第124話 不吉な未来
「目的……でございますか? それは、この怪老の案件とは別のものなのでしょうか?」
弟のルカとともに跪いた状態のフスターフは顔を上げぬまま、尋ねた。
この貴賓室は、来訪した王族あるいは光王家からの使者を歓待するための部屋であり、設けられた玉座にあるルシアンは、いわば国王の代理人である。
さらに監察使は、「王の目」という別名があり、領主貴族のしかもその代理に過ぎないフスターフにとっては、このようにへりくだった態度をとることは至極当然のことであったのだ。
「ああ、まったくとまでは言えないが、このオルディン神殿の襲撃とは別件だ。それは、おいそれとは口にできないことであるし、今はまだ誰にも明かすことはできないが、私にとって、とても大切なことなのだ。その目的のための地固めとして、今はできるだけ王都の外にも味方を作っておきたい」
「味方でございますか? それであれば、当家の忠誠はすでに光王家の方々のものでありますし、改めて言及する必要は……」
「そうではない。光王家にではなく、私個人の味方になってほしいと言っているのだ」
「仰っている意味が分かりかねます。ルシアン様個人の味方とは一体?」
「君たちは知る由もないと思うが、宮廷内に私の敵は多い。王都には私を含め、たくさんの王族がいるが、そのたくさんいる王族の中で、特に私の力になってほしいと言っているのだ。光王家の血を引く者の多くは、王都外の領主貴族を蔑み、侮っているようだが、私はそうは考えていない。王都は国の一部でしかなく、その繁栄はそなたたち地方領主からの献身の上に成り立っているのは歴然たる事実だ」
「有難き仰せなれど、私は領主代理に過ぎず、何とお答えしたものか……」
「実は、王都では、グリュミオール家からこのオースレンを取り上げ、別の者に与えるべきだという意見が出ている。二つの迷宮を失った管理不行き届きに、今回のショウゾウの一件。
「なんと、そのようなことになっていようとは……」
「だが、大丈夫だ。最初にも言ったが、私個人はグリュミオール家をどうこうする気はない。それどころか、フスターフ卿、私はそなたが現領主の存命中に、新領主の地位に付けるようには働きかけても良いとまで考えているのだよ。さきほど見舞った限り、お父上のコルネリスには領主の務めはもう果たせまい。歳若く、有能な君が跡を継ぐべきだ」
「しかし、父には領主の地位から降りる意思は未だ無く、その意志無くしては、光王家からの承認を得られないはず」
「コルネリスの説得は私に任せてくれ。もし、快諾いただけなくても、王族の端くれたる私が後見人となれば、万事滞りなく、事が進むはずだ」
「有難き申し出なれど、なぜルシアン様が、それほどまでに我らのことを?」
「だから、言っただろう? 私の個人的な味方になってほしいのだと。オースレンの領主になり、そしていずれ時が来たら、私の力になってほしい。領地を没収される恐れもある中、これは君にとっても悪い話ではないはずだ」
ルシアンの双眸が、異様な熱と輝きを帯びたように見えて、フスターフは思わず身震いした。
その両者のやり取りを静かに見守っていたルカの表情には、傍から見れば何も浮かんでいないように見えたが、その内心では、複雑な思いが渦巻いていた。
降って湧いたようなオルディン神殿の事件から、このルシアンの異例の申し出までの流れ。
これはいったいグリュミオールに何をもたらすものなのだろうか。
これまでオースレンには様々な災厄とも言うべきものが相次いで起こった。
その渦中にはいつも必ず、あのショウゾウという老人の存在があり、その老人によって自分も翻弄され続けてきた。
だが、そうしたオースレンの繁栄に影を落とした様々な事件ですらも霞むほどの大いなる災いがこのルシアンからもたらされるような予感を、ルカは感じずにはいられなかった。
光王家ではなく、ルシアン個人の味方。
この言葉が意味するところを考えると不吉な未来しか浮かんでこなかった。
光王家の血を濃く受け継ぐ、この若き監察使が生み出す時代の潮流が、川の
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