第150話 潜行する闇

ヨランド・ゴディンの≪天威招雷ジャスア・ラ・ガーン≫を防ぐのに使った≪闇・魔法障壁デア・マディカ≫は、闇属性に反転する前の≪魔法障壁マディカ≫とはその性質を大きくことにする。


魔法障壁マディカ≫は、相手の放った魔法の効果をただ弾くのみであるのに対して、≪闇・魔法障壁デア・マディカ≫はその効果が術者に到達しないように防ぎつつ、その魔法自体を闇で取り込み、さらに増幅して反撃の手段として打ち返すことが可能だ。


つまり、相手術者が、自らの≪魔力マナ≫を支払い発現させた魔法の効果を奪うことができるのである。


ただし、この魔法収奪の効果を発揮するためには、その魔法効果の引き合いから、相手術者よりもその≪魔力マナ≫の所持量などで完全に上回っていなければならない。


奇しくも、事前に準備していた巨大魔法陣から自然界の≪魔力マナ≫の供給を受けていたヨランド・ゴディンと現時点のショウゾウは、ほぼ互角であった。


だが、≪老魔ろうまの指輪≫と≪石魔せきまの杖≫の二つ魔王具がショウゾウの≪魔力マナ≫を増幅しており、その分でほんのわずかにではあるが優ったのである。


ショウゾウは、≪天威招雷ジャスア・ラ・ガーン≫の魔法効果を≪闇・魔法障壁デア・マディカ≫によって取り込んだが、それをヨランド・ゴディンに返すほどの余裕はなく、障壁の闇のエネルギーと雷撃を反発させ、おのれの周囲に発散させることによって、目くらましとして利用するのがやっとであった。


雷の性質上、おのれの肉体にもそれなりのダメージが及ぶ可能性を考えたショウゾウは、右手の小剣を敢えて体の前に抱くようにして、地上に降りた。


これには「直撃雷」を防ぐ目的と、肉体に対する誘電が起こった際の小剣を介することによる電圧降下の二つの目的があった。


雷が近づいてきたら、イヤリングやネックレスなど金属物を外せば危険が減るというのは嘘であると、ショウゾウは何か科学雑誌のようなもので読んだ記憶があり、このとっさの行動は、その記憶に基づいたものであったのだが、所詮は付け焼刃の、間違いであるかもしれない知識であったため、その効果がどれほどあったのかはわからなかった。


死にたくない。

誰よりも、もっと生きていたい。


だが、仮にそれが迷信同然の不確かなものであったとしても、助かるためにはどんなことでもしようというのが、ショウゾウの根底にある生存本能とでもいうべきものであった。


その悪あがきが功を奏したか、顔面の大部分が焼けただれ、死なない程度の全身やけどで済んだ。


立ち上る煙と砂塵の中で、≪闇・魔法障壁デア・マディカ≫で防いで尚、この威力かと、ショウゾウは改めて、ヨランド・ゴディンとその魔法の恐ろしさに驚嘆したが、思考を止めることなく、気分を即座に切り替えた。


体内に蓄えてあった余剰の精気を使って、その傷の治癒を開始しつつ、ショウゾウは、地面に土石変化ストゥーラを使って、深く潜行したのである。


土砂の形状を変化させ、人間一人が余裕をもって居られるほどの空間を作り、それを地下で水平移動させる。

坑道のようにしてしてしまうと、土砂の変化量が大きく地表への影響も大きくなるため、それを避けた形だ。


ショウゾウは、そのまま地下を移動し、老化した王族たちの死体を隠滅すべく、宿坊の方向に向かった。


今回の戦いで、闇魔法の存在とその一端は≪光≫の者たちに知られることとなってしまったが、スキル≪オールドマン≫の秘密については今はまだできるだけ隠しておきたかった。


手品とは異なり、タネが割れてしまったところでたちどころに無価値になるわけではないが、相手がこの能力をどのくらい把握しているかによって、その実効性は大きく変わってしまう。


そういう意味では、≪広範囲吸精ジェノサイド≫のおおよその効果範囲をヨランド・ゴディンに見切られてしまったのは痛い損失であった。


舞い戻り、せめてヨランド・ゴディンだけでも息の根を止めておきたいところだったが、自らの肉体の損傷具合と時間を考えると今はその余裕がない。


まずはエリエンの救出を急がねば。


ショウゾウは、証拠隠滅とこの場に多くの敵を引き付けておく時間稼ぎの目的で、宿坊に≪闇・滅炎嵐陣デア・ドラローア≫を放ち、オルディン大神殿を去った。




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