第2話 S級パーティーのリーダーは、クロウサギの獣人

 翌日。

 俺は受付のお姉さんに言われ、冒険者ギルドに併設している酒場にいた。

 

「さて、S級パーティーって……どんな人がいるのだろうか」


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【急募】

『経験ゼロでも大丈夫! アットホームで優しい仲間たちです! 私たちS級パーティーと組みませんか?』


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 あの怪しげな文面を見て、面白そうという理由で話を聞いてみることにしたもの、実際にメンバーに会うのは緊張するものだ。


 S級というのだから、強いのは間違いない。

 やっぱりオーラから強者って感じなのかな?


 だったら、筋肉ムキムキで大柄の強面な男ばかりで———


「あのー……【獅子の舞ビースト・ハード】加入希望の方ですか?」


 ふと、背後から可愛らしい声が聞こえた。


 振りかえれば……思わず見惚れてしまった。


 艶やかな黒髪ロングに、大きな瞳。幼なさが残る童顔に、巨乳ですらっとした手足。


 そして何より目を惹くのは、頭から生えている黒く長い耳。ピクピク、と小さく動いている。


 確か、獣人って言うんだっけ?


「あの……」

「あ、はい! そうです!」


 見惚れている場合じゃないな! 

 出会ってから、面談は始まっているというし!


 俺が慌てて返事をすると、彼女は柔らかい笑みを浮かべた。


「良かったです。優しそうな方で」


 そう言って、俺の正面に座った。


「初めまして。【獅子の舞ビースト・ハード】のリーダーのユナと言います」

「俺は、アラタ・シナナイと言います……!」


 お互いに、浅くお辞儀。


 ユナさんは年齢は俺と同じか、少し下ぐらいかな?

 

 S級の実力があるメンバーを纏めるリーダーということなので、怖い人を想像していたが……ユナさんは、温厚で優しそうだ。

 あとめちゃくちゃ可愛い!


「色々と説明する前に……。まず、私たち【獅子の舞ビースト・ハード】のことをご存知ですか?」

「あー…。実は俺。今日この街に来たばかりで……。知らないですね。無知ですいませんっ」

「……なるほど」

 

 ユナさんの笑みがちょっと真剣な表情に変わる。


「……やっぱり、事前にパーティーのことを知っとく方がいいですよねっ。ましてやS級パーティーですし」

「いえ、大丈夫ですよ。知らない方がいいと思いますし……」

「? じゃあ今からしっかりと知っていきますね!」


 ちょっと気にかかる言葉があったものの、俺は話を聞く姿勢になる。


 それからユナさんから簡単な説明をされた。


 少し前にメンバーが抜けてしまったらしく、その代わりを探しているだとか。


 パーティー勧誘の文面に書いていた条件はからかいではなく、本当。

  

 あと、ユナさんはクロウサギの獣人らしい。


「一週間のトライアル期間を得て、パーティーに加入するかどうか、お互いに判断するのはどうでしょうか?」

「いいですね。それでお願いします!」

「ではまた2日後に、ここでお会いしましょう」

「はい」

「では、失礼しますね」


 ユナさんは軽くお辞儀をして、冒険者ギルドから出ていく。


「ふぅ……ちょっと緊張したけど、いい人そうで良かった」


 俺の前世のS級パーティーのイメージというと……。


『お前を追放する!』

『お前は無能だ。さっさと出ていけッ』

『俺が活躍できないのは……全部アイツのせいだッ。アイツさえいなくなれば……』


 傲慢で自分の能力を過信して……何より、有能な人物を何故か追放するおバカなイメージが多い。

 S級パーティーや勇者パーティーなのにな。

 まあ、創作物なんだけどな。


 その点、ユナさんは賢そうだ。これなら、他のメンバーも……。


「あっ! そういえば、パーティーメンバーの男女比を聞くのを、忘れていた!」


 S級パーティーということに気を取られ、聞くのを忘れていた。


 やはり、パーティーの男女比というのは気になるもの。


 リーダーのユナさんが女性だというのは分かった。

 ただ他のメンバーが全員、男だった場合……うん、想像しただけて脳が破壊されそうだ。


 できることなら、メンバー全員がユナさんみたいに美女だといいんだけどなぁー。


 そんなことを考えている時だった。


「おい、にいちゃん。あの【獅子の舞ビースト・ハード】に入るつもりか?」

「え? はい、そうですけど……」


 突然、両手にジョッキを持ったおじさんに話しかけられた。

 この人も冒険者なのだろう。

 顔が赤いし、ちょっと酒臭い。

 

 俺、酔っ払いに絡まれてる?


「そう迷惑そうな顔をするな。まあ急に話しかけたのは悪い。だが、どうしても話しておきたくてな……。ほれ、ジュースでも飲みながら聞いてくれ」

「あ、あざっす……」


 2つ持っていたジョッキのうち、1つを俺の前に置いた。

 

 お酒かと思っていたが、飲んでみると確かに柑橘系のジュース……。

 

 まるで、最初から俺に話しかけるみたいだったようだ。


「部外者の俺がこう言うのもなんだが……あのパーティーに入るのはやめた方がいい」

「……なんでですか?」


 俺は首を傾げる。


 ユナさんは優しそうだし、条件はいいのだが……。


「S級パーティー【獅子の舞ビースト・ハード】は……何故か、んだ」


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