28.復活した勇者一行は焼き払われた
魔王を倒して来いと言われ、素直に魔王城目指して駆け抜けた。剣士を決戦前に失いながら、それでも……洞窟の奥で目を輝かせる銀竜の首を落とす。駆けつけた黒竜から命からがら逃げ延び、安堵に胸を撫で下ろしたのも束の間。
褒美を与え褒め称えた国王が、手のひらを返した。ほぼ毎日起きる災害は、魔王の配下のせいだ。首を回収してこなかったが、傷つけただけで本当は魔王退治に失敗したのではないか? そう疑う声が高まる。
「正直、天災とか俺らのせいじゃないだろ」
ぼやく勇者ブライアンに、神官エイブリルと魔法使いハロルドも同意した。しかし悲しいかな。人族である以上、権力者に逆らえば生きていけない。魔王の首を回収するため、再び魔王城を目指すことになった。
遠い上、今回は剣士も欠けている。前衛戦力が不足したことで、遅々として進まなかった。そんな中、突然現れた悪魔に攻撃される。幼女を人質にとる卑怯者に、手も足も出なかった。
「復活したってことは、頑張れって意味か?」
「女神様の思し召しです」
嫌そうなブライアンの呟きに、エイブリルはうっとりと答えた。何度死んでも生き返るなら、戦力不足でも魔王城まで到達できそうだ。しかし、死ぬ時は痛い。半端なく痛い。死ぬかと思うほど痛いのだ。
何度も味わいたくない。そう考えるのも当然だった。特に後衛職で普段はケガも少ないハロルドは、本気で離脱の機会を窺っていた。倒れていたところを村人に回収された勇者一行は、再び旅立つ。森の中で逸れたことにしようか。そんな考えに支配される魔法使いは、こっそり姿を消した。
寝ずの番をするハロルドが消えたことで、勇者と神官は魔獣に襲われた。派手に食い散らかされたが、魔獣が離れた後に復活する。生きたまま食われた経験は、勇者を自棄っぱちにさせた。どうせ辿り着けないのだと、諦めを滲ませる。
「お戻りください。ドラゴンが出没し、王都が危険な目に!」
森の浅い部分でもたもたしていた勇者に、使者が追いついた。騎士団から選ばれた三人に促され、魔王の首は後回しに王都へ戻る。壊れた外壁、崩壊した見張りの塔と門、街を縦断するように続く破壊の一本道。
見慣れた都は酷い有様だった。ブライアンはすぐにドラゴンの姿を探すが、見つからない。この時点で、ベレトはすでに王都を離れていた。
黒い鱗の竜を追って森に入った兵士が戻らない。その情報を得て、二人は森に分け入った。火を放たれ、焦げ臭い森の奥……まだ消えぬ炎の向こうに大きな影が見える。
「黒竜? 魔王の側近か」
あの時は逃げ帰るのに必死だったが、今度こそ倒してやる。魔王は確かに死んだのだ。それにより側近が王の地位を継いだか、または報復に動いた。彼を倒せば、今度こそ平和が訪れるはず。
自分勝手な勇者の声に、ドラゴン退治に集まった兵は湧き立った。だが……アザゼルはそんな彼らを睥睨し、大切な卵を抱いたまま。動こうとしない。好機と考えて攻撃の準備を整える勇者達は、直後……巨大なブレスで燃え尽きた。
「ナベルスかベレトに薪を運んでもらいましょう」
やや肌寒い。その程度の感覚で勇者達を燃やした黒竜は、はふっと欠伸をした。
「我が君、早く出てきてください。私が大切に育てます」
聞こえてくる声に、アクラシエルが何と答えるのか。それはまだ誰も知らない。
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