第238話 闇の支配者
理由は不明ではあるが、現時点ではロ・キに自分は殺せない。
ぎりぎりの挑発と腹の探り合いで、そう確信に至ったのであるが、これによりショウゾウはさらに大胆な行動を取り始めた。
直接的かつ効果的な敵対行為を自分に対して取れないのであれば、ロ・キは何らの脅威にもなり得ない。
ショウゾウが恐れていたのは、スキル≪オールドマン≫を没収するような手立てや無理矢理、自分の行動を強制し得るような手段をロ・キが備えていたケースで、あれほどに煽り立てても逃げの一手であるならば、そうした懸念を持つ必要はまずなかろうということになったのだ。
せいぜい繋がりがあることを確認できている≪
アラーニェたちと諮り、そのための準備と手はずは整えている。
ショウゾウは、領王ギヨームと伏魔殿の眷属たちにオースレンと光王ルシアンを守らせ、自身はレイザーたちを連れ、周辺地域にあるものから順に、F級以下の迷宮を片っ端から攻略し始めた。
フェイルードたちには、B級以上、特にA級に位置するダンジョンの攻略の準備を依頼中で、裏でその地道な工程を成し遂げてくれているものと思う。
F級以下の迷宮は、全部で111か所。
内訳はFが48か所で、Gが63か所だ。
もうすでに攻略し、消滅させた迷宮の数を引けばもっと少ない。
この低難易度帯の迷宮は比較的規模が小さく、冒険初心者向けであるため、あまり時間を要さず、そのわりに得られるメリットが大きい。
G級ダンジョン≪悪神の誘い≫から解放した≪獣魔≫グロアがあれほどの力を持っていたことを考えれば、低難度の迷宮の守護者とはいっても、人材としての価値は高いし、戦力面の増強という意味でも効果的だ。
手足として動かせる手駒が増えれば増えるほどショウゾウ自身の行動の自由は増える。
デルロスが王都周辺の残存勢力の再結集を果たしてくれれば、光王ルシアンの
間違った方向に行きさえしなければ、いちいち箸の上げ下げにまで口をはさむ気はなかったし、肝心の利権と権力中枢への影響力さえ確保できていればそれでよかったのだ。
基本的な統治の仕組みを整え、国家としての体裁を保てるまでに軌道に乗ったら、自分の仕事は終わる。
ショウゾウはそう考えていた。
≪
自らが築き上げた地上の楽園とその栄華を、
これがショウゾウの理想の生き方であり、仮にそんなことをして何になるのかと問われたとしても、ただそうしたことが好きなのだとしか答えようがなかった。
多くの人間の人生を掌の上で転がす愉悦、万能感。
この世は、ショウゾウにとっての遊び場であり、他者はおのれの玩具のようなものだった。
あのロ・キのような神でさえ究極的にはその範疇を出ない認識だ。
ロ・キが何を企んでいようとも、どうにもできないような盤面を整えてしまえばいいのだ。
二百余名の闇の眷属たちの上に君臨し、儂は地上の全ての存在の影の支配者となる。
改めてそう決意したショウゾウではあったが、各地の迷宮と伏魔殿を行き来する日々は多忙を極めるものであった。
無数の魔物による襲撃で、ヴァナフェイム王国軍が壊滅するという前代未聞の事態に、ノルディアス侵攻中だったワールベリ、カールスガル、ワリング、ウプサーラの四つの王国は、足踏みせざるを得ない状況に陥ってはいるものの、戦況は未だ予断許さず、使者を遣って、外交により撤退を促すようにルシアンに助言するなど迷宮攻略の合間を縫って、そうした動きの悪い光王家の面倒も見ねばならなかった。
日ごとにオースレンに集まってくる前光王時代の人材たちの扱いや宮廷に代わる新しい行政府の組織案と人事なども口を出さなければ、旧態依然とした血統主義に基づくものに逆戻りしそうになる有様で、迷宮への移動中やその攻略の合間にさえ、何らかの仕事をしている。そういう状況であった。
だが、そうした殺人的ともいえる忙しさは、元来、仕事人間だったショウゾウの目をより輝かせるものであり、「忙しい、忙しい」がどこか口癖になりながらも心躍る状況であったのである。
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