第195話 困惑の使徒
≪光神の代行者≫レギンレイヴは、≪
その屍のほとんどは王城を取り戻さんと詰めかけてきた光王配下の兵たちや内城壁の向こうからやってきた司王院の衛兵たちであったが、レギンレイヴや他の光の使徒たちに返り討ちされ、一太刀も浴びせること
つい先ほどまで城の外では、包囲の兵が取り囲み、城内突入の機会をうかがっていたようであったが、あきらめたのか、やがてのその囲みも解かれてしまった。
別天地はおろか王都全体からも人の気配が消えつつあって、この王城から見下ろす都市の夜景は暗く
「我らが生きた
レギンレイヴは、明かり代わりに屍に灯した炎の揺らめきを見つめながら、独り言のようにつぶやく。
この王城に集ってきた他の光の使徒たちには、闇の怪老を含む闇の勢力の手がかりを探すよう命じて、ノルディアス各地に解き放ってしまったので、今はこの玉座の間に居るのはレギンレイヴだけのはずであったのだが、その呟きに応える者があった。
屍から流れ落ちていたおびただしい血が蠢き、一か所に集まったかと思うと、それがやがて人の形となり、言葉を発したのだ。
「レギンレイヴ様、それも仕方のないことでございましょう。我らが封じられてから千年以上が経っているのです。このイルヴァースの支配権をかけた神々の大戦の記憶も今はもう失われ、我らのことを知っている者などもはやほとんどおりますまい」
「……スケッギヨルドか。遅かったな。お前以外の使徒は皆、もうすでにそれぞれの任に就いたぞ。何をしていた? それにその有様はなんだ? なぜ、憑依ではなく、受肉を選んだのだ? 魂魄が穢れて、聖性が損なわれてしまうぞ」
スケッギヨルドと呼ばれたその人型は、やがてその輪郭をはっきりとさせていき、そして筋骨たくましい女性の裸身となった。
皮下脂肪は薄く、全身に筋肉の筋がくっきりと見えた長身で、精悍な顔立ちをしている。
「私は、本来のありのままの自分が好きなので、それに匹敵するようなふさわしい依り代がなかなか見つけられなかったのです。この時代のオルドの民は貧弱で、まるで堕落しきっている。この広間に転がっている者どもを見てもそそるような体の持ち主は誰一人いない。それに、こうして人の身を手にしたことで、再び肉体を鍛錬する喜びを味わうことができる。これはとても素晴らしいことですよ」
「相変わらず変わった奴だな、お前は……。なぜ受肉などして、下等な人間にわざわざ身を堕とそうとするのか私には理解しかねるよ」
「人間のことは、人間にしかわからない。そういうこともあろうかと思ったのです。それに元の人間の魂を残したままの憑依ではいささか我らの力のすべてを振るうには不十分。オルディン神の霊感を備えた処女の肉体を選ばれたあなたですら、八割ほどの力しか出せますまい」
「それでもこのような愚かな生物に一時でもなるのだと思うと虫唾が走るよ。お前の懐かしい顔が久々に見れたのは嬉しいが、いらぬ心配だ。お前もさっさと他の使徒同様に、闇の気の痕跡を探りに行ってくれ。それとあの片目や魔法神どもの現状だ。見るがいい、あいつが大事にしていた子孫をこれだけ殺しても、姿一つ現わそうとしない。どうやら我らが眠りについている間、神どもの身に何かが起きたのはもう疑いようのない状態だ。完全に消え失せたのか、それともどこかで身を潜めているだけなのか、それをはっきりさせたいのだ」
「なるほど……。レギンレイヴ様は、神々にとって代わろうというお考えなのですね」
「そうだ。我らを散々、戦の道具として酷使したくせに、用済みとなると封じて、何の労いも与えなかった神々のすべてを奪ってやる。神々の寵愛を受けていた人間の上に君臨し、我らが新しき神となるのだ!」
玉座から立ち上がり、異様なほど高揚した顔のレギンレイヴをスケッギヨルドは何とも言えないような顔で見つめ続けていた。
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