46.使える神と使えない屑の選別

 宣戦布告された時点で、ほとんどの神が逃げ出した。元から別次元の住人だ。さっさと神が強い次元へ飛び込む。さすがに無責任だと感じた数人の神が残った。


「私達はドラゴンと戦う気はありません。詫びよと仰るなら、どのようにでも従います」


 責任感が強い三人は、女神二人と男神一人だった。彼女らは逃げた仲間の態度に呆れながらも、己の信念を通そうと頭を下げる。一から作り上げた世界を壊されたくない。そこに住まう命を絶滅させたくない。その気持ちが強かった。


「どういたしましょうか、アクラシエル様」


「ちょうど良いふるいになったではないか」


 残った三人の潔い謝りっぷりに、アザゼルも何となく攻撃しづらい。困って、養い親にお伺いを立てた。そのため私的な呼び方になっている。その辺は声から察したアクラシエルが、許しを与えた。


 当事者であり被害者である自分が許せば、周囲は文句が言えなくなる。無駄に騒ぎを大きくする必要はなかった。元からこの次元に神の数が多すぎたのだ。そう結論づけて、アクラシエルは小さなチョコ菓子を口に入れた。


 さくっとした焼き菓子にチョコレートが掛かっている。これは二種類の菓子が同時に楽しめ、さらに果物の薄切りが重なっていることで、味に深みがあった。じっくり楽しむ。頬が落ちそうだった。


「今回逃げた神々は、二度と戻れないよう入り口を封じておこう」


「それなら次元を閉じては?」


「後で何かあったら繋げばいいんだし」


 この次元は竜族のものだ。閉ざすも開くも彼ら次第、あっさりと結論は出た。三人は許され、今後も世界の管理に携わる許可も与える。面倒くさがって、管理者に名乗りを上げる竜がいなかったのだ。一度に複数の世界を預かることになったが、三人ともそれなりに熟練の管理者なので問題なさそうだった。


「今回の騒動はこれで終わり……」


「いいえ、我が君。勇者の問題があります」


 すっかり忘れていた。そう素直に口にしたら、アザゼルが本気で怒るだろう。察したアクラシエルは、へらりと笑った。


「あれも犠牲者だ。許してやればよかろうよ」


「そうはいきません」


「数回殺せば気が済むかも」


 おおらかに許せと口にしたら、納得できない竜族から声が上がった。そこで、女神の一人が口を開く。


「あの……ご提案なのですが」


 一斉にドラゴンの視線を集めてしまい、びくりと肩を揺らす。そんな臆病な女神が出した案は、意外にも反対意見が出ない素晴らしいものだった。


「ではそれで決まりです。それぞれの世界に戻ってください」


 アザゼルの号令で、ドラゴン達は解散する。アクラシエルが入っていた卵の殻は、小さく割って配られた。皆、大切そうに宝石や金貨と共に仕舞い込むだろう。


 ほとんどの竜はこの世界に残る。今後のことを含め、提案した女神がこの世界を管理することに決まった。しばらくは穏やかな時間が流れるはずだ。


 駆けつけたドラゴンも、それぞれに戻っていく。世界の終末を引き起こす役の火竜は、滅ぼす世界へ飛ぶ。魔王役を任された土竜も、土産のチョコレートを咥えて帰っていった。


「アクラシエル様、あーんです」


 アザゼルは、チョコレートが掛かった焼き菓子で主君を招き寄せ、大切そうに包んで丸まった。

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