第36話 キャンプの夜はテンションをおかしくする
アオイが去ってから数時間後、揺れるキャンプファイヤーを見ながらオレは自分を責めていた。
凛との一件に、アオイとのキス。何もかもが光のオタクとしてのルールに反している。許されない行為だ。今すぐ死のう。火炙りとかいいかもしれない。
「ミチタカ、大丈夫ですか? 随分な顔色ですが」
「何でもない……」
心配したリーズが声をかけてくる。
ほかの全員はどこからか持ち込まれたグリルを囲んでこれまたどこから持ち込まれたかわからない何かの肉に舌鼓を打っている。全員水着のままだ。
というか、彩芽はよく調理できたな。一応食べたけどめちゃくちゃ美味かったぞ。
「絶対何かありましたわよね?」
「……何もなかった」
オレはリーズにささやかな嘘を吐く。
……ささやかじゃないかもしれない。起こったことを考えれば原作ブレイクどころの話じゃない。
もはやヘイト二次創作レベルの所業。我がことながらオレの中の
このまま貝になりたい。あのアオイとキスしたという事実にオレの感情は見事に混乱をきたしている。
それこそ、体育すわりしたまま動けないくらいにはパニックだ。
「いや、何かありましたわよね? アオイと。きりきりと話した方が身のためですわよ?」
「……言えねえ」
最大限配慮したオレの答えに、リーズが蒼い顔をする。
「ま、まさか、ABCのうちCまで……!」
「いや、そこまではない」
いきなりCってお前。前から思ってたが実は頭の中大分ピンクなんだな、リーズ。淑女なんだから気をつけようぜ、オレは嫌いじゃないけどな!
「でも、なにかはあったんですのね……!」
ハメられた。
「……まあ、いいでしょう。他人の自由恋愛に口を出すほどわたくしは暇ではありませんので」
「そうしてくれると助かる」
これぞ常識的な対応だ。さすがはリーズ、オレの癒し。君だけはパーティー内の良心でいてくれ。そうじゃないとオレの胃が爆発する。
「…………アオイが強引な手で行くなら、こっちも遠慮はいりませんしね」
「なんだ?」
「いえ、なんでもありません」
何でもないことはないと思うが、おそらく藪蛇なので追及はしない。
「しかし、まさか異界で本当にバカンスをするとは思いませんでした」
「だよな。馴染んでるアイツらが異常なんだよな」
「ええ。あそこまでリラックスするのはわたくしには無理です」
アイツらとはオレとリーズを除く、アオイ、凜、彩芽、山三屋先輩、そして誘命の五人だ。
あと、凜だけは他と違って明らかに自棄になっている。つまり、自棄食いだ。秘密がばれていたうえに、全員にそのことで気を遣われていたのがよほどショックだったらしい。
「――でも、こんなに穏やかな気持ちで炎を見たのは今日が初めてです」
キャンプファイヤーを見つめて、リーズが言った。
柔らかな炎に彼女の横顔が照らされる。原作でも、これまでの付き合いの中でも見たことのない、穏やかで見惚れるような横顔だった。
「どうかしましたか? わたくしをじっと見て」
「……いや、そんな顔もするんだなって思って」
「何気に失礼ですわよ、それ。否定はできませんが……」
原作におけるリーズの印象はよくいるお嬢様キャラ、しかも、かませ犬になってそのまま退場するタイプのキャラというのが彼女だ。
こうして現実の人間として付き合うまではオレもそう思っていた。
今ではそんな自分の認識を正したつもりだったが、こうして、リーズの新しい表情を見るたびに改めてそのことを思い知らされる。
「――わたくしにとって炎とは『魔術』です。力であり、武器、なによりわたくし自身でもあります。だから、熱く、激しく、人を寄せ付けないものだと思っていました。でも、こういう炎もあるのですね」
キャンプファイヤーに伸ばしたリーズの指の間を炎の蝶が瞬く。繊細で、美しい、戦うためではない魔術だった。
リーズもリーズなりにこの状況に適応している。さっきだって最初にあれだけ嫌っていた凜を真っ先に慰めていたのは彼女だった。
「……そうだな。確かに、こういう異界なら悪くない」
そんなリーズを見習って、オレも少しだけ肩の力を抜く。砂浜に背中を預けて夜空を見上げた。
異界によっては朝、昼、晩ときちんと時間が流れる異界もある。
夜空には月もあれば、星もある。大抵の場合、季節も配置もめちゃくちゃだが、時々は星が正しい位置にある異界もある。
そういう異界では、オレみたいな陰陽師は――、
「――ところで、ミチタカ。貴方、略奪愛と聞いてどのように思われます?」
「……はい?」
不意に、まったくもって意味不明な問いが飛んで来る。
略奪愛……? 誰から誰を……?
「というのも、わたくしの母、マーガレットはわたくしの父、オーランドとは略奪愛で結ばれましたの。あるパーティーで父に一目ぼれした母は婚約者のいる父に猛アプローチを繰り返し、ついには父を手に入れ、わたくしが生まれたのです。ちなみに祖母も祖父を決闘の代価として手に入れました」
「お、おう」
リーズの実家にそんな
設定資料集にも乗っていない設定を知れる。これもまたこの世界に転生したことのメリットの一つだ。
しかし、そうか、その設定を知っていれば、リーズがヒロインの二次創作をオレは書いていたかもしれないな。
すでに原作ヒロインを攻略し始めている土御門輪にひょんなことからアプローチを始めるリーズ。
そうして、ある切っ掛けから二人の距離は……悪くない筋書きだ。今頃どこかの並行世界で誰かがリーズの描写で悩んでいるのなら伝えてあげたい、この設定。
「とにかく、我が家系は代々略奪愛の家系なのです。わかりますか、ミチタカ」
「それはわかったんだが、それがどうしたんだ?」
オタクとしては知られざるリーズの設定を知れたことは嬉しいが、やはり何が言いたいのかさっぱり理解できない。
「やはり……鈍い……直接的に行くしかありませんか……」
「なんだ? なにを――」
音もなくリーズが近づいてくる。そうして、次の瞬間、頬に瑞々しい何かが当たった。
柔らかな、それでいて、暖かい感触。この感じをオレは知っている。
キスされた。唇じゃなくて右頬に。
「リ、リーズ!? て、うぉっ!?」
「ふぇっ!?」
慌てて立ち上がると、足がもつれてリーズの方に倒れこんでしまう。
次の瞬間、オレの顔面を柔らかい何かが受け止める。あったかくて、ふかふかの何か。この感触の正体もオレは知っている。
なんだろう、安心する。母性という意味ではリーズが一番すごいのかもしれない。
「そ、その早くどいていただけるかしら……? い、嫌ではないのですけど……こ、ここは外ですし、人目もありますし……」
リーズの声は控えめだが、熱が籠っている。慌てて体を起こすと、羞恥に耐える彼女の顔が視界に入った。
か、かわいい。口ではどいてくれと言っているが、オレがこのまままた倒れこんでもリーズが拒否しないことは鈍いオレにも分かった。
「す、すまん! 事故だ!」
だが、それは許されない。命が危ないのもそうだが、なにより、光のオタクとしてオレにも矜持がある。
「い、いえ、わたくしも急でしたから……」
互いに謝る。何とも言えない沈黙がオレたち二人の間に横たわった。
炎に照らされたリーズの頬は赤らんでいる。恥ずかしそうに視線を下げて、それでいてこちらを横目で見るその姿には妙な色気がある。
しかし、なんで、またオレの頬にキスなんて……いったいどういうつもりなんだ?
「こ、これは宣戦布告ですわ! ミチタカが悪いんですのよ! わ、わたくしをあんな風に口説いたうえに、才能があって頼りがいがあるのですから!」
ビシッとオレに指を突き付けて、誰にでもなくそう宣言するリーズ。
完全に混乱中のオレ。リ、リーズもなの……?
「と、ともかく、覚悟しておくことですわ! これからはその、事あるごとにアプローチさせていただきますから!」
言うだけ言って去っていくリーズ。
ま、マジか……え、マジ……? なんかこういきなり唇じゃなくて頬にキスしてくるあたりがすごい真面目なリーズらしいが、マジかぁ……え? 3人目? オレ、マジで無責任ハーレム野郎じゃん……。
◇
そうして、夜も更けたころ、オレはテントをこっそり抜け出した。
目的は一つ。オレを罰するためだ。最近のオレの光のオタクにあるまじき行動と結果、そこら辺をどうにか自分の中で折り合いをつけないと眠れそうになかった。
なので、地面を掘っている。素手で。ここに埋まっていたい。もう死ぬまで。
ただひたすら掘っていると、だんだん気持ちよくなってくる。なんだろう、童心に帰るっていうのかな? 広がっていく穴を見ていると、だんだんと自尊心が回復してくる気がする。
いいかもしれない、穴掘りセラピー。人に勧めてみようか。
「えと、なにしてんの? アシヤン……」
「……気にしないでください。自分を罰してるだけなので」
いつのまにかオレの背後に立っていた先輩に聞かれて、オレはそう答えた。
先輩は完全に困惑してるが、他に表現のしようがないので仕方がない。
なんか急にやめるのは恥ずかしいので、ひたすら掘り続ける。掘ってるうちに何だか宇宙は一つな気がしてくる。
すでにもうオレが埋まるくらいの穴ができているが、関係ない。もっと掘る。異界の地面を限界まで掘ったらどうなるかなんてどこにも書かれてないが、まあ大丈夫だろ、多分。
「アシヤン、それ楽しい?」
「ええ、楽しいですよ! 先輩もやります!?」
「あーしは、いいかな……」
「そうですか!」
どんどん穴を掘る。気付くと鉄犬使をスコップに変化させていた。式神にまで何やってんこいつという目で見られているが、気にしない。これはバツなのだから、楽しいだけじゃ締まらない。
「ねえ、アシヤン……この前の件だけどさ……」
「…………はい」
ピタリと手を止める。これは、さすがにふざけていていい話題じゃない。光のオタクは泣いているが、これは男としての最低限の倫理の問題だ。
「あたし、あの勢いで言っちゃたんだけどさ。でもさ、その……」
穴のふちに腰掛ける先輩。足をプラプラとさせるその姿は死ぬほどかわいいが、先輩の表情は曇っている、オレのせいで……。
やはり、オレは埋まるべきだ。いや、埋め立てられるべきだ。原作という土台を支える礎になりたい……、
「き、気持ちは本当なの……でも、アシヤンにはアオアオって婚約者がいるのも、立場があるのも、何か事情があってみんなと距離を置きたがってるのも、その分かるの」
「……先輩」
驚いた。まさかそんなことまで見抜かれていたとは。先輩が切れ者で、なおかつ勘がいいのはわかっていたが……なんだか、余計に申し訳なくなる。
「ダメ! まだ何も言わないで! 卑怯なのはわかってるけど、あたし、終わりにしたくないの」
「……先輩」
そうオレの口に指を立てる先輩の顔はどこか晴れやかだ。オレにこんなことを言う資格はないが、やはり先輩にはこういう顔をしていてほしい。
「今年だけ、ううん、あたしがもっと素敵な相手を見つけたって思えるまで、片思いさせて? イエスもノーもいらないから、それだけはあたしに許してくれる?」
「……先輩、オレは……いえ、わかりました」
ほかならぬ先輩の望みがそうならばオレにはどうすることもできない。
それでオレが苦しむことになったとしても、そのことこそがオタクとしての禁忌を犯してしまったオレへの罰だ。甘んじて受け入れる。
「ありがとう、道孝くん。でも、あたし、諦めたわけじゃないからね! こういう二人きりの時はガンガン、そ、そのアプローチしちゃうんだから! こ、こうやって!」
そう言うと先輩は穴に降りて、抱き着いてくる。決意に満ちた先輩の顔を見て、オレには、拒むことはできなかった。
柔らかで、暖かな感触はオレに安心と高揚をくれる。オタクとしての罪悪感に心は痛むが、先輩がうれしそうにしてくれるならそれも悪くないかもしれない、そんな逃げ道が脳裏に浮かんだ。
……どうしてオレはこんなことになってしまったんだろう。教えてくれ、原作君。助けてくれ、原作君。
そんなオレの心の声は波の音に攫われていったのだった。
◇
それから数分後、先輩はオレに水着姿のまま抱き着いた、という事実が処理できなくなり、片言で「マタネ、アシヤン」とだけ言って自分のテントに帰っていった。
そんな先輩もかわいいが、一人残されたオレは浜辺で夜空を見上げるしかなかった。
テントに帰る気にはならない。なんかこう、今帰ると誰か来そうだし、今誰かに迫られたらなし崩しになりそうで怖い。今のオレに必要なのはこの静寂だった。
しかし、星が綺麗だ。この異界は異界にしては珍しく星の配置も星図通りに正しい。こういう場所なら、オレのような陰陽師は本領を――、
「――これは」
そんなことを考えていた時、感覚の端っこになにかが引っかかる。
異界因の気配……見逃していた。リラックスしたことで感覚が緩んだことで逆に探査に引っかかったのだ。
というか、探そうとすればするほど見つかりにくくなるような細工がしてある。
だが、これは怪異の仕業というよりは人為的ななにかのような……ああ、そういうことか。妙だと思ったんだ、あの人がこんな機会に水着ではしゃがないわけがない。
なにができるわけでもないが、とりあえず行ってみるとしよう。死神の元へ。何か大変なら手伝いたい。というか、オタクとしての自分と裏切ってしまっているいろいろなものに罪滅ぼしがしたい。
砂浜近くの林を抜けて、一帯を見下ろす崖の方へと歩みを進める。
さっきまでは少しも感じなかったが、近づいてくるとだんだんと気配が強く伝わってくる。
崖の上には来たばかりの頃に見た旅館がある。窓はすべて破られ、建物は倒壊寸前なほどにボロボロだが、辛うじて外観からそう判断できた。
この旅館こそが異界因だ。しかし、建物の内部には怪異の気配はない。代わりにあるのは――、
「――あれ? 君、どうしてここにいるの?」
「どうも、先生」
旅館から出てきたのは『死神』誘命。彼女はオレを見つけると心底意外そうな顔をした。
まさかあの死神がこんな顔をするとは思ってなかった。どうやら裏を掻けたらしい。悪くない気分だ。
あと、凄い水着だ。水着というかただの黒い紐だ。局部以外何も隠れてない。見ているだけで道行く男がみんな前かがみになってしまう。
喪服越しでもわかっていたが、こんなにスタイル良かったんだなこの人。突き出した胸もくびれたウエストもキュッとしたおしりも原作ヒロインたちに負けてない。
というか、あれだ。原作では死神が喪服を脱いだ姿なんて見たことなかったから、オレは人類で初めて誘命の水着姿を見ているのか。青白く恐ろしいながらも魅力的な彼女の肢体を目にできるなんて、この上ない名誉だ。ありがとう、ありがとう、そして、ありがとう。
「お、見惚れてるのかい? いや、嬉しい誤算だネ。披露する機会はないかと思ってたんだけど……ドヤッ!」
前かがみになり、胸を寄せる死神。今の、光オタクにあるまじきことをした自分を罰したオレでなくては鼻血を噴き出していたかもしれない。まあ、今のオレもちょっと前かがみだが、これは死神に合わせただけだから問題ない。ないったらない。
「ふ、君のそういう頑固なところぼくは好きだゼ。でも、なにしにきたの? 今頃アオイに精魂搾り取られてる頃かと思ったのに」
「手伝いが必要かもしれないと思いまして」
「うーん、いらないけど……気付かれたのはショックだなぁ、ぼくの分身そんなに下手だった? それとも、分身にも水着着せといたほうがよかった?」
「……いえ、その水着は教育者としてどうかと思うので普通の格好でいいです」
ビーチにいた、いや、より正確に言えばこの異界に到着した瞬間からオレたちの傍にいた誘命は誘命本人じゃなかった。
何らかの異能、おそらくは魔術で作成された分身、あるいは複製とでも呼ぶべきものだ。上位の術者の中には思念体を受肉させることさえできるという設定は原作にもあったが、たぶんそれだろう。
それこそオレの感覚じゃ分身だと気づけないほどの精度だ。さすがは死神。彼女は最初からこの旅館にいたのだ。
「下手なのは分身の方じゃなくて結界の方ですね。それでも気付くのに時間がかかりましたが」
「なら、仕方ないか。昔から結界の類は苦手なんだよねぇ、ぼく。なんでだろ?」
苦手とは言うものの、ここに貼られている結界は十分に巧みなものだった。探そうとすればするほど探知にしくくなる結界なんてよほど意地悪くないと思いつかない。
だが、問題はそこじゃない。問題はここで誘命がなにをしていたのか、ということだ。
「怪異を殺し続けてたわけですか、
どうりで異界にも関わらず安全だと言い切れたわけだ。
この異界は怪異の発生場所が異界因に限定されていたのだろう。そこに陣取ってわき続ける怪異を片っ端から倒し続けていけば旅館以外は安全になる。しかも、異界因だけは倒さずに残しておけば異界も維持できる。
「みんなには内緒にね? 余計な気を遣わせたくないし」
そう言ってほほ笑む彼女の顔がオレには強大な魔人『死神』のものではなく生徒想いの『先生』のものに見える。
……正直なところ、オレはずっと死神を、いや、先生を疑っていた。彼女は魔人だ。そんな存在に取ってオレたちのようなただの人間は対等な存在じゃない。
だから、生徒想いと自称していても、それは蝶や花を愛でるようなもので心からの愛情はないだろう、と。
でも、今日のこの行動は心からのものだ。本気でオレ達をねぎらおうと思っていなければ、ここまでのことはしない、とオレは思う。
なんだかんだいいつつ、この人はオレたちの『先生』をしようとしている。その心意気に応えるなら、オレもちゃんと死神のことを先生と呼ぶべきだろう。
「お? ぼくのこと見直した感じだね? うれしいね、君、あんまり人を信用しないタイプだろうし」
「……否定はしません」
確かにオレは疑い深い。かませ犬に転生したからってのもあるが、元の性分がそうなのだろう。
「そのほうがいいよ。探索者には向いてる」
「貴方にそう言われると、喜んでいいのかわからないですね」
「ふふ、いいね。素直な方が君は良さが出る。それともぼくには素を出してくれてるのかな? だとしたら嬉しいけど」
少し照れる。警戒はしてたが、先生もまたオレの愛する『BABEL』の登場人物の一人。警戒心と同じくらいの憧れと愛情は持ち合わせている。
「なにか、オレに手伝えることは?」
「ないよ。でも、そうだな……君が今を楽しんでるなら、それがボクの報酬かな?」
「……分かりました。なら、手伝うのは野暮ですね」
「そういうこと。あ、でも、ぼくと一夜の過ち、しちゃう? ぼくは構わないよ。あ、でも、ぼくが初体験だと普通の感覚が分からないだろうからそこが心配だね。ぼく、ほら、体温低いからサ。それでもいいならだけど、どう?」
そういいながらも、ずいっと身を寄せてくる先生。教師として見直した直後にこれかと言いたくもなるが、それ以上に月あかりに照らされた先生が美しすぎて、思わずうなずいてしまいそうなことの方が大変だ。
唇は誘うような光沢で、瞳はこちらの内心まで見透かしているよう。彼女の妖艶なほほえみを見ていると、抵抗の意志がくじけていくのが分かった。
気が多いと思われるだろうが仕方ないだろ! 原作キャラのことはみんな好きなんだから!
「――冗談だよ。今はね。君がぼくじゃなきゃいけないって思うようにならないとつまらないし」
しーっとオレの唇に指を立てる先生。そのままいつものように楽しそうな顔になった。
た、助かった。先生が気まぐれでやめてくれなきゃ完全にやられていた、否、やっていた。
急に恥ずかしくなって旅館に背を向けて歩き出そうとする。そんなオレの背中に先生はこう投げかけた。
「――命は元来一つきり。それを思い出せば、君はもっと強くなれる。君の成長を楽しみにしてるよ、■■■■」
最後の単語はオレの耳には聞き取れなかった。ただその
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