第106話 光魔法

ジャック・ヴェルデ率いる冒険者集団パーティ≪光矢≫との飲み会は深夜遅くまで大盛り上がりだった。

酒を嗜まないエリエンを除く他の者たちはここぞとばかりにたらふく酒を飲み、一人また一人と酔いつぶれていった。

酒に強いと豪語していたジャック・ヴェルデもショウゾウと差しの飲み比べをして撃沈し、前後不覚になった後、ヘロヘロになった仲間たちにようやく連れられ帰っていく始末であった。


ショウゾウは、その飲み代を、迷惑料込みのチップをつけて店に支払い、自らの足で立てぬエリックに肩を貸して、宿に戻った。

レイザーも少し飲み過ぎたらしく、自分の足で歩きこそしていたが、どこかふらついていた。



翌朝、エリックは二日酔いで寝台から起き上がれず、レイザーも具合が悪そうだったので、その日から二日間は完全に休養日にすることにした。

このところ、迷宮に通い詰めであったし、少し息抜きも必要であろうと考えたのだ。

ショウゾウ自身、この王都でやりたいことが多くあったし、なにより四六時中パーティメンバーと一緒では色々と不都合が多かったのも事実だった。


人の目に触れる可能性がある場所では≪魔導の書≫は使えないし、若返りのための精気集めもできない。


「では、レイザーよ。エリックの面倒、すまぬが頼んだぞ。儂とエリエンは、午前中は大魔法院に行き、午後はそれぞれ用足しをする予定じゃ」


「ああ、行ってきてくれ。俺はこれからもうひと眠りする」


レイザーは寝不足も重なってか本当に具合悪そうだった。

もっとも、始終嘔吐して、バケツが手放せなかったエリックに比べればまだマシで、そのエリックもまた吐き疲れて、死んだように眠っている。


「それにしてもショウゾウさん、あんた本当の化け物だな。前々から酒は強いなと思っていたが、昨晩の飲みっぷりは本当にびっくりしたぜ。店の酒が全部なくなってしまうんじゃないかと心配するほどだった。その上、もう朝にはケロッとしてやがるし、あんたの体はいったいどんな造りをしてるんだ?」


確かにそれは自分でも感じていた。

元々酒は好きで、強い方だとは思っていたのだが、昨晩はいくら飲んでも意識ははっきりしていたし、足がふらつくようなことは無かった。


アルコールを摂取したときの心地よい酩酊感と楽しい気分はありながらも酔いつぶれる気配は微塵も感じなかった。

宿に戻って少し寝たならば、それさえも醒めて、体調は普段通りだった。


もしかすると、スキル≪オールドマン≫で奪った数多の人間の生気エナジーのおかげで今の自分はこうした薬物などの影響を受けにくくなっているのかもしれない。


「はっ、はっ、お互い少し羽目を外し過ぎてしまったな。それでは、留守を頼むぞ」


ショウゾウはエリエンを伴い、部屋を出た。




「エリエンよ。昨晩は遅く、寝不足であろう。大魔法院に行くのは後日でも良かったのだぞ」


大魔法院がある郊外へ続く街路を並んで歩きながら、ショウゾウはエリエンに話しかけた。

酒を一滴も口にしなかったとはいえ、エリエンの美しい顔には疲れが残っているように見え、顔色はあまり良くないように思われた。


「いえ、ヨゼフのことも大魔法院に正式に報告しなくてはなりませんでしたし、それに私も久しぶりに訪れるので時間ができたら、ずっと行きたいと思っていたのです」


「そうか。だが無理はするなよ。体調を崩しては元も子もないからな」


「はい、気を付けます。……それにしても、ショウゾウさんは、大魔法院には何か目的があられるのですか?」


「目的か。目的ならいくつかあるが、まずはこの目でその場所を見てみたいというのが一番だな。契約のための魔法陣があればそれを利用したいし、なにか有用な書物があればそれも閲覧したい」


「新しい魔法を契約するおつもりなのですか?」


「ああ、この間、習得した魔法もだいぶ実戦で慣れてきたし、そろそろやれることの引き出しを増やさんとな。箔つけのための高位魔法をどれか一つ覚えようと思ってな。それと、これは昨日思い付いたのだが、光魔法を契約できるか試してみたいのだ」


「光魔法を……ですか?」


「ああ、そうだ。ジャックの奴はオルドの血が少しでも流れていない者には決して、適性が現れないと言っていたが、適性が無くても魔法を契約し、使うことはできるのだろう?」


「ええ、たしかに。使用する≪魔力マナ≫は多くなりますし、制御も難しくはなりますが可能なことは可能だと思います。しかし、光魔法には難点があって、他の属性魔法よりも契約の難易度が高いのです。私も光の神オルディンに願い、魔法を授けてもらおうと考えたのですが、初級の≪光源ラータ≫でさえ、拒まれました」


「ほう、エリエンほどの術者であってもそうなのか」


「はい、やはりそれぞれの魔法神との相性というのは確かにあるようで、私が知る限りでも光魔法の使い手は少なく、ジャックさんのように適性まである方というのは稀だと思います」


魔法の適性は、スキル≪オールドマン≫で殺して奪えば問題は無いが、問題は契約する神だ。


他の魔法使いは、その属性ごとにそれぞれ別の魔法神と魔法の契約を結ぶが、儂の場合は、すべての魔法を魔導神ロ・キとの契約によって得ている。


魔導神ロ・キは、儂に光魔法を授けてくれるのだろうか。


≪魔導の書≫に書かれた説明によると、闇の魔法はすべての属性を備え、万能なる力を有するらしい。


闇光、闇地、闇水、闇火、闇風、闇命。


それぞれの属性を闇の力で反転させ、その魔法本来の効果を引き出すのが闇魔法の神髄。


頂点たる闇魔法とは違い、光魔法は火や水などの他の属性魔法と並列であるという説明を信じるならば、現時点で適性、すなわち属性素質が無くても光魔法を授けてくれそうなものだが……。


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