第216話 揺らぐ者
オースレンを治めるグリュミオール家によって、B級ダンジョン≪悪神の偽り≫の周辺は、ちょっとした宿場町のようになっていた。
管理型迷宮のための宿舎や管理小屋などの施設の周辺には、商店らしきものや住居が軒を連ねている。
ただ、肝心のグリュミオール家自体のお家騒動により、迷宮の管理が行き届かなくなったばかりか、逃れてきた光王兵の略奪を受けるなどしたために、すっかり無人の廃墟のような状態と化してしまっていた。
フェイルードたちは、すっかり
何でも、かなり広範囲におよぶ無差別的な攻撃手段があるとかで、比較的浅い層の魔物を一掃してくるのだと言って、先に一人で行ってしまった。
ちなみに、死にたくなければ迷宮には絶対に近づくなと釘を刺された。
メルクスだの、ショウゾウだのと状況に応じて、姿をころころ変えなければならないとは、なんとも忙しいことだ。
フェイルードは内心でそう愚痴を言い、腰を下ろしている切り株の近くに落ちていた小枝をへし折った。
あの闇の怪老め。
迷宮攻略については、こちらが主導権を持つという取り決めであったのに、いざ始まってみれば、簡単にその取り決めを覆してきた。
この≪悪神の偽り≫は、かつてフェイルードがクランを率いていた頃に何度も訪れており、その頃、ここは周りに何もない殺風景な場所であった。
だが、それこそが本来の姿であり、自然のあるべき迷宮の姿であるとフェイルードは考えていた。
迷宮とは本来、人智の及ばぬ場所であり、驚きと謎、そして神秘性に溢れたものであると、冒険者の世界に足を踏み入れたばかりの若き日よりずっと考えていた。
だからこそ、迷宮攻略には命を懸ける価値があり、自らの人生を通じて取り組むべきものであると信じていたのだ。
しかし、今、フェイルードの中でその信念が揺らぎつつあった。
ショウゾウと出会い、彼の口から明かされた多くの事実は、フェイルードの胸の内にあった迷宮攻略に対する情熱を失わせるものであり、S級冒険者としておのれが積み上げてきた実績や名声など、それら全てから輝きを奪ってしまったかのようだった。
ああ、いっそのこと、冒険者などやめてしまうか。
そんな考えが、ショウゾウの依頼を請けた日から、何度も頭を過る。
フェイルードは、まるでその身に抱え込んだ苛立ちを解き放つかのように、やおら愛用の黒塗りの弓を手に取ると矢筒から二本の矢を取り、それらを同時に
「フェイルード、どうした!?」
ヴォルンドールが驚いて、尋ねてきたが、それに答える必要はなかった。
フェイルードが放った二本の矢は、廃屋の屋根の上からこちらを射ようと構えていた二人の射手の胸の中心をそれぞれ貫き、倒していた。
胸を射抜かれた二人は悲鳴を上げることもできずに、屋根下に転落した。
「敵襲!」
≪巨岩≫スティーグスがその巨躯にふさわしい太く、大きな声で危険を周知する。
仲間たちはそれぞれ身構え、レイザーたちも得物を構える。
フェイルードは、もうかなり前からこちらを伺うような視線と気配に気が付いており、それが何者であろうかと様子を伺っていたのだが、射手の姿をその広い視野の中に認めて、先手を打つ判断をした。
並みの腕前であれば、命中させることはおろか届かせることすら難しい距離であったのだが、ショウゾウの仲間たちも同行していることもあり、万が一のことを考えた。
射手をやられたことが引き金になったのか、建物の陰や周囲の林などから十数人の武装した人間が一斉に現れ、包囲してきた。
紋章などは削り取られていたが、身につけている物などから、どうやらオースレンから落ち延びていた光王兵、それも雑兵の類のようだと思われた。
野盗に落ちぶれて、この辺りを根城にしていたのかもしれない。
ここに着いたばかりの時には、この辺りに気配はなかったから、どこかでひと稼ぎでもしてきたのかもしれない。
案の定、野盗たちは金目のものを出せと要求してきたが、ヴォルンドールたちに散々やられて、そのほとんどはここで屍となった。
そうこうしていると、とぼけた顔してショウゾウが戻って来た。
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