第256話 戦後処理
ウプサーラ国王ニコデムス二世によるノルディアス王国への全面降伏の報は、 アスガルド大陸にあるその他の国々を大いに驚嘆せしめた。
ノルディアス王国軍は、名将の呼び声高きデルロスを主将に据えたおよそ五千。
それに対するウプサーラ軍はその倍に当たる兵数だった。
この両軍が対峙したハンサ平原での戦いが、ノルディアスの一方的な勝利に終わったこと自体が、各国にとっては予想外の結果であったのだが、その戦に勝利した新光王ルシアンとデルロス率いるその軍がそのままウプサーラの王城≪
戦の詳細を知らぬ者たちは、新光王ルシアンの≪
すでに開始していた和睦の交渉を速やかに推し進め、できるだけノルディアス王国の恨みを買わぬように配慮した内容での決着を急いだのである。
難攻不落と謳われるウプサーラが、光王ルシアン自らが率いる遠征軍によりわずかひと月も持たずに陥落したという事実も然ることながら、その戦後処理の在り方を巡って、様々な憶測が流れた。
ウプサーラ国王ニコデムス二世は、おのが娘を人質を兼ねた
そして、さらにその事実を公式の文書を持って諸外国に通達したのである。
ウプサーラ王国は、ウプサーラ公国にその名称を変え、ニコデムス二世は国王の地位を返上して、代わりにノルディアス王国の公爵位と「公王」としての旧領の統治権を与えられた。
こうしてニコデムス二世は、名実ともに光王ルシアンの家臣となったわけである。
そして、このウプサーラに対する戦後処理が、ワールベリやヴァナフェイムといった他の国々の混乱と憂いを増長させたのは間違いが無い。
ウプサーラ征服の事実は、新しく光王の地位に就いたルシアンが、若き日のヴィツェル十三世と同様に大陸制覇ないし領土拡張の野望を秘めているのだという憶測を呼び、そしてそのような人物が国の危機に乗じて、その領土を侵した他の国々をそのまま黙って許すなどということがあろうかと、周辺国の王侯貴族たちを震え上がらせたのである。
特にヴァナフェイム王国などは、侵略のために派遣した軍の壊滅的被害とともに君主であるマグヌス四世を失うなどの痛手の中にあり、その後継者についても身内の争いから、いまだ定かではない状況にあったため、国全体を揺るがす混乱の渦中にあった。
ウプサーラの次に矛が向くのは自国ではないかという不安に陥り、むしろ進んで臣下の列に加わるのが生き残りのための最善の策ではないかという議論が起こるほどであったのである。
そうした周辺諸国の思惑などどこ吹く風。
ショウゾウは、再びメルクスの姿に戻り、駐留軍となったデルロスの軍勢と共に、ウプサーラのノルディアスへの従属化を推進した。
ウプサーラの国法をその良い点は残しつつもノルディアスにおけるものと共通するように改め、ニコデムス二世の配下の者をショウゾウが選び人事案にあげたノルディアス人を中心にした家臣に総入れ替えした。
その中には眷属の≪魔人≫も二人、潜り込ませてある。
ニコデムス二世本人がこれまでと変わらぬ豪奢な暮らしぶりと残された血族の命を保障する代わりに、もはや政治には口を出さない旨を約束しているため、大きな混乱もなく、ウプサーラのすべてが闇の支配者たるショウゾウの色に染まってしまうのはもはや時間の問題であった。
ウプサーラ国内の領主たちにはニコデムス二世自らの手による書状を送り、ノルディアス王国への臣従に異を唱える者があれば、それを始末し、首を挿げ替えれば善い。
民草には今までよりも課する税を軽くしてやるなどすれば不満も起きないであろうし、命の魔法神ドリュアスに対する信仰の自由も認めてやるつもりでいた。
これでノルディアス王国の抱えていた食料や物資の不足問題も解決し、本国と公国間の交易を強化することで経済の発展と活発化も図ることができる。
このように、ウプサーラ王国への侵攻は、少ない投資と被害で、順調にショウゾウが思い描いた通りの結末になったわけである。
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