第270話 光と闇の綱渡り
「……魔導の王たる我が求めに応じ、来たれ、深淵の闇に沈む煉獄の炎よ。嵐を伴いて、混沌たる破滅をもたらせ。
そこはヘイノー城のはるか上空。
ビレイグとショウゾウは、互いに≪
小手調べとばかりにいくつかの魔法の応酬をして、その後に決着のための切り札を使うことになった。
ショウゾウは、風と炎の高位複合魔法≪
二つの強烈な魔法同士の激突は周囲の大気を震わせ、膨大な空気の移動を生じさせた。
雲は消し飛び、辺り一面が見晴らしのいい青空の状態になったが、ショウゾウはそれを眺める余裕もなく、はるか後方に吹き飛ばされ、ヘイノーの街の郊外にある納屋に墜落してしまった。
ビレイグの≪
ショウゾウの皮膚はその相殺の余波を受けて、焼け焦げ、醜く爛れてしまっている。
「……さすがは、神といったところか」
ショウゾウは、そう呟くと仰向けになったまま、背の土間に発生させた≪
そのまま裏の世界である≪
そこを単独攻略した後、A級ダンジョン「悪神の
レイザー、エリック、エリエンの三人は、最近、フェイルードの一団と行動をともにしており、初めて挑むA級迷宮攻略のための下準備や内部の情報収集などを担ってもらっていた。
しばらく会っていないが、各々の成長などを想像すると会うのが今から楽しみであった。
そして、ショウゾウは≪
「……気配を遮断し、中の様子を探らせない結界とは便利な物ですな。しかし、逆にもし、儂とビレイグ様の接触をロ・キがなんらかの方法で知りえていた場合は疑いを深めるでしょうな。疑いを持たれては今後の接触も難しくなるし、何かとやりにくいことこの上なし……」
「確かにな。隠されれば隠されるほど、知りたくなるのは当然の道理。ロ・キとても例外ではあるまいな」
「ロ・キに知られたか、知られていないかの賭けに出るより、確実な手があるのですが、儂の考えに乗ってみてはもらえぬでしょうか。せっかくこのようにうまく関係構築の端緒を掴めたのです。できれば、この繋がりを末永く、互いに有益な物になるように育ててゆきたい」
「なにか、いにしえのタイユスの商人のような口のうまさだな。打算と下心は窺えるが、裏は無い。いいだろう。面白い。その話に乗ってやろうではないか」
ビレイグは長い髭をさすりながら、大きく笑った。
こうしてショウゾウたちは綿密な打ち合わせをし、あたかも意見が対立し、激しい戦いとなったように装うことにしたのである。
ロ・キが二人の戦いにわざと気が付くように、これまで使用を控えていた魔導神経由の闇魔法などを派手に使った。
手段を選んでいられないほどに追い詰められていたことを演出するためだ。
そしてこの提案は、ショウゾウにとっては、もうひとつ目的があった。
それは、ビレイグらが本当の意味で信頼するに足る取引相手であるのかどうかを試すこと。
まるで八百長プロレスの筋書きのような流れに沿って、この芝居に協力するのか、それともこれを好機とばかりにショウゾウを殺そうとしてくるのか。
その成り行きを見定めたかった。
最初、ヘイノー城に足を踏み入れた時は、この招待はきっと罠であろうと覚悟を決めていたのだが、これまでのところは望むべくもない最善のやり取りができているとショウゾウは判断した。
ビレイグらがいますぐ自分を殺さないのは、何らかの利用価値があるからで、それ以上の意味は、おそらくない。
ロ・キがああして自分を野放しにしておいているのと同様だ。
ビレイグとロ・キ。
この両者をうまく綱渡りして、最大の利益を手にする。
「ずいぶんと悪い顔をなさっておりますよ。ショウゾウ様……」
≪風の
乱れたなびく、奔放な長い髪を揺らめかせ、≪
シルウェストレらは、万が一、ヘイノーで何らかのトラブルに見舞われた時のために、その裏側である≪
おそらく吹き飛ばされた儂を追ってやって来たに違いない。
「おお、ようやく来たか。少し思索に耽りたいのだ。≪悪神の嘆き≫まで運んでくれぬかな?」
「はい、喜んで。ショウゾウ様の仰せの通りに風の精霊たちを少しずつこの≪
ショウゾウは、≪
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