第131話 すべきことをするために
山三屋先輩と話して、オレの心残りが解消した途端、アオイ、凜、リーズ、盈瑠、リサ、谷崎さんの6人が突然、水晶の花畑に姿を現した。
罪悪感が完全に消えたわけではないが、この深異界『夢現境』がオレの意志に反応していることは間違いない。
前回、先生とここを訪れた時はここまであからさまじゃなかった。
オレ以外にも先輩やほかのみんなの意識も夢現境に影響を与えているようだが、オレほど顕著じゃない。今分かったことではあるが、やはり、この深異界に変化を起こしている主体はオレとみるべきだろう。
前との違いは、オレが意識体であることと今もポケットの中にある眠り姫からもらった『銀色の鍵』だ。
その二つが作用することによって、現在のこの場所『夢現境』は一部ではあるがオレの制御下にあると言っても過言ではない。
無論、それはこの異界の主である眠り姫がオレにその権限を付与しているからできていることだ。
今は姿が見えないが、オレたちがここにいるのは眠り姫の気遣いのようなもの。見守ってくれているだろう彼女に感謝しつつ、オレは皆と向かい合う。
まずは状況説明から。本題に入るのはその後だ。
みんながここにいるのはオレが『誰にも邪魔をされず、かつ、誰にも聞かれずに話をできる場所』を望んだからだ。
原理的には、その願いが無意識から銀色の鍵を通じて、眠り姫に伝わり、眠りの中でオレが招かれたということになる。
たしかに、機密性において深異界以上の場所は存在しない。
なにせ、七人の魔人でさえ自分が担当する以外の深異界には容易に干渉できない。当然、該当する異界の管理者である魔人には聞かれることになるが、今回の場合はそれも気にしなくていい。眠り姫は八人目の魔人の誕生に反対こそしなかったが、心情的には人類よりだ。その点においては信じられる。
そもそもこの場所に招かれたこと自体が、眠り姫の気遣いと言ってもいい。
本当なら、誘先生に頼んでそう言う場所を用意してもらおうと思っていたが、こうして招かれている以上はこの機会を活かさない手はない。
……オレ一人で全てを解決できれば一番よかったんだが、そうもいかないことを今は分かっている。
心苦しいが、皆を巻き込んで、頼る。その時が来たのだ。
◇
「――つまり、このままだと八人目の魔人の誕生により、この世界が滅ぶ。そんな大事なことを貴方はこれまで秘密にしていたとそういうわけですか」
オレが全てを告白し終えると、アオイがそう話をまとめた。
怒ってはいない。ただ納得したような、あるいは呆れたようなそんな口ぶりだった。
ちなみに、アオイの寝間着は黒色の下着の上からYシャツを羽織っているだけだ。薄着も薄着なせいでグラマラスなボディラインがはっきり見て取れて、目に毒を通り越して視神経を通して脳の本能的な部位をわしづかみにされているみたいだ。
端的に言えば、ドチャクソエロい。きちんと気を引き締めてないとそういうイメージが具現化してしまいそうだ。
……だけど、そのYシャツ。オレのじゃない? 当たり前のように着てらっしゃいますけど、オレのですよね?
「……なるほど、そういうことだったんだ。そりゃ簡単には話せないよね。ところで、山縣さん、それ、たぶんだけど、蘆屋君のシャツ……?」
納得しつつも、泥沼に足を突っ込んでいるのは凜だ。アオイが「ええ、何か問題でも?」と答えると「彼シャツだ……」と呟いたきり機能停止している。
こいつもこいつでTシャツ一枚に短パンとリラックスしすぎな服装をしている。
それだけなら寝巻なんだから別にいいと思うんだが、問題はその下だ。たぶん、下着、履いて、ない。おかげで女性的な体のラインが見え見えになってしまっている。
……オレのせいと言えばそうなんだが、ここには凜の秘密を知らなかった人が一名いる。その1名はというと――、
「つちみかどくんが……おんなの……こ……? おとこのこ?」
谷崎さんである。かわいい白色のふりふりつきパジャマを着て、虚ろな目でそんなことをつぶやいている。
そう、彼女は知ってしまったのだ。自分の想い人『土御門輪』君が『土御門凜』ちゃんであることを。
そのショックは計り知れない。オレも凜の性別の件について知った時はかなりショックを受けた。それこそ、天地がひっくり返って、目の前が真っ暗になった感じだ。
オレだったら3日は寝込む。実際、本人から明かされた時もあの状況じゃなかったらそうしてた。
しかし、まさかこんな形で知られてしまうとは……かわいそうな、谷崎さん。凜の頼みとはいえ黙っていたオレが言えた義理ではないが、強く生きてほしい。
「しおり! しっかりして! ほ、ほら、ノマカプばっかりが花じゃないし! まだいけるって! 推し方もいろいろあるし!」
そんな谷崎さんを慰めているのは、リサだ。だが、本人もだいぶテンパってるのか、『朽上理沙』じゃなくて『ゴールデンひまわり』の面が出ている。
実際、服装もそんな感じだ。キャラもののTシャツ。あれはあれかな、日曜の朝にやっている女児向けのやつか。そういや、好きだって言ってたな、前世で。
そのことを誰も指摘しないのは、優しさ故か、それとも、オレの告白の重大さゆえか……まあ、そのわりには関係ないことで呆然となっているのが若干名いるわけだが。
というか、結構やばいことを話したつもりなのだが、皆結構平気そうなのはなんでだ……?
あれか、夢の中でのことだし、それこそ現実味がないのか?
「……八人目の魔人。それも容疑者は解体局の人間、それもミチタカの身内。なにか大変なことになっていて、それを隠しているのは察していましたが……まさかそれほどの大事とは……」
「……だよな。結構大変なことだよな」
オレの話を聞いて真剣な顔をしているのはリーズくらいのものだ。そのリーズもリーズで、かなりエロティックな服装をしている。
うすい、うっすーい、ベージュ色のネグリジェ。ここから見ても仕立ての良さと刺繡の美しさが見て取られるが、それに何より薄い。
白い肌が透けて見えているし、隠されているのは局部くらいのもの。体のラインは裾で隠されてはいるものの、それが逆に色気を醸し出している。
その上で考え事をするために、腕組をしているせいで、その、胸が強調されている。でかい、まじででかい、説明不要。
真剣に考えてくれているのはいいんだが、こう、エロすぎて集中できない。リーズが悪いわけじゃないが、このままだとオレの煩悩が駄々洩れになってこの夢の世界がピンク色に染まりかねない。自重しよう、マジで。
ちなみに、先輩は自分とオレとの会話を聞かれていたことにまだ悶絶している。どうにか話は耳に入っているようだが、完全にショートしていた。
哀れ。気持ちはよくわかる。オレも結構、恥ずかしいこと言ってたし……ああいや、それはともかくとして、本題に戻らないと……、
「……できれば、このことはみんなに黙っているつもりだったんだが――」
「それでもうどうしようもなくなったので、こんなところで話したと。まったくあなたらしいといえばあなたらしいですが、そういうのを余計な心配と言うのです。まあ、決して外には出せない情報ゆえということもあるでしょうが」
アオイの一言に、図星を突かれる。おそらくオレの背後にはギクッという擬音が目に見える形で現れていることだろう。
「だが、こんなことにみんなを巻き込むのは……」
「巻き込む? 世界の危機にですか? それこそ今更ですね。そんなものは
ふたたび、アオイによる
確かにそうだ。オレもそれは分かっている。
ここにいるのはオレの愛する『BABEL』の登場人物たちだ。勇気も才能も
頼れば、皆は応えてくれる。それをここまで時間がかかってしまったのは情報の漏洩を防ぐためというのもあるが、やはり、オレのエゴもある。
結局、オタクとしての自分と今の蘆屋道孝としての自分、その二つの間でどっちつかずで揺れ続けているのだ。
そんなオレでもみんなは信じてくれている、受け入れてくれている。その想いに報いたい。それができなければ、オタクの矜持も、男としての甲斐性もあったもんじゃない。
それに、家族としても果たすべき責任がオレにはある。彩芽と盈瑠、2人の妹を守るにはオレの矜持でさえ差し出す覚悟だ。
「言いたいことはほかにも山ほどありますが、まあ、それは
「……そうだな。わかってる」
アオイに言われて、後ろを振り向く。そこにはオレの
彼女の名は
――――――――
あとがき
次の更新は9月21日土曜日です! 応援いただけると励みになります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます