ディナーの相手?


 夕方。

 とあるビルの最上階にあるリッチなパスタ屋。ガラス張りの窓から見える夜景は絶景で店内にはシャンデリア、高価そうなテーブルとキッチリと並べられた食器。

 彼はラフな服装ではなくカジュアルスーツに身を包み、目の前には依頼を受けたブロンズの髪の毛が特徴の三十代前半の女性。モデルのように美しい女性に見とれていた。


「あら、私とディナーがつまらない?」


「とんでもない。いつも以上に綺麗だよ。ピアスいいね。スワロフスキーが揺れるからキラキラしてて」


「相変わらず、誉めるのが上手いわ。貴方のために買ったの。このドレスも、ね」


「それは嬉しいな。もしかして、下着も丸々変えたとか?」


「ウフフッ正解。なんてね」


 軽く場にふさわしくない言葉を交わすも彼の人柄が良いのか受け流す。フォークで丁寧にパスタを巻き、上品に口にしてはトマトの酸味とモッツァレラチーズの独特の風味が口一杯に広がる。さらにワインを口にすれば苦味と合わさり、またひと味違う大人な味に。


「貴方を雇って三回目。貴方が夫なら私も退屈はしないのに……ダメ?」


 食事の手を止め、太ももにかけていたナフキンで口を拭く。慣れているのかテーブルマナーも完璧。


「きっと俺より良い方がいるよ。社長とか投資家とか。高年収をマークしてるんでしょ?」


「貴方と会う前はそう思ってたけど、貴方が良いわ。だって、高級レストランやホテルに誘えばリードしてくれるし、食事のマナーだっていい。こうやって何人の人に雇われても顔に出さず、話もしない。完璧だわ」


 彼女の目を一瞬見つめ「そう? 完璧すぎて怖がられると思ったよ」とテーブルに置いていた彼女の手に手を重ねる。すると、その手に彼女の手が乗り、離すまいと指が絡む。


「家は何処なの? 良かったら行きたいわ」


 家、と聞いて少し黙るもフッと鼻で笑う。


「アネット。俺の家は君だよ」


 なんて笑って見せるも針の効果が消えたか。彼の目に映る彼女の姿は――何かで斬り裂き、殴打したように血だらけだった。



           ※



 翌朝。

 突然寂しくなりSNSで呟く。



【烏賀陽@人間レンタルサービス】

『暇だから誰かカッテー。゚(゚´Д`゚)゚。』

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【刹那】

『先輩からお勧めされました。もし、可能でしたら彼氏さんになってほしいです』

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【烏賀陽@人間レンタルサービス】

『いいよ。何処に行けばいい?』


 最寄りで買ったカップ珈琲を飲みながら集合場所である駅で待っていると十代後半の幼く可愛い女性。目にするのは初めての子。彼女には彼が二十歳前後に見えるか、年下好きなお兄さんを演じて欲しいとオーダーを受けた。

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