第117話 命の価値
魔導神ロ・キから授かった闇の魔法の影響で、メルクスの≪
これは即ちメルクスが≪魔人≫たちと同じ性質を有する≪
光魔法の習得者、特にオルディンを介してその属性魔法を得た者たちは少なからずオルドというかつてこの地を侵略した民族の血が流れている。
そのオルドの血が濃ければ濃いほど、光魔法の適性は高まり、それと同時に≪闇の
オルドの民とは、その信奉する神オルディンの「神の血」を分け与えられた民であり、その血が巨人神ヨートゥンの存在の名残を許さないのだとアラーニェは語った。
メルクスはそのアラーニェから、≪光≫の追跡者たちの目を欺き、晦ますための方法を教わり、魔法などについても師事することにした。
アラーニェは人格の基になっているというその古代の女呪術師の知識と記憶を有しているということもあって、かつてその手ほどきを受けた≪引き水の賢人≫ヨゼフとは比較にならないほどの魔法に関する深い造詣があったのだ。
さらにメルクスの興味を引いたのは≪呪術≫と呼ばれる魔法とは異なる系統の技能だった。
この≪呪術≫は≪
本来はその限られた部族各自の門外不出の秘術であったらしいのだが、これも授けてもらえることになった。
そして、グロアからも、≪
メルクスがまず先に目指したのは己の≪闇の
通常の魔法を反転させ闇の魔法として使用するときのように≪
これが可能になれば、神殿騎士たち≪光≫に属する者たちに気付かれる危険が少なくなるし、屋外を出歩くことも可能になる。
≪伏魔殿≫というらしいこのアラーニェが造った異空間にある拠点の一室で、数日の間、メルクスは、自らの≪闇の
この≪伏魔殿≫には、強い結界が張られていて、その外からは≪闇の
今のところはこの場所の表に当たる貧民街にも、神殿騎士たちがやって来たということは無いそうで、安心して自身の強化に取り組むことができた。
「寝食も忘れるほどに、根を詰めるなど、随分と熱心なご様子。少し休まれてはいかがですか?」
気が付くとアラーニェがやって来ていて、その手には温かい料理が載ったトレーがあった。
「根を詰めているわけではない。ただ、このままでは外出もできぬし、色々と不便でな。しかし、その気遣い、ありがたく思うぞ」
メルクスはそのトレーを受け取り、テーブルに置くと自らもどっかりと椅子に座り、両手を顔の前で合わせてから、それに手を付けた。
かなり空腹であったことに今さら気が付き、料理の味もさることながら温かい食べ物が臓腑に落ちていく感覚に、張り詰めていた神経がほどけていくのを感じた。
アラーニェには、人間の使用人を二人もつけてもらっており、呼べば食事を持ってこさせることも可能であったのだが、新たなことを学ぶことの楽しさに夢中になってしまっていた。
その甲斐もあってか、こうして食事を取りながらも、≪闇の
「それで、アラーニェ……。頼んでいた例の件は何か進展はあったか?」
「レイザー、エリック、エリエンという三人の人間の行方について、ですね」
「そうだ。色々と迷惑をかけてしまったしな。放っておくのも、いまいち気分が良くない」
「それは……本音なのでしょうか。そのように身を削ってまで、魔力操作の修行をしているのはその者たちを本当は一刻も早く助けに行きたいからでは?」
「さあな、俺がそんなお人好しに見えるか?」
「……その者たちについてはもう諦められるのがよろしいかと思います」
「何かわかったのか?」
「はい。私が各地に放っている≪蜘蛛≫たちの情報によると、そのレイザーとエリックという両名については、このオースレンにいることが分かっています。今や神殿騎士たちの駐屯地と化しているオルディン神殿に囚われているとか……。もう一人のエリエンは王都におり、大魔法院にいるらしいとしかわかってはおりません」
「そうか、二人はこのオースレンにいるのだな」
「メルクス様、ご承知かと存じますが、これは明らかに罠です」
「そうだろうな。連中としても闇雲に各地を捜索しても効率が悪い。冒険者ショウゾウが活動していた記録からこのオースレンに舞い戻る可能性が高いと踏み、待ち構えておるのだろう。二人は、俺をおびき寄せるための餌だ」
「そこまでわかっていながら、二人を助け出そうというのですか。たかが人間にそこまでの危険を冒す価値が?」
「価値があるか無いかは、儂が判断することだ。助けるか、助けないかもな……」
メルクスはそう吐き捨てると、もうこれ以上この件については話し合う気が無いと言わんばかりに、あとは黙って残った食事を胃の中に放り込み始めた。
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