第164話 悪神の息吹

≪火魔≫オルゾン、≪音魔≫アモット、≪家魔やま≫アニカ、≪眼魔がんま≫ベリメール、≪盗魔とうま≫マテウス、≪病魔びょうま≫イェーオリはそれぞれ話し合って決めたそれぞれの標的となる都市に向かって旅立っていった。


「儂は、無駄な殺生はするなと言ったが、目的遂行の障害になる邪魔者まで殺すなとは一言も言っておらん。後々になって禍根となりそうな者、始末した方が利が大きい者なども同様だ。何者を生かし、そして殺すのか、その見極めをせよという話だ。それと、もう一つ。お前たち魔人の存在が明らかにならぬように事の進め方には気を付けることだ。お前たちの存在が長く知られぬことは、我ら全体の有利となる。殺し方ひとつ、死体の処理ひとつ疎かにするなよ。それと……おっと、年寄りは話が長くなっていかんな。まあ、細かいことをグダグダと言わずともおぬしらのことだ。わかっておると思うが、一応、念のためだ。あとは結果で判断するゆえ、油断なきようにな。使えぬと判断した者には次から仕事は任せるわけにはいかぬようになるであろうから、各々、ご油断召されるな。それではのう」


我ながら嫌な爺だと思うが、この言葉を魔人たちにはなむけとして送った。



蟲魔ちゅうま≫アラーニェは伏魔殿の維持と拡張を担い、≪獣魔≫グロアと≪喰魔しょくま≫アンドレは、この本拠となる場所の守備と、オースレンの街の更なる掌握のため、ここに残った。


鍛魔たんま≫マルクは、伏魔殿で作品作りに没頭したいということで、鍛冶場を与えられ、そこで他の魔人たちが用いる武器や防具などの製作に専心することになった。

ショウゾウは、自分の剣道の技に合うように片刃のそりのある剣を注文したが、あえてそれ以上の日本刀の特徴は伝えず、先入観のない状態での新たなる武器の誕生を期待した。

ショウゾウにとって、剣はあくまでも近接戦闘に弱い魔法の弱点を補うものであり、使い捨てることもあるため、あらかじめその意図を伝えておいた。

「粗雑でもいいから、複数本頼む。あと儂のは急ぎではないから、後回しで善いぞ」

この言葉を聞いたマルクは、何とも微妙な顔つきをしたが、わかりましたと言葉短めに了承していた。

後になって、ものづくりをする職人に対して失礼なことを言ってしまったのではないかとショウゾウは反省したが、その時にはすでにオースレンを発っていたためにすでに遅かった。

あとで何がしらかの手当てが必要になるかもしれない。


≪鳥魔≫ストロームと≪緑魔≫シンニルドは都市の掌握ではなく、攻略予定の迷宮の近くに自然に根差した特殊な拠点を作ることを提案してきたので、まずは試しにそれを許すことにした。

彼らの持つ能力を最大限に生かせるということなので、その言を退ける理由は無い。



≪剣魔≫ミュルダールは、ショウゾウたちの護衛兼剣術指南として随行することになった。

これは、おのれの剣の技術の拙さを少しでも改善したいと考えたショウゾウが望んだことで、エリックの教師としても良いのではないかという親心的な目的もあった。


エリックはもうすでに出発前から手ほどきを受け始めていて、エリックの剣の素質については、ミュルダール曰く「素直なことだけが褒められる点だ」とのことだった。


ショウゾウたちが迷宮に挑んでいる間は、その出入り口の確保や警備などを頼むつもりで、これはダンジョンの難易度が高くなるにつれて、高位の冒険者と出くわす可能性も増えるし、そうした者たちの邪魔が入るリスクを減らすこともできる。


それに相次ぐ迷宮消失により、冒険者ギルドや各領主貴族らによる検問や封鎖の措置が為されている場合も想定して、その排除や妨害を頼むつもりだった。


虚界ヴォダス≫を通り、ショウゾウたちが向かったのは王国西部にあるB級ダンジョン≪悪神の息吹いぶき≫だ。

冒険者としては一番経験豊富なレイザーも初めて訪れるダンジョンらしく、どのようなダンジョンかは手探りになる。


オースレンから≪悪神の息吹いぶき≫までは馬を使った旅で半月以上かかるが、遮る物のない≪虚界ヴォダス≫をショウゾウの≪飛翔ヴァンガー≫を利用して移動すれば、休みながら移動しても半日かからない。


地図で目的の場所についたことを確認し、≪虚界ヴォダス≫を出るとそこは木一本生えていない無人の荒野だった。

強烈な風が吹きすさび、砂塵が舞っている。


B級という≪踏破者≫向けの難易度の高さと気候風土のためであろうか、土地の領主は、あまりこの迷宮の運営に対する関心が高くないようだ。

都市からも離れていて、訪れた冒険者が休めるような場所もない。


レイザーに言わせると、利便性の低い不人気の迷宮ということだった。


吹き荒ぶ砂塵に邪魔されながら、ショウゾウたちはようやく迷宮の入り口がある巨石の積み重なったような場所に着き、そこの陰で野営をすることにした。

これは、レイザーたちの乗り物酔いがひどく、疲労が溜まっていそうだったため一晩休んで翌日から攻略を始める予定だ。


強風のため焚火を起こすこともできず、≪光源ラータ≫で明かりを取り、食事も干し肉などの携帯食中心だ。


口に飛んでくる砂が入らぬように、気を付けて干し肉を噛みながら、ショウゾウは一人、これから挑む迷宮について考えを巡らしていた。


C級以下の多くの迷宮を巡り、各々だいぶ力を増したという実感はあるが、今のパーティの総合力でB級ダンジョンを制覇できるのか。

無理そうであれば、被害が大きくなる前に早めに撤退の見切りをつけねばならぬ。


難易度の区分け的にはオースレンの≪悪神の偽り≫と同じだが、公営化によって人の手が入り、難易度が大きく下がったこの迷宮とはおそらく比べ物にならない危険に満ちていることだろう。

魔人たちは、他の魔人が封じられている迷宮には、その本能に刻まれた禁忌ゆえに足を踏み入れることができないらしく、連れてはいけない。

本音を言えば、共に迷宮に挑むエリックやレイザー以外の人間の仲間がもう少し欲しいところだった。


「メルクス名義で求人でも出してみるかな?」


ショウゾウは、ふと名案だなとと思い、このことについてはあとで戻って来てからアラーニェに相談することに決めた。










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