第71話 群れ為す魔物
くぐもった人の叫び声のような音。
激しく何度も響く、金属扉を叩く音。
それらが途絶えてから、ショウゾウはボスモンスターの部屋から出てみた。
そこには常人であれば目を覆いたくなるような惨状が広がっており、おびただしい数の魔物の死体と冒険者たちの変わり果てた姿がそこにはあった。
「……たす…け……て……」
気が付くと足下に生存者がいた。
先ほどまで扉を叩いていた者であろうか。
顔も血塗れで全身にひどい傷を負っている。
もはや瀕死の状態と言っても良く、放っておいても死にそうだった。
ショウゾウは「苦しかろう。今、楽にしてやるぞ」と声をかけ、スキル≪オールドマン≫をその生存者に発動した。
生存者のその男は見る見る年老いて、恍惚とした表情をして安らかに死んだ。
F級ダンジョン≪悪神の
今のショウゾウであれば、油断さえしなければ単独でもどうにか対処しうる魔物ばかりだが、これが群れを成してくるとなれば話は違う。
この冒険者たちとて同様だっただろう。
普段は≪迷宮漁り≫として、これらの魔物を狩り、そして生活の糧としていた。
その立場が突如として逆転してしまったのだ。
ショウゾウは目の前の惨状を目に焼き付けつつも、もう一度、気を引き締めて歩みを進めた。
ホールのように広くなった場所の中ほどまで来た時、突然、周囲に変化が起きた。
多くの死体が散乱している地面から再び、新たな魔物たちが
先ほどは第一波、これは第二波といった感じだろうか。
「まずいぞ」
ショウゾウは慌てて≪
新たに出現した魔物のほとんどは、ここに散らばっている死体と同様に、犬頭小人や泥人形だった。
魔物たちはすぐに襲い掛かってくるようなことはせず、その場で膝をつき
それどころか、ショウゾウが向かおうとした昇り階段のある方向までのスペースを空け、まるで進路を譲っているかのように映る。
「これは……どういうことじゃ?」
魔物たちの顔は、今まで遭遇してきたものとは異なり穏やかで、唸り声一つ上げていない。
ショウゾウは、恐る恐る周囲を警戒しながら上の階を目指して歩き始めたが、魔物たちは動く気配は一向にない。
D級ダンジョン≪悪神の問い≫の時は、地上に這い出ようとする魔物の背を追う形であったが、その時もショウゾウたちを襲おうとはしなかった。
だが、今回はショウゾウを取り囲んだ状態であり、他の冒険者たちの末路を見るに、絶体絶命とも言える状況であったのだが、これはいったいどうしたことだろう。
ショウゾウは訝しみながらもその場所を離れ、そのまま地上に向かって歩き出したのだが、魔物たちはショウゾウがやって来ると身動きを止め、人型のものなどは、通路の端に退いたり、その場で跪くような素振りさえ見せたのだ。
「よくわからんが、まあいい。敵意が無いのは好都合なことだ」
各階の≪休息所≫にも避難した冒険者たちがいるかもしれなかったので、そこには立ち寄らず、真直ぐ外を目指す形となった。
魔物たちの奇妙な行動のおかげで苦も無く地上に生還することができたが、そこはまさに魔物の大群が、数人の冒険者に襲い掛かっている最中だった。
相変わらず魔物たちはショウゾウには向かってこなかったのでこれ幸いと、そのまま隣の迷宮≪
「うわっ! なんだ、人間か。脅かすなよ」
地下に降りる階段の手前で避難してきていたらしい若い冒険者が怯え切った様子でそこにいた。
よく見ると見覚えがある顔で、その眼つきの悪さにすぐ名前が浮かんだ。
こやつは、ジャン。
一番初めの依頼で一緒だった≪希望の光≫というパーティのメンバーだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます