第223話 戦闘の主軸

B級ダンジョン≪悪神の偽り≫の最下層に到達したショウゾウは、だいぶ手に馴染んだ感のある≪主君殺しディルムント≫だけを携え、迷宮の守護者の待つ扉に手を伸ばそうとした。


これから中に入って、ボスモンスターと戦うのは己一人。


それが迷宮の守護者解放の必要条件だった。


「本当に、ここのボスモンスターの特徴を聞かなくても良いんだな?」


背後からフェイルードが声をかけてきて、ショウゾウはふと背後を振り返った。

そして、ショウゾウはここまで同行してきてくれた者たちの顔を一度見渡すように視線を動かす。

まるで失敗することなど微塵も想像していないかのようにレイザーとエリックは激励するような仕草をしていたが、エリエンはひどく不安そうな顔で、こちらをじっと見つめていた。

フェイルードの仲間たちは、お手並み拝見とばかりの視線をこちらに向けてきている。


「ああ。百聞は一見に如かず。余念を抱かず、まずは相手と向き合ってみようと思う。儂がひとりでボスモンスターに挑む時は、仲間を連れて行った時とはいささか異なる挙動を示すのだ。話しかけてきたりするし、その動きもまるで人間を相手にしている様な理性が感じられるものに変わる。それに、やはり、冒険者に必要な臨機応変さを身に着けるには必要な体験であろう。心配してくれるのはありがたいが、このままいくとしよう」


「心配などしていない。このまま、この迷宮の主に殺されてくれれば、やっかいな依頼者との縁も切れるが報酬の後払い分をもらい損ねてしまうからな。今回は杖は使わない気か?」


「そのつもりだ。まあ、ピンチになったら頼ることになるかもしれんが……」


石魔せきまの杖≫には劣るものの、一応、≪老魔の指輪≫も魔力の増幅と安定を助ける効果が付与されている。

ゆえに両手で剣を扱うことを考えると、杖無しの一刀流の方が良さそうに思われたのだ。

少しずつ戦闘の主軸を魔法から、剣とスキル≪オールドマン≫中心に移していく構想だった。

魔法は、魔導神ロ・キに魔力を渡さずに済むように、≪光の使徒エインヘリヤル≫から奪った力で、光魔法を再現して使うにとどめるつもりだ。

闇魔法は、本当に追い詰められたときの奥の手とする。


この部屋に辿り着く前に、≪失われし魔法の探究者≫ルグ・ローグの意見も参考にしつつ、いくつかの光魔法を魔導神ロ・キと契約した。


それは、≪聖光付与サクリス≫、≪閃光フラー≫、≪幻光シャイラー≫などで、光魔法の中では中級以下に位置する難易度の魔法だ。

ルグ・ローグも知識として知っているだけで、己で使った経験はないので、具体的な助言などは得られなかった。

実際に自分で使ってみて、試行錯誤するしかない。


ルグ・ローグは、魔導神ロ・キについて異様なほど知りたがり、そのしつこさには少しうんざりしたのだが、こちらも多くの知識を与えてもらった以上、その情報を開示するのは、やむをえない取引となった。


「フェイルード、これは万が一の話だが、もし儂がことを仕損じ、半日以上も戻らなかったときは、エリエンたちを頼む。報酬は、オースレンの貧民街を取り仕切っているアラーニェという女に言えば、間違いなく全額支払ってもらえるから、それは心配するなよ」


ショウゾウは真顔でそう言うと、再び背を向けた。


「おい、ちょっと待て。ここであんたの口から女の名が出てくるとは驚きだぜ。そのアラーニェってうのはあんたの何だ? 娘とか、恋人だったりするのか?」


「……ただの情婦だ。では、頼んだぞ」


ショウゾウは振り返ることなく、扉の向こうの闇に消えていった。

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