第64話 偽善者に祝福を

葬儀。


それは生者が死者と別れを告げる場。

故人の死を悼み、死後安らかに眠れるように願う目的であるのは、この異世界においても同様であるようだった。


オルディン神殿からそれほど遠くない墓地の一画にその日、ショウゾウはいた。


周囲には養老院 ようろういんで生活保護を受けている高齢の困窮者たちやその世話をする者たちが参列していて、棺に順に土をかけていく。


棺の中の老婦人はもう長らく寝たきりで、慰問に訪れたショウゾウの手を取り、老衰によって安らかにその生涯を終えた。


もちろんその老衰は、スキル≪オールドマン≫によりもたらされたものであったが傍から見ればそれは自然死としか映らなかったようで、その手から発せられる不気味な光に気が付く者は誰もいなかった。


ショウゾウはこのオルディン神殿が設けた養老院 ようろういんに最近足繁く通うようになり、その日からそこに収容されている人々から少しずつ精気を奪うようになっていた。


一度に吸い尽くして殺すのではなく、会うたびにほんの少しずつ。


「儂もこの通りの年寄り。すぐに同じ場所に行く。大丈夫じゃ、死は恐ろしくはない。恐ろしくはないぞ」


さらには寝たきり状態になっている者たち全員を回り、手を握って励ましたりした。


養老院 ようろういんの者たちは、自分たちの施設に食料などを差し入れてくれていることもあって、ショウゾウをオルディン神が遣わした天の御使いに違いないと噂し、歓迎するようになっていった。


もともとこの養老院 ようろういんで面倒を見ている者たちは、身寄りが無かったり、家族に見捨てられたりした寂しい者たちだ。


こうして頻繁に土産をもって顔を出すショウゾウを歓迎しない理由は無かったのである。



「ショウゾウさん、貴方が来られるようになって、この養老院 ようろういんはとても明るくなりました。貴方の寄付もありがたいのですが、このように皆さんを励ましてくれるその活動が、どれほど人の心を救うことか。この施設に来られる方は孤独な方ばかりです。これからもどうぞその元気なお顔を見せに来てくださいね」


葬儀の帰り際、養老院 ようろういんを任されている女神官にそう礼を言われた。


「いや、寄付などと言える額ではないし、皆を元気づける力など儂にはありません」


「いえ、そんな。先程埋葬された方もショウゾウさんの手を握り、安らかな顔で旅立たれました。この院で暮らす人たちの中には、その光景を見て、自分もショウゾウさんに看取られて死にたいと仰っている人が結構いるんですよ」


「そうなのですか? ただ、儂も身寄りが無く、同じ老人として困窮する者を放ってはおけなくなっただけのことですじゃ。この施設に貢献できることは儂にとっても嬉しいこと。また来ます」


「オルディン神の加護のあらんことを」


去っていくショウゾウの背に、年配の女神官は祝福の言葉を送った。


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