【急募】経験ゼロでも大丈夫!私たちS級パーティーと組みませんか?〜獣人だらけのパーティーだった件
悠/陽波ゆうい
第1話 なんか怪しいバイトの文面みたいで面白い
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【急募】
『経験ゼロでも大丈夫! アットホームで優しい仲間たちです! 私たちS級パーティーと組みませんか?』
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「ふっ。なんか……怪しいバイトの文面みたいだな」
討伐依頼が張り出されている掲示板の隣には、パーティーメンバーの勧誘の紙がたくさん貼られていた。
その1つに俺は目を奪われていた。
というよりは、どこか懐かしさを感じていた。
「あったあった。こういう文面。求人募集やSNSに流れてくるやつであったよなぁ〜」
こういう文面のところほど、「なんで分からないんだ!」「なんでできないんだ!」ってキレられたり、呆れられたりするんだよなぁ。
じゃあ経験ゼロとか初心者大歓迎って書くなよって思ってたっけ。
「まあでも……異世界でもそうなのかは分からないけど」
そう、ここは異世界———
突然だが俺、アラタ・シナナイには前世の記憶がある。
バイト帰りのある日。トラックに轢かれて死んだと思えば、女神と名乗る人がいて、異世界への転生を勧められたというラノベや漫画の王道の始まり方を得て……今は異世界『ユグドラシル』で過ごしている。
異世界生活は1年目で、まだまだ分からないことだらけだ。
だから冒険者パーティーにでも入って色々学ぼうと思い、冒険ギルドに立ち寄り……そして今に至る。
「にしても条件がいいなぁ……」
俺はまた、パーティーメンバー募集の文面に注目する。
今度は後半部分。
『衣食住保証。3食昼寝付き!』
冒険者稼業といえば、魔物討伐などの依頼をこなし、金銭を得ないと衣食住どころか、3食の飯にもありつけない。
実力がないうちは、野宿や飯抜きなどはあるあるだとか。
そんな中、こんなに好待遇だと……逆に怪しい感じもする。
初心者冒険者を揶揄う文面かもしれと疑ってしまうのも無理はないだろう。
だから、こうしてまだ貼り付けてある。
が、最後の文字。差出人を見れば……印象が変わる。
『S級パーティー【
「S級パーティーねぇ……」
S級パーティーといえば、冒険者パーティーの最高ランク。
異世界に転生してきた俺でも分かる。
数ある冒険者の中でも最強集団ってことが。
「そんなS級パーティーが【急募】ってことは……これから大きな依頼に臨むかもしれないなぁ」
やっぱりドラゴン討伐だったりするのかな!
いや、王族関係の極秘任務だったり……。
「何にしろ……どうせ入るんだったら、S級パーティーがいいよな。なっ、【エクスカリバー】。お前の活躍はド派手にいかないと」
背負っている剣に触れる。
この剣は、女神様からの転生特典だ。
【聖剣エクスカリバー】
名前から察すると思うが、めちゃくちゃ強いチート武器。
早く試してみたくて、転生早々魔物を探して、見つけるたびにザクザク切りまくったりした。
剣としての機能性だけではなく、身体能力を底上げし、魔力総量も大幅に上げてくれる。
おかげで俺の身体は、痛みや疲れを知らない無敵の身体である。
「文面はやっぱり怪しいが……たとえ詐欺だったとしても、俺には【エクスカリバー】があるし……なんとかなるだろう! よし! 話だけでも聞いてみるか!」
S級パーティーという単語。そして条件の良さに興味が湧いた俺は、パーティーメンバー募集の紙を取り、受付へ。
「あのっ。このパーティーのお話を聞きたいのですが……」
「はい。かしこまりまし……あ」
「ん?」
受付のお姉さんが俺が渡した紙に視線を向けたと思えば、小さく声を漏らした。
「大丈夫……ですか?」
心底、心配した様子の受付のお姉さん。
きっと俺がS級パーティーについていける実力があるのか心配なのだろう。
「はい! 大丈夫です! 俺、体力とか身体には自信あるんで!」
「体力……身体……」
エクスカリバーで強化しまくっているからな!
「……そ、そうですか。パーティーを募集している【
「分かりました!」
受付のお姉さんに元気よく返事をして、ついでに取ってきた討伐依頼も出す。
話を聞くだけって言っても、実力を見るために実践とかもあるかもしれない。
ちゃんと体は動かしとかないとな。
◆◆
アラタが去ってしばらくした頃。
「あっ……。ユナさん!」
「……? はい?」
討伐報告をするため受付に向かう彼女よりも先に。
受付嬢は慌てて彼女の名前を呼んだ。
呼ばれたのは、背中が大胆に開いた冒険者服を見に守った黒髪の美女。
そして……彼女こそが、S級パーティー【
その証拠に、先ほどから彼女が動くたびに冒険者ギルド内の冒険者たちがザワザワと騒ぎ、目で追っている。
「あの、私に何か……」
ユナはどこかオドオドした様子で聞く。
「ユナさん。【
「!? ほ、本当ですか……!」
「はい。男性の方です。年齢は大体16歳くらいでしょうか。背中に剣を背負っていて、元気がある方でした」
「聞く限りでは……駆け出しの冒険者っぽいですね……」
「ですが、何やら自信満々な様子でした。体力と身体には自信があるとか」
「……」
ユナの表情は依然、明るいものにはならない。
むしろ、表情はもっと険しくなっていた。
「明日。その方と面談しますか?」
「はい、お願いします……」
それから討伐報告も終え、冒険者ギルドから出る。
「新しい人……。また、辞めなければいいのですが……」
そう呟くユナの頭には──黒色で長い、クロウサギの耳。
獣人であることの証明である特徴的な耳が生えていた。
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