47.竜族は聖獣に落ち着いたようで

 勇者の問題は、すでに消滅した女神が神託で引き起こした。人族は神を崇めているため、神託は非常に高い効果が見込める。その神託を、目の前の銀髪女神が降ろすのだ。


 臆病な彼女は名をシャティといい、以前の女神に代わってこの世界を管理する。その際に竜族にとって都合のいい言葉を降ろせば、人族は信じるだろう。単純な作戦だった。


 他の世界も管理する手前、あまりこの世界に時間を掛けられない。そんな切実な理由もあった。神託でドラゴンは魔族ではなく、聖獣であると伝える。その上で、お供え物をチョコレートにした。果実やお酒を入れた、小粒だが高級品のチョコレートを捧げるように、と。


 神殿に捧げられたチョコレートは、アザゼル達が回収する。アクラシエルもそれで納得した。というか、大喜びだった。チョコレートが確実に手に入る上、竜族が襲われる心配がなくなる。安心して昼寝が出来るだろう。


 勇者は任を解いたと伝えた。これで人の王に利用される心配も消える。さらに魔王ゲーデを呼び出し、人族との共存を提案した。魔族と仲良く暮らしている村もあるので、可能だろうと提案する。竜族と敵対するくらいなら、とバアルもゲーデも納得した。


 人族と魔族は混血が可能だ。徐々に混ぜていけば、いずれ争いは消えるはず。長寿の竜族や神だから行える施策だった。


 チョコレートの原料となる木の実が大量に植えられ、人族はお供え物作りのために森をひとつ作り上げた。竜族が崩した山の地熱が、木の実の栽培に適していたのだ。アザゼルは主君のために火山の活動を調整する。噴火しないが、地熱が伝わる程度に。


 その山の麓から温泉が発見され、街が出来て栄えていく。人族の旺盛な繁殖力に、驚くばかりだ。魔力が高いため子が出来づらい魔族が、血と魔力を薄めるために人族の伴侶を持つようになり……世界は計画通りに繁栄していく。


「今年のチョコレートは?」


「まだ三ヶ月は先の話です」


「じゃあ、買いに行こう!」


 まだ幼い姿で尻尾を振る主君に、すっかり母親役が染み付いたアザゼルが考え込む。つい先日も強請られて買ったばかり。甘やかしすぎでは? と鼻に皺を寄せた。


「アザゼル、大好き。チョコレート食べたい」


 どう聞いても後半部分が本音で、前半はゴマすりだ。分かっていても、アザゼルはアクラシエルに甘かった。


「仕方ありませんね」


「やった! 俺はアザゼルと一緒に買いに行きたい。いいか?」


 にこにこと我が侭を言う主君に、黒竜はデレデレだった。以前から大好きな養い親が、可愛くて仕方ない。幼い銀竜を背に乗せて、アザゼルは空に舞い上がった。


 途中で、木の実を栽培する森の上を通る。下で必死に手を振るのは、元勇者ブライアンだ。中途半端な祝福が呪いとなった彼は、解呪された後も後遺症が残った。非常な長寿になったのだ。銀髪女神によれば、人族の数倍程度だろうと予測された。


 特に実害がないので、それ以上の関与は控えている。だが本人は非常に感謝しており、チョコレートの原料を育てる監督者を始めた。今は大量生産より、木の実の質を上げる研究をしているらしい。その脇には、元神官だった妻エイブリルが微笑んでいた。


「平和ですね」


「本来、世界とはこうあるべきだ」


 呟きは高い空に響いて、ゆっくりと世界に刻み込まれた。











*********************

明日、完結予定です_( _*´ ꒳ `*)_

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