カップルのフリして……
「駿くん」
「なぁに?」
近場の開店した大型ショッピングモールに足運び、手を繋ぎながらいちゃつく。傍から見たらわたあめカップル。だが、お互い赤の他人。
甘えてくる相手に負けじと彼も甘えるも、時々相手のテンションや性格に合わせて自分を別人のように変えるため辛いときもある。特に子犬のような構ってちゃんは……。
「莉那ちゃん、あーんしてあげようか?」
スイーツ専門店に入り、彼が頼んだチョコバナナパンケーキを欲しそうに見つめている彼女を目で読み取り、一口サイズに切っては差し出す。
「いいのぉ?」
「いいよ。はい、あーん」
「ん~おいちぃ」
「そりゃ、よかった。俺も一口貰おうかな」
「え~どうしよっかな?」
「間接キス嫌?」
「あー誘ってるな~このこの~」
「じゃあ、ちょうだい。可愛い子犬さん」
ケーキのあまりの美味しさに二人で語りゲームセンターや雑貨屋とふらつき店内にある広場へ。あっという間に時間が過ぎ、向かい合い腕時計を見ると17時。
「そろそろ時間だね」
優しさが少し欠けるも「ありがとね。楽しかった?」と薄く笑う。
「はい、怖かったけど優しい方で良かったです。また、お願いしてもいいですか?」
「良いよ」
ポンポンッと頭を撫でクラッチバックから物を取り出そうとしたとき、悲鳴に近い声に振り向く。
「誰かその人を止めて下さい。泥棒なんです!!」
此方に向かってくる黒服のショルダーバッグと刃物を持った男。彼は刹那の手を掴み、引き寄せ背に隠しては知らん顔で足を出し引っ掛けた。
「どわっ!!」
ド派手に倒れ、手から離れたバックからお札と小銭、盗んだ小物。握っていたナイフが烏賀陽の足元に転がり、無言で蹴り飛ばしては「盗みはダメだよ」とニコッと笑う。
「イッテーなぁッ……サツかテメェ!!」
「サツ? なにそれ、お札?」
「バカにしてんのか!!」
立ち上がるや否や胸ぐらを掴まれ、反射的にその手を掴む。
「烏賀陽さん!!」
「刹那、悪いけど離れて」
彼女が逃げようと踏み出したと同時に「悪いね、おじさん」と優しく言葉を吐き微笑む。男の腹と顔面を蹴りつけ、その反動で腕が離れたか勢いのままバク宙。
彼の恐れ知らずな行動にざわつく店内。遠くから複数の足音が聞こえ、よろめき痛みで顔を押さえる男の頭目掛けて蹴りを放つと「警察だ!!」と鋭い声に素早く手を上げた。
「刃物持ってる人に立ち向かうのは危ないですよ。たまたま手から刃物が離れたから良かったですが……」
駆けつけた警察官に軽く説教を受け、何度も何度も頭を下げ、やっと許してもらう。
刹那の元へ駆け寄ると「大丈夫ですか?」と心配され笑って誤魔化し、表情が少し明るくなったところで「怖がらせてごめんね。そうだ、これ」と不安を消すようにお礼にとサプライズで買っておいた絆創膏に扮したクッキーを渡した。
「こりゃ、参ったね」
突然の犯罪の撃退に血が騒ぎ、ホテルに戻るも収まらない。仕方なく睡眠薬を飲み、明日のお得意さんに備え早々寝ることに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます