第132話 手配書の老人
F級ダンジョン≪悪神の
地底湖のような見た目で、壁などの仕切りが無いフロアを水たまりを避けながらひたすら進むとようやく奥に大きな金属扉が現れて、その前には順番待ちの冒険者が集まっていた。
順番を管理するようなギルド職員などはおらず、ここにいるのは地元の顔見知りだけであるためか、特に列などを作っている様子はない。
人数は八人。
おそらく、二つ、三つのパーティからなる集団なのだろう。
いくつかの塊に分かれ、談笑し合い、賽子振りの賭け事に興じている者たちもいた。
ショウゾウは、レイザーたちを離れた場所に待機させ、ただ一人でその冒険者集団が集まっている扉の先に向かった。
「おい、爺さん。その歳で、こんな迷宮の最下層によく来れたな。あっちで離れている二人はあんたの仲間か?」
一番手前側にいた冒険者がショウゾウに気が付き、声をかけてきた。
他の冒険者も余所者がやって来たことが気になったのか、会話などを止め、こちらを見ている。
「はい。何組ほどが順番待ちをしているのか確かめて来いと言われましてな。こんな老いぼれになると立場が弱く、顎でこき使われてしまっておるのです」
「そうか、その歳まで迷宮稼ぎしなきゃならんとは不憫だな。見ての通り、今日は混んでいる。三組が順番待ちしてるから、ボスモンスターの
「なるほど、では待つとしましょうか。儂らは四組目ということでよろしいですかな?」
「ああ、他の地元の冒険者が来なけりゃな。この≪悪神の
「なんと、そのようなルールがあるのですか?」
「当り前だ。バッソンビエンで活動する冒険者は皆、ここの≪迷宮漁り≫で生計を立ててるんだ。あんたたちのような流れ者に乱されたくはない。もしこのルールに従えないのであれば、大人しく立ち去るんだな」
その冒険者の言葉に、他の冒険者たちは頷いたり、中には得物をちらつかせて睨んで威圧的な態度を見せたりしている。
やれやれ、本当に、お前たちはついてないな。
ショウゾウは心の中でそう呟くと、スキル≪オールドマン≫の≪
≪
近くにいる者ほどその影響を強く受け、遠ざかるほどに効果が弱まっていく。
直接触れて精気を奪うのと比べるとその吸収の速度は遅いが、こういう集団を一度に弱体化、あるいは衰弱死させるのに向いている。
目の前の冒険者の顔が見る見るうちに老化していき、その周りの者もショウゾウからの距離に応じて変化していくが、何が起こっているのか彼らはまだ気が付いていないようだった。
ただ、皆、どこか
「おい、アンソニー!その顔どうしたんだ」
仲間の一人がようやく異変に気が付いたようで声を上げる。
だが、その仲間も白髪が目立ち始めており、十歳前後は老け込んでいた。
アンソニーというらしい目の前の男はもうすっかり老いぼれていて、その声に気が付いていない。
「おい、こいつ、まさか例の手配書の、ショウゾウじゃないか?」
どうやら、儂の素性に気が付いたらしい。
一番離れた場所にいた斧使いが立上り、両手で得物を構え、近付いてくる。
まだ動ける者は、斧使いと同様に色めき立ち、戦闘態勢を取り始めた。
ショウゾウは、アンソニーの細くなった首を掴み、残りの精気を吸った後、そのままその身体を斧使いの方に押しやると、小剣を抜き、バックステップで距離を取った。
無駄に斬り合う必要はない。
うまく立ち回り、持久戦に持ち込みさえすれば儂の勝ちは揺るがない。
ショウゾウは小剣を器用に使い、敵の攻撃をいなしながら、≪
ショウゾウを攻撃するために、相手は近づかねばならず、そうなるとより老化が進んでしまう。
一方でショウゾウは、奪った精気によって疲労や負傷を回復し続けることができるので、この戦法を取ると時間の経過が、数的不利を容易く覆してしまうほどの圧倒的有利をもたらしてくれるのだ。
「なんだ? 何が起こっているんだ……」
「駄目だ、力が抜けていく、身体を支えていられない」
ショウゾウに襲い掛かって来た冒険者たちは口々に不調や疑問を口にし、老化と共に次第に動きが鈍くなってきた。
「どけ!お前ら」
斧使いが目の前にやって来て、ショウゾウめがけてその刃を振り下ろす。
ショウゾウはその大振りな一撃を難なく躱すと一気に間合いを詰めその胴体に刃を突き入れた。
斧使いは、老化速度が一気に加速し、すぐに自分の足で立っていられなくなった。
周囲を確認すると、もはや全員が老化してしまっており、最初に近くにいたアンソニー以外の冒険者も横たわり自力で立ち上がれなくなっていた。
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