第115話 闇の隷属
「……なるほどな。まだ色々とわからぬこともあるがそちらの事情はだいたい把握した。この短期間のうちにこの北地区を掌握したこと、驚く他はないが、それも人ならぬ≪魔人≫の為せる
どういう仕組みか分からないが、あの五感を狂わす闇も、外から見て決して大きいとは言えない建物の中に、これほど広大な空間を展開しているのも、この二人のうちの、いずれかの≪魔人≫の能力であろう。
「シメオン……あの石頭にお会いになったのですか?」
「ああ、
メルクスはそう言って苦笑を浮かべた。
そのメルクスのもとに≪
「……闇の主。偉大なる解放者よ。どうか、この≪
目を閉じ、首を垂れるアラーニェの顔からは妖艶さが消え、まるで神に祈る乙女のような敬虔さが代わりに感じられた。
「そこのグロアの時と同様に
「……はい。貴方から
「眷属……、たしか
「……それが我が望み。どうか我が身命、いかようにもお使いください」
「儂にはよくわからんが、従うという者を拒絶して、わざわざ敵に回す意味も無い。アラーニェよ、お前を眷属に加える」
「有難き幸せ……」
≪
勧められるままに、メルクスは天蓋付きの玉座に腰を降ろし、壇上から並んで跪く二人の≪魔人≫を
だが、この無駄に広い玉座の間のがらんとした雰囲気は、とても居心地が悪いものであったし、そこで何の権威も無くふんぞり返っている自分が馬鹿みたいに思えた。
富も権力も無く、従う従者は二人。
こそこそと逃げ回り、内心はいつも右往左往している。
今の儂には、この大げさな玉座は、まったく相応しくないな。
メルクスは玉座からすぐに立ち上がると≪魔人≫たちのもとに降りていき、そして言った。
「せっかく用意してもらったが、このような物は今の儂の境遇には合わんな。ふんぞり返って王様ごっこをしている場合でもない。闇の
「メルクス……。この辺りではあまり聞かない名前ですね」
「ああ、この名前の元の持ち主は儂と同じ黒い髪に黒い目をした男であったのだが、その出自はこの国から大陸続きに遠く離れた東の小国なのだと言っていた。その男は、この国で商売をする権利を認められ各地で行商の真似事をしていたのだが、その実態は貧しい地方の農村を巡り歩き、人身売買の買い付けを行う人買いであったのだ。外見の特徴が似通った部分もあり、意気投合してな。身の上話を聞くうちに、成り済ますには色々と都合がいいと考えたのだ」
「わかりました。以後、そのお姿の時はメルクス様とお呼びすることにいたしましょう」
「ああ、儂もお前たちのことは、グロア、アラーニェと呼び捨てる。……そうだな、それとまずはお前たちについてもっとよく把握させてくれ。何が得意で、何が不得手であるのか。それとお前たちの正体や性格についてもな。腹も減ったし、飯でも食いながら、その辺を話すことにしよう。今後のこともあるからな」
「では、私の下僕たちにすぐ食事の用意をさせましょう。その間、まずはメルクス様にお休みいただく部屋に案内いたします……」
アラーニェがそう言って、メルクスの手を取ると、目の前に黒く大きな闇の塊が現れた。
どうやら、この建物の空間内は、この闇の中を出入りすることで瞬時に様々な場所に移動できるらしい。
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