備をっ」


 まずはお湯を沸かすところから……と移動しようすれば、アラタさんが食堂に入ってきたのが尻目に見えた。


「じゃあ俺はお菓子の準備をしますね」

「あの、待っていてもらっても大丈夫ですよ?」

「待つのもいいですけど、食べるお菓子を2人で決めるのも良くないですか? と言っても、ユナさんの料理の手伝いしてる時、美味しそうなお菓子を見つけちゃって俺が食べてみたいだけなんですけどね。お菓子いくつか出してみてもいいですか?」

「はい、大丈夫ですが……」

「ありがとうございます!」


 にこっ、と笑みを浮かべてアラタさんはお菓子がある棚の方へと行った。


「……」

  

 アラタさんといると、変な感じがする。


 違和感とか、嫌悪感とかではない。

 

 ただ優しい人ってだけではなく……。


 もっと話したい。

 もっと知りたい。

 もっと近付きたい。

 もっと一緒に居たい。

 

 そういうことが頭にちらちら浮かぶ。


 そうなっている時点で、私のアラタさんへの見方はパーティーの新たなメンバー候補。

 だけではなく、気になる男の人……と、変化していっているのだろう。


「っ……」


 意識すると、身体が火照ってきた。


「このお菓子もうまそうですね。これも……」


 再びアラタさんの方を見れば、テーブルにお菓子を並べていた。


「んー、どれを食べようかなぁ。ユナさんはどれがいいですか? てか、どれが美味しいとかありますか?」


 アラタさんが私の方を向く。

 アラタさんが私のことを見てくれる。


 ただ、それだけなのに……そんなアラタさんが視界に映った瞬間、私の身体は一気に熱を増した。


「やっぱりチョコとか……っと、ユナさん?」


 気づけば、わたしはアラタさんに密着していた。


 依頼終わりで、身体からは仄かに汗の匂いがする。


「あの、ユナさん? くっつくのは構わないんですけど、俺汗かいてますから……」


 そんな彼に、さらに身体を寄せる。


「っ、ユナさん……? ど、どうかしましたか?」


 アラタさんの声が動揺している。


 私にくっつかれていること動揺しているというより……。


「っ……」


 ばちっと視線が合った私の顔を見て、動揺している。


 私の今の顔はどうなっているのだろうか?


 鏡を見ていないから分からない。

 顔も身体も熱いってことしか分からない。


 でもハッキリと分かっていることはある。


 ——アラタさんにこの火照りを、早く治めてほしい。早く……っ。

 

 そんなことが頭を過ると同時に、私はアラタさんの服を握り締めていた。

 縋りつき、離さない。


 上目遣いで……自然と、その言葉は出ていた。


「アラタさん……私と、えっちなことをしてください」


 さっきまでの葛藤はどこへ……?


 頭のどこかではだめと思ってても、身体と口は無意識に動いてしまう。


 これが————

 



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