第43話 合同任務
最初に
オレと盈瑠の決闘にも意味はあったようでB班の方にも緊張感が生まれてたし、一番大事な『油断大敵』という部分は伝わった。
それに盈瑠に関しては術者としての実力はすでにハイレベルだ。だから、必要なのはノウハウではなく、精神性のレクチャー。そのためにも一度きっちり負かしておきたかった。まさか泣くとは思ってなかったが、概ね思惑通りに行ったといえる。
あと、アオイとリーズも意外と熱心にB班を指導していた。特にリーズなんてそれぞれの術の穴を指摘して、改善案を出していた。生来の面倒見の良さが存分に発揮された結果だ。
問題があるとすれば、この合同訓練の真の目的ともいえる土御門凜ハーレム計画何一つとして進まなかったことか。
結局、来なかったしな! あの野郎、もとい、彼女。急に決まったことだから仕方がないと言えば、仕方ないんだが、このままボッチでいてもらうわけにはいかないのでまた別の手を考えるほかない。
まあ、今回は本人が来なかった分、オレが凜の良いところを谷崎さんに吹き込んでおいたから好感度は上がっている。あとは凜次第だが、うまく誘導できるといいんだが……、
ちなみに、オレはリーズのおかげでだいぶ楽ができた。骸武者は結局、盈瑠に返却することになったが、その分新たな式神の調整に集中できたし、これで新任務にも対応できるようになった。
そうして翌日、月曜の朝、教室でのことだ。
聖塔学園の生徒に登校の義務はなく、実習こと任務をこなしてさえ言えば文句は言われないが、一応学生の身としてオレは毎朝、ここに顔を出すことにしている。
そんなオレにならってか、二年生である山三屋先輩以外の『甲』の面子は必ずと言ってもいいほどこの教室に顔を出す。結局昨日は不参加だった我らの主人公もここには現れた。
ちなみにアオイが来るのは朝の鍛錬を終えてからだからだいたい最後だ。
「で、お前、
「なに? 気になるの? 僕のこと?」
オレの問いに、凜は嬉しそうに聞き返してくる。ふふん、とか言ってるところ悪いが、全然、そう言う意味じゃなくて、新たにどこかでフラグを立ててないか期待して聞いてるんだが、この感じだとそれはなさそうだ。
「で、何してたんだ、実際」
「へー、気になるんだ、ボクのこと。気になっちゃんだー、蘆屋君。そんなに気になるなら教えてあげようかなぁー」
「えらく機嫌がいいな。そんなにいいことでもあったのか」
「まあねぇー」
原作における土御門輪の趣味と言えば、読書に漫画、アニメ、あとはゲームか。
かなりのインドア派だが、その理由はこれらの媒体には運命視の魔眼が適応されないから。生身の人間が行うスポーツとか実写の映画やドラマではすぐに魔眼が発動して結果や展開を見てしまう。つまり、凜には先の展開を素直に楽しめる娯楽がそれくらいしかないのだ。
ということは、つまり……、
「……そういや、昨日はモンブレの新作の発売日か。おまえ、一日やってたな? それで連絡が来ているのに気付かなかった、と」
「ギクッ」
モンブレとはモンスターブレイカーの略で、この世界で大ヒットしているモンスター討伐アクションゲームのことを指す。まあ、ようはモン〇ンのことだ。
「……まあ、急に誘ったのはオレだから責めやしないが、ちゃんと寝たのか?」
「う、うん、モンブレは大好きだけど、蘆屋君と会うのも好きだし……僕、他に友達いないし……」
「そうか……」
「というか、蘆屋君、モンブレ知ってるんだね。この学校の人たちってみんなそういうのとは関わらないのかと思ってた」
「普通はな。まあ、ほかにも何人かは知ってるんじゃないか、モンブレ」
「じゃあ、一緒にやらない? モンブレ、楽しいよ!」
化け
転生してから全くゲームとかできてないし、悪くないかもしれない。
でも、あんまり凜と親しくしすぎるのもな、という理性もある。なにせ性別が違うとはいえ原作主人公だ。蘆屋道孝ルートなんて誰にも需要のない二次創作みたいな分岐をしたら、今度こそオレの原作知識は役に立たなくなる。
だけどなぁ、ゲームもしたいしなぁ……そもそも、凜とはもう仲良くなってしまっているわけだし、いまさらそんなことを気にしてもなぁみたいな考えも出てくるし……あれ、オレ、このままだと闇のオタクに真っ逆さまか?
「あら、何の話をしてらっしゃるのかしら。随分楽しそうですが」
教室に入ってきたリーズがそう尋ねる。毎朝きちんと服装を整えて髪型をセットしている彼女には本当頭が下がる。
「あ、ウィンカースさん。そうだ、ウィンカースさんも一緒にやろうよ、モンブレ。楽しいよ!」
そんなリーズを凜がゲームに誘う。モンブレが何かさえリーズは知らないと思うが……、
「モン……ブレ……? モンブランの一種か何かですか……? おいしいのです?」
「ゲームだよ! ゲーム! あ、そうだ、せっかくだから山三屋先輩と山縣さんも誘おう! フルパでできるよ、フルパ!」
「フルパか……それはいいな……」
「フルパ……? 何がいっぱいなのです? わたくしを置いてけぼりにしないでくださいます?」
原作主人公と原作登場人物が揃ってのゲーム実況、それだけでコンテンツとして売り出せそうだ。というか、オレが見たい。てか、参加せずに見ていてもいいかな? オレ邪魔だろうし。
「というか、リン。貴方いつまでわたくしをウィンカースさんと呼ぶつもりですか。いちいちそれでは呼びにくいでしょう」
「え? 呼んでいいの? あんなに怒ってたのに?」
「もう昔の話です。一応、貴方とわたくしは同じ班で戦う同志。共に死線を乗り越えた以上は、わだかまりを持ち続けるのは愚かなことです。ですので、特別に、わたくしを名前で呼ぶことを許しましょう」
「じゃあ、友達だ! 改めてよろしくね、リーズ!」
「愛称呼びまでは許してませんが……まあいいでしょう。貴方、言い出したら聞かないタイプでしょうし」
「うん! やったよ、蘆屋君! 友達出来た!」
「お、おう、その近いぞ」
喜色満面の凜にオレまで嬉しくなってくる。だが、抱き着いてくるのはやめてほしい。さらしを巻いててもいろいろ当たってるし、こんなところをアオイに見られたらやばい。浮気認定で即アウトだ。
というか、まず、今友達になったリーズがすごいにらんでるぞ。離れようね。
でも、こういう可愛いところが、凛の主人公としての魅力だ。普段はクールキャラなのにふとした時に見せる年相応の仕草や表情、そのギャップでヒロインもプレイヤーも魅了してきたのだ。
……まあ、この世界ではその前提となるクールキャラが崩壊しつつあるわけだが。
「――誰かいないかなと思ってダメもとで来てみたけど、みんな楽しそうだね! 仲良きことは素晴らしいことだ! うんうん、担任教師として鼻が高いよ!」
そんなことを言いながら教室に入ってきたのは、誘命先生。珍しい、普段は魔人としてあちこちをひっかきまわしているから、実習の時以外に学園に顔を出すことは滅多に――ああ、そういうことか。
「その調子なら次の任務も問題なく乗り越えられそうだね! まあ、そうは言っても死ぬときは死ぬのが人生だけど!」
信じられないほど無神経な一言だが、内容は予想通りだ。
以前から通達されていた新任務。今週のどこかでくるのはわかっていたが、まさか初っ端月曜に来るというのはさすがに想定外だった。
でも、準備はできている。常に最悪を想定し、仮にその最悪の事態が訪れたとしても対処できるようにするのが、探索者の心得だ。
「任務の開始は今日の17時! 特殊探索小隊『甲』は全員参加! ついでに、初のB班改め探索小隊『乙』との合同任務だよ! クラス全員で任務なんてまるで修学旅行だね! 楽しみにしてて!」
「……合同」
「任務……」
「え、B班の人たちと? 僕、話したことほとんどないけど大丈夫かな……」
どこまでもずれたことを言っている凜はともかくとして、オレとリーズは事態の異常さを理解している。
解体局は規則で一度に一つの異界に投入する人数は四人から六人の小隊のみと定めている。これは情報のない異界に一度に多くの人員を投入して犠牲者を増やすことを避けるためだ。
しかし、この規則には一つだけ例外規定が存在する。複数の異界が重なることによって生じ、内部にさまざまな異界を内包する大異界、その攻略に際してのみ人数制限が解除されるのだ。
そのため人数制限を排した合同任務となれば、探索対象は大異界しかありえない。
そして、大異界の危険性は通常の異界の比じゃない。最低でも異界深度はA以上。まず間違いなく犠牲者がでる深度だ。
……今度ばかりはオレも覚悟を決めなけれればならない。なにせ、原作における蘆屋道孝は大異界で死ぬことが多い。ここを越えるのはオレがこの先も生きているための重要な第一歩なのだ。
◇
大異界攻略イベントは原作『BABEL』にも存在している。
時期としてはストーリーが序盤から中盤に差し掛かる、夏休み前。序盤の山場ともいえるタイミングで大異界は主人公一行の前に立ちふさがる。
今はまだ6月だから時期的には少し早いが、重要なのは序盤の山場という点。ここを乗り越えた後に、主人公『土御門凜』は個別ルートに入るための重要な選択肢を迎えることになる。
つまり、共通ルートから個別ルートへの分岐が確定する。
そうなった場合、蘆屋道孝は高確率で死ぬ。アオイや夏休み中に登場する上級生や学園外のヒロインたちのルートに進む場合は夏休み後まで生き延びるが、原作フローチャート(オレ作成)における蘆屋道孝の死のうち半数以上がこの大異界攻略イベントの周辺に集中しているのだ。
逆に言えば、この大異界イベントさえ乗り切ればオレの死の可能性はグンと下がるということでもある。
そのための準備は入学までの10年で入念に整えてきた。入学以来の数々の危機を乗り越えることができたのもその準備のおかげと言っても過言ではない。
だから、先生が次の任務は大異界の攻略だと言った時、オレはついに来たかという恐怖と同時に高揚していた。10年鍛えに鍛えた術が真価を発揮する時が来た、いつ死ぬかわからないという状況も少しはマシになる、そう思っていたのだが――、
「今回の任務は、大異界の調査任務だよ。戦闘の必要はないだろうから、安心してね。あ、でも油断はしちゃだめだよ。あの街、怪異の数だけはすごいんだから」
教室での告知の後、扉の間にオレ達『甲』とB班改め『乙』を集めてのブリーフィングで、死神は開口一番、そう言い放った。
大異界と聞いて、少なからぬ動揺がほぼ全員に広がる。スカウト組もそろそろ知識をつけていい頃合いだから、当然の反応ではある。うちの凛が暢気すぎるのだ。
だが、オレの動揺は全く別の理由からだ。
先生は今回の任務を調査任務と言った。解体任務ではなくだ。
つまり、この新しい任務はオレの想定していた大異界攻略じゃない。別のイベントだ。けれど、ホテルの一件のような全く未知の事態というわけでもない。
先生は『街』と言った。大異界に、街。この二つに該当する原作イベントが一つある。
「今回の調査地は、『
先生が告げた任務地の名はオレの予想通りのものだ。
……なんというか少し拍子抜けだ。もちろん油断も慢心もしていないが、原作通りのイベントならば戦闘は起きない平和な調査になる。
「四辻商店街というとあの四辻商店街ですか? 解体局が管理しているあの?」
「そうだよ! よく知ってたね、リーズリット。勉強熱心な君には死神さんポイント十点を上げちゃおう」
「ど、どうも。でも、何に使えるのでしょう、そのポイント……」
多分考えたら負けだと思うぞ、リーズ。
それはそれとして、リーズの言う通り四辻商店街は探索者の間では有名な異界の一つだ。B班の中でもその名前を知るものは少し安心したようだった。特に、合流したばかりの盈瑠など分かりやすい。大異界と聞いて肩に力が入っていたが、今はだいぶリラックスしていた。
が、オレの視線に気付くと「べつにうちはどうもありませんけど?」みたいな顔をしてくる。かわいげのない奴め。
四辻商店街の有名な理由は、その異界が解体されるのではなく解体局によって管理、保護されているからだ。つまり、異界の解体を絶対の使命とする解体局が存在を容認し、無用な干渉を受けないように守っている異界があるということなのだ。
「えと、蘆屋君、解体局って異界は全部解体するんじゃないの?」
凛が言った。頭の上に疑問符が見えそうくらいには困惑している。まあ、異界は解体、切除するものであるという大前提を習ったのでさえ最近なんだから無理もない。
「基本はそうだ。だが、その基本にも例外があってな。四辻商店街はその一つで、主に文化保全、環境保護、生態系保存を名目に管理されてる」
「なんか、自然公園みたいな感じなの?」
「まあ、そんな感じだ。行ってみればわかる。気に入るぞ」
解体局が管理している異界はすべてその危険性以上に人類に有益な可能性を持つがゆえにその存在を許されている。
例えば、保護区である四辻商店街の他に無限に知識を蓄え続ける螺旋図書館やあらゆるものを呑み込む虚ろの大穴、時間の完全に停止した殺人現場などがある。
その中でも四辻商店街は特に危険性が低く、安全な異界だ。
「でも、先生が言うにはたくさん怪異がいるんでしょ? 大丈夫なの?」
「それはそうなんが……まあ、心配はいらない」
オレの念押しにもどこかぴんと来ていない凛。まあ、当然の反応だ。異界は人間に対する悪意に満ちた危険な場所、スカウト組の彼女にはその認識しかないはずだ。
というか、本来ここら辺の知識は教師がちゃんと週一の授業でレクチャーすべきなんだが、誘命にそれを求めるの熊にテーブルマナー期待するようなものだ。
なので、不本意かつ性に合わないが、そこら辺はオレが補うほかない。
「怪異は危険な存在だが、特定の条件下では無害化することがある。オレの式神だって怪異だけど味方だろ?」
「なるほど。その感じだとこれから行く異界では怪異がみんな襲ってこないようになってるってこと?」
「そういうことだ。詳しくは、そうだな、中に入ってから説明するよ」
正確にはこちらから攻撃を仕掛けない限りは、という条件こそつくものの、四辻商店街の中の怪異が人を傷つけることはない。
解体局が四辻商店街を保護、管理している理由もそこにある。
「じゃあ、他に何か共有事項がないなら、出発するけど何かある?」
先生は全体にそう呼びかけたように見せて、視線はオレの方に向いている。
……なるほど。オレがやろうとしていることに先生は気づいているらしい。さすがは魔人というべきか。肝が冷えるが、いい機会ではある。ちょうど式神の調整も終わったところだしな。
「――先生、出発前に少しいいだろうか?」
「うん。待ってたよ」
オレが前に出ると、全員の視線が集まる。
うおぉ、原作キャラばっかりだ。改めて見るととても感慨深いものがある。
しかし、いつまでも感動してるわけにはいかない。今はまずこの光景を瞼に焼き付け、それから、連絡先交換だ。
「みんな、携帯は持ってるな?」
オレの確認に、盈瑠を除き全員が頷いた。異界内部では使い物にならないことが多いが、使える場合に備えて持ち込むのが大半だ。盈瑠の場合はそもそも持ってない
「こいつを使え。オレの予備だ」
一応、準備しておいた予備の携帯を盈瑠に渡す。使い方はほとんどわからないだろうし、お古なのでボロだが、今回の探索の間くらいはもつだろう。
ちなみに、BABELの原作が発売したのは2000年代前半なのでスマホの描写は割と適当と思いきや、意外なほどに正確ということで有名だった。
なのでこの世界のスマホの性能や使い心地はオレが元居た世界とそう変わらない。おかげでネットサーフィンやらソシャゲの周回もはかどって時間が溶けるから困りもんだ。
「お、おおきに……で、でも、この程度でうちが許すと思たら――」
「よし、全員今からQRコードを出すからそれを読み取ってくれ。異界の中でも携帯を使えるようにする」
「……いけず」
全員にQRコードが行き渡ったところで、式神を呼び出す。オレのスマホに一瞬ノイズが走り、それはQRコードを読み込んだ全員へと伝播した。
「へえ。面白いことを考えるね。保全委員会は文句を言いそうだけど、ぼくは好きだぜ、こういうの」
「どうも。まあ、一般社会に広める気はないから大丈夫ですよ」
横からのぞき込んできた先生は、やはりオレがしようとしていることを完全に把握していた。
あ、しまった、先に何が起きるのか説明しておくべきだった。
「――ひっ!?」
数秒後、数人が悲鳴を上げた。無理もない。突然画面の端っこに黒髪の女のアイコンが現れてこっちを見ているのだから。
「こ、これ、お化け? な、なんで携帯の中に……?」
「あーすまん。言い忘れてた。そいつの名前は『S-INE《サーイン》』。オレの式神の一体で、まあ、簡単に言えばそいつが中継することで異界内部でも電話が使えるようになる。ネットも行けるぞ、まあ、回線速度はクソだけど」
最後の一言に反応して、画面の向こうから中指を立ててくる、S-INEこと電波悪霊S子。これからキリキリ働いてもらうわけだから、このくらいの無礼は許してやるとしよう。
「…………呪いを媒体にして電波のやり取りをしているのですね。それに契約自体は……これはスマホに紐づけてあるのですか。これだったら、魔力の消費も使い魔で自己完結しますし、念話のように思考を裂く必要もない。術の起動もアプリの起動と同期してあるから切りたい時はきちんと切れる……とんでもない発明ですわよ、これ……」
「あ、改めて解説されると照れるな」
このS-INEの仕組みはおおむねリーズの解説通りだが、もうちょっと工夫を凝らしてある。
異界の内部では電波や電磁波の類は遮断されてしまう上に、高位の怪異や優秀な術者が下だと念話は傍受されてしまう。
そこでオレが考えたのが、このS-INEだ
S-INEの通信に使っているのは念話ではなく、呪いだ。山縣家に伝わる変生呪いのように呪いは異能の中でも最も距離、時間の制約を無視できる。
そこからオレは分霊化した式神にお互いに対して呪いを掛けさせ、その呪詛に電波を乗せるという方法を思いついた。原作で似たような方法でメッセージを届けていたから、理論的には可能だというのはわかっていた。
それにこのS-INE、通信手段以外にも使い道がたくさんある。例えば使用者の間で簡易的な縁を繋ぐことができるので、互いに連携が必要な術もだいぶ簡略化して使用することができる。電波に乗せられる程度の容量なら遠隔での魔力の融通も可能だ。
難しかったのは電子機器に取りつく怪異の発見、調伏だ。この方法を思いついたのが5年前で、相応しい怪異を見つけるまでに4年もかかってしまった。
くわえて、もともとは呪いのDVDとして異界にあったものを回収、調伏、害を加えられないように縛りをかけて、魔力を自己完結するように調整するのにさらに1年もかかった。
そうして、完成したのがついこの前だ。みんながしきりにスマホをいじっているところから見ても大成功だ。苦労したかいがあった。
「ちなみに、タイマー機能を使うと、カメラマンの役割もやってくれるぞ。記念撮影とかで活用してくれ」
「アシヤン、これ、特許申請したらかなりの額になるよ。ていうか、超便利」
山三屋先輩が心底感心しきった様子でそう言ってくれる。苦心して作ったアプリだから、こうして褒められるのはかなり嬉しい。
「ありがとうございます。でも、まだ調整中なのでそこら辺はみんながテスターになってくれると助かります。バグがあれば報告してくれたら直すので」
「じゃあさ、せっかくだし、みんなで集合写真撮ろうよ! こうして一年生が勢揃いすることなんてそうないわけだし……あ、あーしは2年生だけど……」
「いいですね。先輩もぜひ入ってください」
「い、いいの? あーし、場違いじゃない?」
「ありえません。先輩がいてこその我々甲班なんですから。先生もどうぞ」
確かにこれだけの原作キャラ、もとい探索者が一堂に会することはなかなかない。
せっかくだし写真を撮っておきたいという気持ちは大いにわかる。というか、オレが撮りたい。なんならスマホのホーム画面に撮った写真を設定したい。
「じゃあ、みんな、いい感じに並んでくれ。オレはカメラの設定をするから」
「う、うちは写真なんて……」
みんながぞろぞろと並び始める中、盈瑠は内気な中学生みたいなことを言い出す。まあ、微笑ましくなるくらいに思春期特有の反応だ。
「いいから並べ。こういう機会は大事にしろ」
「…………なに、そんなにうちに写真に入ってほしいん?」
「そういうことだ。ほら、行け。みんな呼んでるぞ」
フンとかなんとか言っているが、結局機嫌がよくなっているようなのでわかりやすい。
……まあ、このくらいの方が可愛げがあるか。
「ほら、谷崎さんこっち。僕の隣空いてるよ?」
「う、うん、でも……」
「ほら行きなよ、しおり。恥ずかしがってちゃダメ」
カメラの前では凛と谷崎さん、そして朽上さんが青春な感じのやりとりをしている。なんと微笑ましい、脳が元気になるな。
そんなことを考えながらカメラの設定を終える。スマホがS子の力で1人でに浮いて、シャッターチャンスを待つ。あとみんなの準備が終わるのを待つだけだが、背後に気配を感じる。アオイだ。
「そう言う貴方こそ写真に入る気がないですよね、道孝」
ギクッ。なぜバレた。だって、オレは蘆屋道孝だし、そんなのがせっかくの原作ヒロインたち+アルファの集合写真に混ざっちゃ台無しだし……、
「やはりそうでしたか。貴方こそ、この機会を逃がすつもりですか。初の夫婦写真ですよ、噛みしめなさい」
「いや、集合写真だろ。それにオレがあそこに混ざるのは解釈違――」
「いいから、来なさい」
アオイに引きずられてカメラの前へ。あまりにも力が強くて抵抗できなかった。
そのまま並んでいる皆の中心に連れて行かれる。そのまま逃げられないようにか右手をアオイに抱えられる。それこそ、結婚式の夫婦写真みたいな構図になってしまった。
「あ! 山縣さんズルい! 僕も蘆屋君の隣がいい!」
「む! させませんわよ、リン。右側はわたくしがもらいますわ!!」
「ちょっ!? みんないきなり動くの!? もうシャッターが――」
しかし、タイマーが作動する直前、凜、リーズ、先輩の3人が急に動く。そうして、その瞬間、シャッターが切られた。
後から確認した写真はそれはもう酷いものだった。右側からオレに向かってなだれ込んでくる凜、先輩、リーズの3人に、逆側からオレの手を引いてついでに頬にキスしているアオイ。残りの3人も驚いてカメラ目線じゃないし、先生は先生で爆笑してるし、端っこにはS子がしれっと映って心霊写真にしていた。
……まあ、集合写真としては問題外だけど、それが逆にオレ達らしいと言えばらしいのかもしれない。オレがいるのは解釈違いではあるけど、スマホのホーム画面に設定するくらいにはいい写真にはなった。これがみんなにとってもいい思い出になったのなら幸いだ。
……よく考えると、こういう写真は何らかの死亡フラグに繋がりそうだが、そこはオレが何とかするしかない。みんなのために、オレ自身のためにも
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