第4話 マジで実力を持ったマジのS級パーティー

 2日後。

 俺とユナさんはギルドに併設している酒場に再び集合した。


「お久しぶりです、アラタさん。お元気でしたか?」

「そりゃもう今日が楽しみで元気いっぱいですよ!」

「そうですか。それは頼もしいですね」


 ユナさんが小さく笑う。

 それとともに、黒く長いウサ耳もピクピクと動く。


 今日もユナさんは綺麗で可愛いな!

 

「まず、私たちの拠点へ案内します。それから他のメンバーの紹介も……。今日から一週間よろしくお願いします」

「はい!」


 いよいよ始まるのか……。


 S級パーティー【獅子の舞ビースト・ハード


 色々とありそうなものの……噂と俺の【エクスカリバー】の力を確かめるためにも、この一週間のトライアル期間を乗り越えてみせる!


 ユナさんの後をついていき、冒険者ギルドを出ようとした時だった。


「おい、ちょっと待てよ」

「……」

「え?」


 ひとりの男が近づいてきた。

 なんかどこかで見たことあるようなガラの悪い男。


 そう、例えるなら……冒険ギルドにて主人公の連れの美女を引き抜こうとして、すぐにやられるモブみたいな男だ。


「よぉ、にいちゃん……」


 ぽん、と。俺の肩に男の手が置かれた。


「……なんですか?」

「そんな怖い顔してつれねーなぁ〜。お前に興味があるんだ。うちのパーティーに入らないか?」

「そんなこと言ってもユナさんは……。……? えっ、俺!?」

「ああ、お前だよ。にいちゃん」


 今度は、肩に手を回された。


 こういうのって美女限定イベントじゃないの!?

 

「うちで鍛えればきっといい前衛になる。いい男にもなりそうだなぁ……。クックック……」

「……は、はぁ?」


 ガラの悪い顔の割に、言うことが真面目だ。

 あと、なんかゾワゾワ鳥肌が立つのだが……。

 

 なに? そっちの趣味?

 俺、女の子が好きなんだけど。  


 よく見れば頬は薄らと赤いし、酒臭いっ!

 この前とは違って、ほんとに酔っ払いだな。酔っ払いが俺に絡んできた。

 ………ええ。迷惑なんだけど。


「なぁ……こんな女のところより、俺のとこにきな。全員男で安心だぁ。男同士、汗水垂らしてやっていく方がいいだろう?」

「あ、いやぁ……」


 男のペースに完全に呑まれていたが……。


 パシッ。


 俺の肩に回していた男の手が、ユナさんによって払われた。


「っ。いーてーなっ!」

「強引ですいません。しかし……アラタさんから離れてください。彼は私たち【獅子の舞ビースト・ハード】の大切なメンバー候補です」

「へぇ……大切な。メンバー候補……。クックック……ハッハッハッ!! なーにが大切なだ! どーせ今回も、男は何故かパーティーから抜けるだろうがぁ!」

「……」


 ユナさんが言い返さない。

 口を閉ざしているだけ。


 ということは、男が抜けているのは本当なのか……?


「だがなぁ……アンタの見る目だけは信用している。面談した後に拠点に連れていく時は、それなりに実力があると判断した時だ。だから、俺が引き抜く……引き抜いたって構わないだろう? どーせ、男は自ら抜けるんだからなぁ!」

「……」

 

 男に煽り口調で言われようが、ユナさんは無言のまま。


「ユ、ユナさん……?」

「アラタさん。行きましょう」

「は、はい」

「……あん? 無視だと?」


 びきっ、と額に血管を浮かべる男。


「獣人風情が……。S級だからって、調子乗ってんじゃあねえぞーー!!」


 酒が回ってきたのか、ユナさんの態度が癪に障ったのか。


 男は背負っていた大斧を抜いてユナさんめがけて斧を振り下ろした。 


 素早い動作だ。それなりの実力者とみた。


 だが、【エクスカリバー】で強化された俺の目には、スローモーションのように映る。


 ユナさんが怪我する前に、【エクスカリバー】で男の斧を壊してやろうと……思った時だった。


 バキッッッッッッッッ!!


「!? ……チッ」

「……」


 俺がエクスカリバーを鞘から抜く前に。

 ユナさんの華麗な足蹴りによって、斧は粉々にされていた。


 ……え。

 ええええええ!!??

 

 こういう時って美女を助けて俺が、俺つえええするんじゃないの!?

 【エクスカリバー】の出番は!?


「斧は弁償します。ですので……」

「チッ。……クソがッ」


 男は舌打ちをして、去っていった。


 依然、ユナさんの表情は落ち着いたもので……。

 俺の方を振り向いた。


「すいません、アラタさん。お見苦しいところをお見せして」

「い、いえ……」

「では行きましょうか」

「は、はい」


 ユナさんが歩き出して、俺も後をついていく。


 今のを見て……分かったことが2

 まず……。


『お前を追放する!』

『お前は無能だ。さっさと出ていけッ』

『俺が活躍できないのは……全部アイツのせいだッ。アイツさえいなくなれば……』


 小説や漫画の無能なS級パーティーじゃない。

 

獅子の舞ビースト・ハード


 マジで実力を持ったマジのS級パーティーだ!!!!!



◆◆


 街から遠く離れたところに来た。

 周りには住宅はなく、森林ばかり。

 

 何もないと思われたが……もう少し歩けば、でかい屋敷がポツンと建っていた。


「着きました。ここが私たちの拠点であり、衣食住をしている場所です」

「おお!」


 確かにこのでかい屋敷を見れば、『衣食住保証。3食昼寝付き!』という条件が出せるのも納得だ。


 早速、屋敷の中に入ると思いきや……。


「それでその……。アラタさん。私たち【獅子の舞ビースト・ハード】のことをご存知ですか?」

「!」


 面談した時と同じ質問。


 でもあの時とは俺の返答は違う。

 

 ユナさんもそれを分かっているのか、少し不安げな瞳で俺を見ていた。

 

「何故か、男だけが抜けるS級パーティー……ですっけ?」


 変に気を使う場面ではなさそうだ。

 ここは、正直に言う。


「っ……。そうですか……。アラタさんはその噂を信じますか?」


 不安げな瞳のまま、聞かれる。


「半分は信じています」

「そうですよね……」

「でも、半分は信じてません」

「っ!」

 

 ぴくっ、と。ユナさんの黒く長いウサ耳が大きく動いた。


「真実を知るために……ではないですけど。色々と知るために俺はここまで来ました。改めてよろしくお願いします!」


 そう言って、浅くお辞儀。

 

「……そう、ですか。アラタさんはもしかしたら……」

「?」

「いえ……。なんでもありません。では、屋敷の中に」


 でかい玄関に、長い廊下をちょっと歩いて……。

 

「ここです」


 ユナさんが一つの部屋の前で止まる。


 コンコンと扉をノックしてから入るユナさんに続いて、俺も部屋に入れば。


「来たな……男……」

「男の人ですね……」

「ん、男……」


 ソファに腰掛けて待っていたのは、3人。  

 パーティーメンバーだよな。


 3人とも俺に……鋭い視線を向けている。


 歓迎は……されてないな。

 めちゃくちゃ警戒されている。

 空気もヒリついている。


「あっ」


 そんな中。俺は……ついつい視線がいってしまった。


 他の3人も頭の上に耳が生えている。

 特徴的な耳が……。


「全員……だ!!」


 気づけば、そう叫んでいた。




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