第191話 集う光
エレオノーラの肉体を奪い、依り代とした≪光神の代行者≫レギンレイヴは、オースレンで≪獣魔≫グロアを屠った後、王都の別天地に高くそびえたつ王城、≪
背に≪
だが、レギンレイヴは駆け寄り、声をかけてきた者たちを
胸から上を、胴体から斬り飛ばされた人々は何が起きたのかわからず絶命し、それを目撃した人々は一瞬の硬直のあと、悲鳴を上げて、蜘蛛の子を散らすかのように逃げ去っていった。
そうした人々には一切気にも留めずに城内に足を踏み入れたレギンレイヴは、立ちふさがる者たちを機械的に排除しながら、玉座の間に足を踏み入れた。
玉座には、すでに何者かが腰を下ろしていたが、レギンレイヴがやって来るのを見ると「冗談です。気を悪くしないでください」とその座を譲った。
「ラーズグリーズ、早かったな。他の者はまだか?」
ラーズグリーズと呼ばれたのは先ほどまで玉座で悠然と構えていた若い男だ。
今は軽やかなステップで玉座がある壇上の下に降り、代わりに玉座に就いたレギンレイヴを見上げている。
光王家の一員の証であるプラチナの輝きあるその前髪の下は、美男と言っても差し支えない顔立ちながら、何とも意味ありげな笑みを浮かべている。
「はい、レギンレイヴ様。ここに集ったのはまだ、私と……ミストだけです」
ラーズグリーズはそう言って照明石がふんだんに使われた豪奢なシャンデリアが吊られている天井の方を指さした。
その先には白い長衣のフードを目深に被った男が宙に浮いており、影になったその表情はうかがい知ることができない。
「どうやら、近場で肉体を調達したのは我らだけのようですね。でも、他の連中も気配を察して、そのうちここにやって来るでしょう。……それにしても、驚きました。よもや、再び我らがこの現世に解き放たれるような事態に陥るとは……」
「ああ、しかし、これが現実だ。悪神に連なると思われる輩に現光王が討たれ、そして封印が解けた。さほどの脅威ではなかったが、たしかにその者からは闇の気が感じられ、あの忌まわしきヨートゥン神を思い起こさせられた」
「それで、その者はどうされたので?」
「ここに来る途中で、ついでに始末しておいた。我らの使命はあくまでもノルディアスの浄化。悪神ヨートゥンの
「さすがは≪光神の代行者≫にして、我ら≪光の使徒≫を束ねるお方。仕事が早い」
「世辞はよせ。本当は生け捕りにして、彼奴の正体を確かめたかったのだが、憑依したてでまだこの肉体に馴染んでいないゆえ、要らぬ危難は避けたかったのだ。あの地の淀んだ空気……、他に仲間がいる可能性も大いにあったのでな」
「なるほど、確かに神の力たる≪
「まあ、さしたる問題ではない。いずれにせよ、この地上からオルドの血を引かぬ人間は一掃されるのだ。人狩りを開始すれば、仮に仲間がいたとて、きっと姿を現すであろう。あのグロアとかいう異形の戦士は受肉し、人間の肉体を得ることで、その闇の気配を我らに悟られぬように工夫を凝らしていたが、あのように近づきさえすれば、さすがにそのすべてを隠すことまではできない。奴らの闇の気はひどく鼻につくからな」
「確かに……。ときに、レギンレイヴ様、気配と言えば、何かお気付きではないですか? 」
「なんのことだ?」
「このイルヴァースのどこにも、在るはずの気配が感じられない」
ラーズグリーズの言葉に、レギンレイヴは何かを察し、そして目を閉じてしばし、何かを周囲を探るようなそぶりを見せた。
「……確かに。オルディンの≪神気≫がどこにも感じられない。ヴァルキュリャたちも、他の魔法神たちも……どこに消え失せたというのだ? 」
レギンレイヴはその氷のような美貌に、歪な笑みを浮かべ、抑えきれない高揚感を露にした。
「……奴に関する最後の記憶。どうやら、受肉したようだが、あれほどの巨大な≪神気≫だ。人間に身を堕としたとしてもこれほどまでにその存在が感じられないのは、妙だ。我らが封じられていた空白の期間に何かが起こった? 我らの魂魄のツナギになっている古の英霊たちの記憶にも、≪
「いずれにせよ、我らがこうして蘇ったにもかかわらず、姿を現さないのは奇妙ですね。普通に考えれば、自ら制御しようと血相を変えて駆けつけてくるところを」
「ヨートゥンとの戦いの後、我らを封じてから、オルディンや他の神々に何かが起こったのはまず間違いなかろう。そう考えるのが自然な状況だ」
「さて、そうなると……。我らはこのあとどうすべきでしょうか? 目障りなオルディンの監視がないなら、我らの好きにやっても良いということになりはしないでしょうか?」
ラーズグリーズは、何か思惑のある目つきでレギンレイヴを見上げ、問うた。
「いや、まだだ。狡猾な奴のこと、油断はできぬ。闇に連なる者どもを根絶やしにする使命を果たしつつ、今は様子をうかがうとしよう。万が一、奴が現れたときに再び封じられたくはないからな」
「……それが、賢明でしょう」
頭上からミストが、ようやく短い言葉を発した。
それはまさに霧がかかったように不明瞭で、虚ろな声だった。
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