27.魔王よりドラゴン退治が優先か

「アイツも昔は可愛かったんだけど」


 ぼやきながら、ベレトは鳥の姿になった。前回と同じ緑色で攻撃されるのは困るので、黄っぽい羽に変える。森を抜けて、人族の都の前で……うわぁと顔を歪めた。


 アザゼルのやつ、こんなに壊したんだ。派手にやったな。竜王様が眠っていてよかった。バレたら竜王様に叱られたアザゼルに、俺が八つ当たりされるパターンだ。


 ベレトはここで竜王アクラシエルの命令を思い出した。体を借りた人族の子の母親……彼女の体を治すこと。アクラシエルが人族の子に憑依した事故の際、馬車に圧迫されたらしい。曖昧な情報をかき集め、病でないなら簡単かと胸を撫で下ろした。


 窓辺に降り立ち覗く。この部屋は違った。隣の部屋を覗き、また移動する。数回繰り返したところ、ようやく母親レイラがいる部屋を発見した。だが周囲に人族が多すぎる。近づくのはやめよう。


 ベレトは窓際から時間を掛けて霊力を送る。他の人に当たらぬよう注意し、細く長く治癒を施した。当初の想定より時間はかかったが、なんとか治癒を完了させた。あとは体力面だが、そこは自力で何とかしてもらおう。


 アザゼルほどではないが、ベレトも人族が嫌いなのだ。主君アクラシエルがどうして人族を贔屓するのか、彼も不思議で仕方なかった。寝て起きたら首を落とすような蛮族、最低ではないか。庇護して育ててやったのに、恩を忘れて攻撃してくるなんて……ん?


 アザゼルは竜王様の養い子だ。しかし、アクラシエルが何かするたび、小言を口にして追い回していた。ああ、これと同じか。どうやら竜王陛下は虐げられるのがお好きらしい。


 ベレトは派手に勘違いした。単に放置したのが半分、残りは相手が小さすぎて相手にしなかったのが半分。物臭な主君を知りながらも、納得してしまった。首を落とされたら普通は怒る。そこで曖昧な態度を取ったことが原因だった。


「帰ったらナベルスに教えてやろう」


 仲のいい水竜を思い浮かべ、ベレトは屋敷を離れた。森へ飛んでいく途中で、ひらりと変身する。ドラゴンの翼に風を受け、ベレトは高く舞い上がった。


 その頃、ナベルスはアザゼルが休む森に駆けつける。森の木々が燃えており、遠巻きに人族が囲んでいた。火竜であるアザゼルは、すべての属性を操る。にも関わらず、火を消そうとしなかった。この際、燃えている方が人が近づかず都合がいい。そう考えたのだ。


「火を消そうか?」


「いいえ。温かい方がアクラシエル様も喜びます。やや温度が低いのが不満ですね」


 火が消えそうになったら、炎を追加しそうだ。水竜であり氷も操るナベルスは、不満そうにしながらも同意した。卵を温める一点において、周囲の温度が高いのは利点だ。氷や水を得意とするナベルスだが、この程度の火で火傷をする柔な鱗でもなかった。


「陛下はどのくらいで動かせる?」


「あと二日は無理でしょうね」


「なら、このまま燃やしておくか」


 取り囲む人族はざわついていた。中央の黒竜を倒す予定が、なぜかドラゴンが集まってくる。最初は緑の竜で、次は青だ。次々とドラゴンが増える状況に、現場は混乱した。指揮系統の混乱に乗じて、命令を無視して逃げる兵が現れる。


 ここで逃げなかった半数近い兵は、いつまでも消えない炎に炙られ……やがて巻き込まれることになった。逃げるが勝ち、逃走した兵は生きて戻り、ドラゴンの脅威を大いに吹聴する。


「勇者を呼び戻し、ドラゴン退治をさせよう」


 そんな気運が盛り上がるのは、ある意味、予測できる未来であった。

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