第222話 それぞれの転機
超一流の冒険者であるフェイルードが率いる一団との共同での迷宮攻略は、ショウゾウに多くの気付きと経験を与えてくれた。
高難度迷宮を攻略するうえでの必要な個々の知識やノウハウもそうであるが、特に武器に魔法の効果を付与して戦うというフェイルード独自の戦闘スタイルは、ショウゾウにとっては目から鱗となるものであった。
魔導神ロ・キへの警戒心から、これまでの魔法に依存した立ち回りをどうにかしたいと考え始めていたショウゾウにとって、これは大きな手掛かりであり、これから自分が新たに目指すべき姿のお手本の一つになるものであった。
この異世界に連れてこられて魔法というものに出会ってから、日夜、その使い手となるべく猛勉強し、研鑽を積み重ねてきたつもりであったが、そうして自分なりに構築してきた戦い方を捨てるのはまさしく断腸の思いではあった。
だが、ショウゾウのこれまでの人生には何度かこのようなことがあり、一度そうすると決めたならば、もはやためらう理由はどこにもないように思われたのだ。
転機。
今がそうすべき時であるとショウゾウの直感が告げていた。
通産省で地道に積み上げてきたキャリアを捨て、経営コンサルタント業を立ち上げた時。
また、その事業を基軸にし、不動産業、金融業など更なる分野に手を伸ばし、巨万の富を築き上げた時も、ショウゾウにはこうした天啓とも言うべき閃きが過去に何度も降りてきたのだった。
その閃きと直感を信じて、これまでの人生を突き進んできた。
中には失敗であったと思うこともあったが、強引に障害となる人間や状況を排除して、最終的にはすべてに勝利してきたのだ。
あの蠱惑的ともいえる強力な闇の魔法の恩恵を遠ざけ、今の自分に何ができるか。
その最終的な答えは出ていないが、何かがぼんやりと輪郭を現し始めていた。
若き前衛職のエリックも、≪巨岩≫とあだ名されるスティーグスという絶好のロールモデルを得て、その一挙手一投足を観察し、さらには進んでコミュニケーションを取ろうと積極的に話しかけたりしていた。
どこか性格的にも似通ったところがあるのか、寡黙だというスティーグスもエリックとの会話には嫌がらず応じてくれていて、アドバイスなども送ってくれている様子が印象的だった。
盾を使った衝撃の逸らし方のコツを実演をまじえて指導している姿を見ると、似通った体格もあって、兄弟のようにも見えて微笑ましい。
エリエンはまだなかなかなじめていない様子だったが、ルグ・ローグとショウゾウの魔法談議に興味深く耳を傾けていて、それなりに刺激を受けているようだった。
レイザーにしてもフェイルードとのやり取りや技量の比較などで、
ただちょっと予想外だったのは、実験のため、気が付かれぬようにこっそり肉体年齢をおよそ五歳から七歳分ほど若返らせた影響かそうでないのか、レイザーは≪癒せぬ者無き≫フェニヤのことが異性としてかなり気になっているらしく、その言動や態度がちょっとおかしい。
彼女にだけやけに親切で言葉遣いもぎこちなく、時折、こっそりそちらの方に見とれていたりする。
フェニヤは三十代半ばほどで、容姿も整っており、今のレイザーから見ても一回りほど年下ではあるものの釣り合わない年齢ではない。
ただ、レイザーが自分で言っていたが、色恋沙汰で仲間を殺した過去を持つらしく、そのことが少し懸念されるが、まあそれに口を出すのも野暮というものだろう。
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